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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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僕らの日常風景

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「おはよう、嘉山。ずいぶん早いんだね。」
翌朝、階段を上っている途中の織に声をかけてきたのは松下司先輩。
この人に恨みはないけれど、なんとなく今日は顔を見たくないと思ってつい目をそらしてしまう織である。
「…おはようございます」
「嘉山、具合わるいの?」
「はぁ・・ちょっと眠れなくて」
「それは、どうしてまた?」
「…いろいろありまして」
古典の勉強に一晩費やしたなんて、とてもじゃないけどこの完璧な人には言えなかった。
「まあ体壊さない程度にしておきなよ」
「はい、ありがとうございます」
「じゃ、また昼休みの定例会でね」
「はい、また後で」
…よそよそしくなかっただろうか?
司の後姿を見ながら考える。
昔から嘘をつくのが苦手だ。思っている事はすぐ顔や態度に出てしまう。




「定例会、始めまーす。」
いつもどおりの松下先輩。そして岡本先輩、柿崎に、自分。
例の見回りは今はもうあまりしていないから尚樹はいない。
「今回は5月に行われる生徒会立候補選挙について。さらに詳しく話を進めようと思います。バーっと言うから、柿崎、メモよろしく」
「はーい」
「まず、生徒会長の立候補は嘉山、それから副会長は柿崎ということでいいんだよね?」
その確認の後にも色々いっていたけれど、ほとんど耳にはいってこなかった。
「嘉山?聞いてた?」
「あ、は、はい!」
…すみません、まったく聞いてませんでした。
「しっかり頼むよ?」
「…はい」
だめだ・・聞いてたどころか、松下先輩の目さえしっかりみれない。
…なにやってるんだ、我ながら。
「そうだぞー、頑張れよー。次期生徒会長」
僕に生徒会長を期待する言葉に耳をふさぎたくなる。
「嘉山、大丈夫か?顔色も悪いみたいだが」
しかも岡本先輩にまで心配をかけて。
「すみません、大丈夫です」
「今日はまっすぐ家に帰ってよく寝た方がいいんじゃない?」
松下先輩は今朝会ったから僕が徹夜したことを知っているし、今日尚樹さんと約束していることも知ってるんだろう。
「本当に大丈夫ですから。気にしないで下さい。」

とはいうものの、その後の話もあまり耳に入らなかった。




授業が終るのが同じ時間の日は約束しなくても、玄関か生徒会室でお互い待っている。
一緒に帰って、尚樹の家に寄り道をして帰るのがいつものルート。
今日は織の方が先に生徒会室にいた。その顔色をみて尚気が驚く。
「なんや、ほんまに顔色悪いみたいやで?大丈夫なん?」
「ほんまに・・って?」
「司と孝志から今日は織の顔色が悪かったって聞いたんやけど」
「…心配をお掛けしてしまったみたいで、すみません」
「そんなことはええんやけどな、無理せんとまっすぐ帰った方がええんちゃう?」
「…僕が寂しいんです。尚樹さんに会えないと。それとも、今日は行っちゃ駄目ですか?」
そんな捨てられたような目でみられると、尚樹は何も言えなかった。
「そんなことないで。ちょっと待ってな。靴履き替えてくるわ」
いつもどおり、尚樹の家へと向かった。



「なぁ、何やってるん?」
二人で一緒にいても、それぞれの勉強したり、たまにはゲームをしたりとやっていることはバラバラ。
今日の織は、予習が終わったあとはでっかい紙を前にうなっている。
「生徒会説明会のポスターです」
「ポスター?」
「新生徒会役員を迎えるのに、生徒会説明会をするんです。それでその案内のポスター書かなきゃいけないんですけど、上手い構図が思い浮かばなくて。」
「あー、俺も一年のとき司と孝志につれてかれて行ったなあ、生徒会説明会」
「そうなんですか?なんで生徒会役員にならなかったんですか?」
「俺はあの二人と違うて、無償ってすきやないねん。ま、考え方は人それぞれやけど。で、ポスターかいとるっちゅーことは、今年の生徒会長は織やねんな」
「……」
返事を返さない織に、なにか思うところがあるのかと不思議に思う。
「もしかして、生徒会長に、なりたないん?」
「柿崎はあの地獄の水泳部で生徒会長職は無理ですから。」
「そうやなくて、織は生徒会長になりたないん?」
この質問にも無回答、と思いきや、織がずりずりと座ったまま尚樹の横にピッタリくっついてきて、尚樹がそっちを無くと織の方からキスをしてきた。
いつもは恥ずかしがってしてくれないのに珍しい、と驚く。
織がしてくるのは、口を付けるだけのキス。顔が離れると、上目遣いで見上げてくる。
これでも理性が押さえられる奴がおったら、そいつは男やない、と勝手なことを思って深く口付けた。



夜も遅くなってくると、自分の親が帰ってくる時間を気にして織が帰り支度を始める。
不思議なことに、尚樹の住むマンションは何時になっても誰も帰ってこない。
そんなことを思いながら、帰宅ラッシュはとっくに終った空いている電車にのって、4駅だけ進んだ。
家まで送るという尚樹の申し出はそんなことまでしてもらうわけにはいかないと断った。

ガタンガタンという単調なリズムの揺れの中で思う。

尚樹と一緒にいるときだけは、最近溜まってる自分に対する苛立ちを忘れられた。
尚樹だけがいつも心に巣食っているこのどうしようもない気持ちを御える事が出来る。

結局。自分は自分の苛立ちを忘れるために尚樹を…利用している…。

そんな風に思わずにはいられなかった。
しかも、尚樹は織のことを楽にしてくれるのに、織は尚樹にいつも我儘を言って心配ばかりかけている気がする。
テストの前だから、しばらく寄り道はできない、とか。
今日だって顔色が悪いのを心配されたばかりか、いつもと違うみたいだと心配をさせてしまった。

なんで、こんな自分なんかと付き合ってるんだろう。

最低最悪。
しかも相手は…学校の王子。
尚樹には他の選択肢がたくさんある。
自分には付き合う資格なんて…ない…。

作品名:僕らの日常風景 作家名:律姫 -ritsuki-