情緒的偏光眼鏡生活
その友人、高木 涼子と対面するその瞬間まで、恵の心中にあったのは、涼子が大衆の面前で土下座して高校時代の愚行を詫びるのを、気にしてないからと言って慰める自分の姿だった。ただ見返してやりたかった。涼子との間のヒエラルキーの転換を図っていただけ。そんなしょうもない思考だった。
約束の時間より1時間前、高校の最寄り駅前に着いた。そして、駅前広場を一望できるカフェの2階、窓際の席を陣取った。恵が座ると、ちょっともしない間に両隣の席が空いたが、恵は深く考えなかった。むしろ席を広々と使える事を嬉しく思っていた。
高校生の時はこんな洒落た所に入るなんて、恥ずかしくて出来なかった。入る必要が無い
から利用しないだけなんだ。そう思い込んで、視界に入らない様にすらしていた場所に、今は堂々と座っている。
恵は自分の成長に恍惚を覚え、知らず知らず顔を蕩けさせていた。脚を高く組み、頬杖をつきながら階下を見下ろす自分の姿は、綺麗だ。
そう思っている恵だったが、他人が見れば、奇抜な服装や締りの悪い容姿、力の入れ方を間違えた化粧、挙げれば限が無い。変態がそこに居た。
そんなことには気付かず、恵はカフェの空気にすっかり酔いしれていた。しばらくして不意に携帯電話が鳴る。急に現実に引き戻され慌てていた恵は、携帯電話を落としてしまった。
床に落ちた携帯電話を拾う。液晶に表示されたメールが、決戦の時を告げていた。
恵は、眼下の広場の隅々にまで眼を配った。涼子が私を探しているはずだ、どこだ。
あっけなく見付かった。やはり、私の事を馬鹿にしていただけ有って、目立っている。まぁ、私の方が目立ってるけど。
交差点に立つ涼子の姿は洗練された雰囲気を持っていたが、恵はまだ、自分が負けているとは思っていなかった。
さぁ、準備をしよう。恵はメールで涼子に来る様に催促して、立ち上がった。