僕らの日常風景
「あの、何してるの・・?」
「ちょっと織先輩を味見したいなって思って」
「は?」
「あ、校内でこういうことするのって禁止なんでしたっけ。でも、先輩に見てもらいたいものがあるんですよ」
そういって、彼がポケットから携帯電話を出して、ボタンを操作する。
「まず、これ見てください」
見せられたのは、携帯のカメラで撮った写真。ピントがずれてて、はっきり見えない。
「これじゃよく分かりませんよね。でも、これパソコンに取り込んで、専用のソフトで処理すると、こんなに綺麗になるんですよ」
再び携帯を見せられる。
「・・・これは」
この間、尚樹さんとの仲直りするためにやった松下先輩の「演技をしている時」の写真。
「窓の外から偶然みちゃったんです。元生徒会長と現生徒会長の秘められた関係。こういう噂って広がるのはやいんですよね。尚樹先輩は知ってるんですか?」
尚樹さんは知ってる、問題ない。
でも、一般生徒に見せられるのは・・・困る。
「確か先輩、校内不純同性交遊取り締まり委員会やってましたよね?取り締まった本人がこんなことしてるなんて生徒会の面目ないですよね」
嫌なところをついてくる。
「消去させて差し上げてもいいですよ」
その言葉に、警戒心は余計強まる。上手い話ほど、何かある。
「でも、その代わりに」
やっぱり、来た。
「先輩の味見、させてください。写真撒かれるのとどっちがいいですか?」
「どっちも、困ります」
言葉だけは気丈に言ってみる。
「それじゃ、僕が勝手に決めます」
ネクタイが外されて、両手を背中の後ろで結ばれた。
あの写真を公開されると思うと抵抗もできない。
Yシャツのボタンが次々と外されていって、前がはだける。
「色、白いんですね。これは、こういうのが映えるかな」
そういって、鎖骨の辺りに赤い痕をつけられる。
「つっ・・・」
思わず痛みに顔をしかめた。
「聞き分けのいい人は大好きです。お礼に、写真撮るだけじゃなくて、気持ち良くしてあげます」
鎖骨のあたりを所々きつく吸われながら舌でなぞられる。
ぞわっととした感覚に声が漏れそうになるのを耐えて、身を捩る。
鎖骨を這う生暖かい感触が今度は胸の突起におりる。
「・・や・・・!」
「とっても、良い声なんですけど、しっかり抑えてもらわないと、声、彼に聞こえちゃいますよ?」
と耳元で彼が言うのと同時に、鍵の閉まったドアを開けようする音がする。
・・・尚樹さんだ。
「あれ?織?いないんかー?」
生徒会室の外から、尚樹さんの声がする。
こんな姿を見られるわけにいかないから、何も返事は出来ない。
「帰ってしまったんか・・?あかん・・怒らせたかな・・・」
廊下を歩き去る音。
「勘違いですね。責任感じてるんですよ、告白されるって分かってるのに東についていったから織先輩が怒ってるって思ったんですね。織先輩、尚樹先輩が新聞部の『我が校の生徒自慢』に載ってたこと、ご存知ですよね?東もその一年生版に載ってるんですよ。隣に並んだら、とっても似合うと思いませんか?」
確かに、似合う・・。似合うけど・・・。
「尚樹先輩が、東君に乗り換えないっていう確証あります?今回は大丈夫だったとしても、これから生徒会で一緒に過ごしてく内になびいていっちゃうかもしれませんよ?」
耳の中に、その言葉が冷たく響く。
「人間なんて、すぐに飽きちゃうモノなんですよ、慣れるとすぐに新しいものが欲しくなる。尚樹先輩だって、例外じゃないはずです」
尚樹さんは・・・そんなことは、しない・・。
「織先輩は、尚樹先輩にとってずっと特別な人でいられる自信、ありますか?」
彼がそう呟いて、行為を再開する。
彼に呟きに、バケツの水を掛けられたかのような感じがした。
ベルトを緩める音と共に下の服に手を入れられて、やっと自分の感覚が戻ってきた。
「何、を・・・?」
「わからないほど、子供じゃないでしょう?一度も経験ないとかですか?もしかして」
からかいを含んだ口調でそうたずねられる。
「その調子だと、尚樹先輩とはまだみたいですね。人にされるのがどんなにイイか、僭越ながら僕が教えてあげますよ」
手で、それをいじられる。経験したことがない感覚に震えが走る。
「・・く・・っ・」
不本意な快感に耐えながら身を捩るけれども、逃れられるはずがない。
体が勝手に反応して、つらい。足に力がはいらなくて、もう自分で立ってるのも限界な状態だ。
足に力がはいらないから、移動することもできず、その場に座り込む。
目の前には、彼の体。もうされるがままになるしかない。
「・・・はぁっ・・」
嫌なのに、随分反応してしまった自分が許せない。
「・・・っ・・・」
ぎゅっと目をつむると、目じりから水滴が零れ落ちた。
「泣かないでくださいよ」
指で涙がぬぐわれる。
「味見にしては、やりすぎちゃったかな。でも、お約束どおり、さっきの写真はしっかり消去しときます」
目の前に出された携帯電話のディスプレイに『画像の消去が完了しました』と表示される。
携帯をしまうと、腕を持ち上げるように立たせられ、服がなおされていった。
Yシャツのボタンをとめられて、ベルトを締める音が響く。
手を拘束するネクタイはそのまま。
「まだ辛いんなら、自分で処理してください。じゃ、俺はこれで。しっかり生徒会役員にはなるんで、今後ともよろしくおねがいしますね」
鍵をあけて、電気をつけ生徒会室を出て行った。
作品名:僕らの日常風景 作家名:律姫 -ritsuki-