伝説の……
M:miss――どんまい、俺
ようやく雨が上がったのは月曜日の早朝だった。ちゅんちゅんと鳥が鳴き、たらたらと日が昇る。いい加減にまともな白米を食べたいし、べとつく制服を脱ぎたいし、風呂に入って体中洗いたいし、なによりも自分が天然ボケだと気づいていないアホに会いたい。
くるくると変わるあの顔も、突拍子もない行動の数々も、映画や動物園や美術館でのキラキラした目の色も、俺にはなくてはならないものらしい。どうやら。おいおい、俺ってば青春だねぇ、などと一人つっこみしてしまう程度には疲れている。
とっとと登校時間にならないものか。そしてグランドよ、さっさと乾いてくれ。
三階の我が教室から見れば、グランド一面が巨大な鏡のようだ。うっすらと明るくなった空を写して青く輝き始める。アイツがいたら、これが青だって言うのにな。こうして遠くから眺める分には、なんてことはないんだ。水溜まりなんて。
ぽけ~っと二つの空を眺めていたら、いつの間にか異世界に来ていたらしい。朝練にしても早すぎる。その黒い影は、一直線に駆けてくる。バシャバシャと水溜まりを蹴散らして、波紋を幾百千も広げながら。セーラー服に真っ黒なロングスカートという奇妙な出で立ち。長髪の、美少女。
おいおい、普段の左右でズレた三つ編みはどうした? 校則遵守のひざ丈スカートはどこいった?
つややかな黒髪が、きらめいてなびく。黒いスカートがはためく。顔を出したばかりの赤い太陽が、彼女にスポットライトを当てる。にやりと口の端を持ち上げて、妖しく微笑む――俺のヒロイン。
あぁ、俺ってば、とっくの昔からどうしようもないほど惚れてたんだ。
まるで、現代の魔女といった出で立ちの彼女は、目敏くも一目で俺を発見し、ビシッと人差し指を俺に突き立てて叫んだ。
「出てこい! ばかあほとんちんかんでくのぼうのあほんだらすっとこどっこい変態野郎!」
中身は微塵も変わってなかった。どんまい、俺。異世界でも幻想でもないぞ。