伝説の……
I:i――俺
俺には、どうやら好きなやつがいる。幼馴染で、命の恩人だ。
俺にはくだらないプライドがある。たとえばそれは大事な女の子を守るのが男の役目であるとか、告白は男からとか、贈り物はダイヤの指輪で給料三ヶ月分とか、そういうプライドだ。世の中にありふれている、安っぽいプライドだ。
それがどうだ。いくら幼かったとはいえ、川に流されたところを人工呼吸で救われ、水恐怖症になってからはとことん守られて、俺はアイツのためには何一つできやしない。
今だって、全ては意味不明なアイツのダイヤ砕きが原因だが、ガキの様に腹を立てて拗ねているだけなんじゃないか、俺は。
もっと素直になろう。
悪友連中は「お二人の深すぎて端から見たら夫婦喧嘩にしか見えない愛の交換を邪魔しちゃ悪いよな、ははははは」などと言って、だんだんと水没していくグランドからとっとと去っていった。普段から雨の日に傘を貸してくれた試しがないから、期待もしていない。
つまり、幸か不幸か雨の日の俺にとってアイツは既にかけがえのない存在というやつなのだ。家に帰るにはアイツの傘に入れてもらい、気を紛らわせるバカ話で盛り上がるしか術はなかったのだ。もう、遅い。
雨が止み、地面が乾ききったら、謝りにいこう。いや、告白しにいこう。いやいや、もうこの際だからプロポーズしよう。もう指輪も渡したから問題ないだろう。名案だ。
俺はそう心に決めると、降りしきる雨に背を向けて校舎の中へと入っていく。雨が止んだとしても、暮れたグランドが乾くことはない。夜を越えるための寝床を求めて、保健室を目指す。