伝説の……
N:nobody――誰もいない場所で
雨の間中ずっと校舎にいるだなんて、どうしようもないほど不器用な生き方ね。警報装置の一つでもわざと鳴らせばいいのに、そういうことは決してしない頑固頭。昔からそう、どこまでもカッコつけ。
あの時だって、わたしのためにカッコつけたりしなければ、溺れることもなかったのに。きっとわたしのこと、恨んでるよね。溺れたのを助けることは出来たけど、厄介なトラウマが残って今もこうして苦しんでるんだから。
校舎を見上げれば、わたしたちの教室には少し疲れた
顔が見える。目を見開いて、驚いてるみたい。わたしの勇姿にビビっているのね。いつもの三つ編みもしてないし、わたしだってわかってるのかしら。なんたって今の私は、伝説の延長だから。むん。
次第に日が昇って明るくなる。水はけが悪いこのグランドでも、お昼までには乾きそうな強い日差しの予感。今日は、雲ひとつない快晴だ。決着日和ね。これ以上の舞台はない。
夜明けの校舎、誰も邪魔するものがいない。純粋に二人きり。わたしとアイツだけの世界。
「勝負よ! もはやわたしたちの決着は拳でしかつけられない!」
ドドン! と擬音語が付きそうなかんっぺきな宣戦布告だわ。引け目も負い目も、貸しも借りも、みんな今日で終わりにしましょ。