伝説の……
U:u――君に伝えたいのは
近所で評判の歌姫。文化祭の女神。町内会のアイドル。歌手にならないなんてもったいない!
実のところ、それが俺の決闘相手だ。
普段は地味なカッコして、ドジと天然しか目立たないことこの上ないアキだが、祭り好きの性分か、事あるごとにその美声を披露しては、老若男女問わず人気を集めてきた。
ファンクラブも、校内はおろか、街境を軽々と突破して県下一円に広がりつつあるらしい。今日の学外の観客も、ファンクラブのネットワークで集まってきた連中が大半だ。
今だって、たかが女子高生の歌声に何人も泣いている。おいおい。
それに比べて俺は、カラオケの採点機能でも八十点を越えたためしがない。平凡そのものだ。コイントスで順番を決めたものの、アレを聴いた後に俺の出番ってのは、正直酷すぎる。実行委員のバカはそういうところには口を出してこない。グランドが真っ赤に染まる光景が今から鮮明に目に浮かぶ。誰も、俺のために配られた団扇の白い面をあげる奴はいないだろう。
この際、開き直るか。
そもそも、朝のうちに素直に好きだと告げておけば、とりあえず俺の目的は達成だったんだ。それを勢いに押されてこんな途方もないステージまで流された(嫌な言葉だ)のが間違いだった。こうなったら全校生徒の前で砕けることになろうとも、華々しく散ってやるぜぃ。
鳴り止まない拍手とアンコールを背に、アキが朝礼台ステージから降りてくる。入れ替わりに俺が上がる。アキの手を引いて。
「ちょっと、ハル君?」
「一番傍で聞いてくれよ。そのまま集計まで出来て、いいだろ?」
覚悟は、決めた。