喫茶店(コンセプト・仮題)
その少女は見たところ地元の中学校の制服をしていた。とても物欲しそうな顔をしていて、そこの角砂糖の一つや二つでも投げたくなる。しかし投げたところで「元からです!」と言われそうな背景も持っていた。
「元からです!」
既にマスターが投げていた。
「というかあなたもなんでそこまで考察しているんですか」
開いた口もまだ塞がっていなかった。というかこの謎な地の文言っていたのかよ私……。
「言ってましたよ。」
「はあ、で、うん、勇気のあるお嬢さん、何の用かな」
「大切なお客さんに何の用とは」
「だって、こんな不気味な店に誰が」
「あー、えっと」
振り向くと物欲しそうな瞳が少し潤んでいたので、私とマスターはそこで話をやめた。少女はすっと息を吐くと、話始めた。
「実は猫を探しているんです」
夕日が少女を刺す。よく見ると彼女の影は何か淋しげだった。
「二日か三日、いや一週間かな、それくらいからいなくなって、心配なんです。それで、街でいろんな人に聞いているんですけれど、みんな知らないって」
「その猫の特徴ってあるかい?」
マスターがつかさず聞く。いつものおせっかい焼きである。ちなみにマスターの守備範囲に中学生は含まれていないので、安心である。
「私の守備範囲は可変だよ。で、さっきからボソボソなんだね」
「驚いたのはそろそろふさがります、ってえ?」
「え、あ、特徴ですか、そうですね、ちょっと太ってて、でもそこまでじゃないと思うんですけれど、あと、茶色か黒色か、うーん……」
躊躇はあったものの、見事に黙殺である。この子ならこのお店の常連になれるかも。しかしこの子の言っている猫は、さっきからかなりアバウトである。淋しげな影と共に、口から出る猫のイメージもおぼろげだ。
「その猫は飼っていたのかな」
「はい、家の中で、でも何匹飼っていたかわかんないんです」
「何匹って一気に居なくなったのかい?」
「いや、もしかしたら一匹かもしれないし、二匹、三匹かも……」
作品名:喫茶店(コンセプト・仮題) 作家名:へら