伝説の……
G:ground――雨降って土砂崩れ
俺は雨が苦手だ。知ってるだろ?
恩着せがましい命の恩人兼なんだかんだと人の世話を焼きたがる幼馴染の愛用傘はデカイ。俺と二人で並んで入っても、すっぽりと守られる大きさで、天気が悪い日はその傘に一緒に入れてもらって帰るのが常だった。相合い傘だとからかわれようが何だろうが、俺にとっては雨の脅威の方が常に勝るのだ。
目の前のグランドは、夏特有の夕立で水没している。指輪事件から、初めての夕立だ。
でも俺は今日、アイツのおきまりの誘いには乗らなかった。少し悲しそうな顔を浮かべて何かつぶやくと、アイツはゆっくりと雨の中を歩き去っていく。一人、……傘だけは下駄箱で呆けたままの俺の傍に残して。
実のところ、雨に濡れない傘があっても、気を紛らわす話し相手でもいないと、雨と水溜まりが怖くて俺は歩けない。何を考えるでもなく、着衣水泳でもしているかのようにビショ濡れの彼女の背中を眺める。
不意に、何か叫びたい気分だ。グランドでハシャいでいる悪友連中のせいかもしれない(今日の活動は、『青春という名の雨に当たって汗を流そう』らしい)。ビショ濡れの、心なしか沈んだ背中に、俺はいつの間にか叫んでいた。今の俺は何を言ってしまうかわからない。
「透けてるぞーーーっ!」
……本当に何を言っているんだ俺は? 悪友連中の視線が一瞬でアイツの方を向いた。あいつらは後でシメよう。
彼女はピタリと足を止める。そのオーラだけで俺以外の視線が明後日の方に向き直るほどの張りつめた空気。
振り返ると、叫び返して走り去っていく。
「バカバカバカ! もう二度と謝らないから!」
振り返った瞬間の、彼女の顔をグシャグシャに濡らしていたのは、どちらなのだろうか。
当然のことだが、雨以上に苦手なんだ俺は。アイツの涙が。