僕らの日常風景
自分でって・・やり方がわからないわけじゃない・・。
でも、こんなところで・・・できるわけがない。
やっぱり足に力が入らなくて、床に座り込んでしまう。
「・・・っ・・」
つらい・・・。どうしよう・・自分でやれば楽になれる・・でも・・。
「織?」
ガラガラ、とドアの開く音と共に、聞きなれた自分の名前を呼ぶ声。
「・なおきさんっ・・」
ドアを閉めて、慌てて自分のほうへ来る。
「どないした?」
手の拘束が解かれる
「・・んっ・・」
尚樹さんの目に、一部だけ妙に膨らんだズボンが目に入っただろう。
「これで辛いんか・・?」
言うとすぐに腰を抱いて立たされる。腕を首に回して、体重を預けた。
「規約違反やけど、不可抗力ってことで」
服の中に大きな手が入ってくる。
さっきの嫌な感じの触り方とは全然違って、楽にさせようとしてくれる。そんなにしないうちに体が熱を放出した。
「・・は・・ぁ・・」
「これで楽になったんちゃう?」
「・・・はい」
楽になった体にはもう羞恥心と情けなさしか残らない。
服を調えて、始末をする。
「織、何があったん?」
抱きしめられて、髪を触られながら優しく聞かれる。
「・・・ごめんなさい」
もういろんな事が起こりすぎて、謝罪の言葉しか言うべき言葉が見つからない。
一年生に弱みを握られて、『味見』されたなんて・・・とても言えるようなことじゃない。
尚樹さんについて言われた事も、耳の中に残ってる。
「謝る言葉が聞きたいやない」
「・・ごめんなさい」
そういわれても、謝罪の言葉しか口から出てこない。
「川口雅人ってゆったな・・?」
その言葉を聞くだけで、体に力が入る。
僕の事を抱きしめてる尚樹さんにはそれが丸分かりだ。
「やっぱり。アイツになにされた?」
「・・・何でもないんです」
「何でもないわけないやろ!あんなにされて、なんでアイツのことかばうねん!?」
この人が声を荒立てるなんていうのは、初めて見る姿。
喉から自然に嗚咽が漏れてしまう。
・・・最近泣いてばっかりで・・本当に情けない・・・。
「・・ごめん、織。ホンマに、そんなつもりやなかったんや。言いたくないなら無理に聞き出したりはせえへん」
彼の優しさが、またつらい。
「でも、前もいったやろ?一人で抱え込もうとするのは、織の悪い癖や。俺は何があっても織に対する気持ちはかわらへん・・。一人で抱えるのは辛いもんや。一人で抱えられるのもつらいんや」
・・・その言葉を聴いても沈黙を通せるほど、心は強くなかった。
話をしても、尚樹さんの腕のあたたかさは変わらなかった。
「ごめんな、織。元はと言えば、俺のせいやんな?司とのそんな写真撮られとったなんて」
「それは違います」
「・・なんとか生徒会にならんようにせなあかんな、あの川口ってやつ」
「それはやめてください、公私混同になっちゃいます、あくまで個人の問題だから、生徒会は関係ありません」
顔は見えないけど、尚樹さんがもどかしそうな表情をしたのが空気で分かる。
「そうは言ってもなぁ・・」
「本当に、大丈夫です」
「大丈夫やないやろ」
「あの、聞いてもいいですか」
言葉を続けようとする尚樹さんを遮って言う。
「何や?」
遮ったにも関わらず、聞き返してくれる。
「尚樹さん・・・東君に、何て言われたんですか?」
ちょっと言葉に詰まったけれども、答えてくれた。
「・・・ずっと好きやったって言われた」
「何て答えたんですか?」
「俺にはめっちゃ好きな奴がおるから、気持ちには答えられん言うた」
「・・・それって、誰の事ですか?」
「何分かりきった事聞いてんねん、織のことに決まっとる」
その気持ちは、ずっと変わらないでいてくれますか・・・?
さすがにココまでは聞けなかった。
「・・・なんで、苗字で呼ばれるのが嫌いなんですか?」
一年生には教えなくても、僕には教えてくれるんじゃないかという・・・自惚れ。
少しでも僕が他の人たちと違うってことを確認したいって言う、醜い心。
言いたくないことを聞くなんて、悪いって分かってる。
「親父が気に食わんからや。説明すると長くなるから、また今度ゆっくり話したる」
・・・答えてくれたことが嬉しかった。
「すみません・・こんな事聞いて」
「ええって、いつかは話さなあかんことやったし」
皆には言わない事を話さなきゃいけない・・ってそう思ってくれてたんだ。
それが嬉しい。
生徒会立候補選挙 立候補者氏名
生徒会長 2年 嘉山 織
生徒会副会長 2年 柿崎 佑
生徒会役員 1年 東 有紀
1年 川口雅人
1年 柚木康介
5月おわり、立会演説会後に行われた信任投票の結果、全校生徒の過半数以上の信任を得られたので、立候補メンバーは全員今年度生徒会役員だ。
名目上、生徒会を引退した3年の先輩たちは上皇と呼ばれ、生徒会に影響力を持ち続ける。
このメンバーでの生徒会…非常に不安を感じる。
これからいったい、どうなるんだろう・・・。
FIN
短編連作っていうか1話1話が長編なみやん!
っていう突っ込みは受け付けておりません。
今後もこんな調子で全10編つづきます。
作品名:僕らの日常風景 作家名:律姫 -ritsuki-