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情緒的偏光眼鏡生活

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早瀬 恵の借金


 高校を卒業してフリーターになってからというもの、数少ない友人達はキャンパスライフに明け暮れて遊ぶ回数は極端に少なくなった。
かといってアルバイトに精を出す程の気力もなく、自堕落に日銭を稼ぎつつ、友人のいない寂しさを埋めるためにMMORPGへと着々とのめり込んでいった。
 週に3回のアルバイト以外は実家から外に出ない状況が半年程続く。そんな生活をしていると、視力が低下し始めた。
 実感し始めても、最初の頃はまぁバイトしか外に出ないしまだ眼鏡はいいや、それに今まで掛けてなかったし恥ずかしい。なんて思っていた。
 が、そろそろ10m先の人の顔を判別出来なくなった頃、バイト先であるホテル玄関で、出口だと思い込み窓ガラスに激突した。これは、火を噴くほど恥ずかしかった。
 流石にこれには参ってしまい、眼鏡を買うことを決心したのだ。
そして初めて眼鏡を買おうとした時に、偶然、今のデザインの眼鏡に出会った。
その時の感動と言ったら、人生でこれまで味わったことのない程だった。MMORPG内で男性キャラクターに求婚された時の喜びすら、塵屑の様に思えた。
 店内に座り込んで、頭を抱えて悩む。このリアルマネーでどれだけ高い装備が買えるだろうか。そんなに値の張る装備を持っていればきっと、ギルド内でも持て囃されるに違いない。
 もしかしたらギルド内でも異彩を放つ1匹狼、既にレベルカンストしたアカウントを持っていて、尚且つ現在サブキャラを育成中、しかし自発的には誰にも話しかけない謎の人物『†災禍†』さんからも一目置かれる存在になるんじゃないか。
 というよりもこんな眼鏡していって変な目で見られないかな。裏で笑われたりしないかななんて考えていたが、店員の素晴らしい褒め言葉の連続にまたまた感動して買ってしまったのだった。
 熱心な店員の勧めで、新しい眼鏡を掛けた時の半身と、全身を撮った写真を持ち帰る。恥ずかしいので消去して下さいと言ったのに、強引に、引換書と共に封筒に入れられた。
なんで渡されたのだろう。家に帰り、じっくりと見直してみた。そういえば眼鏡モデルになって欲しい位似合っていると言われたっけ。
 もしかして、似合いすぎてるから記念に持って行って下さいってことだったのかな?
しかし写真の中の人物に魅力は感じない。化粧も殆どしていないので顔はのっぺり、にも関わらず、眼精疲労から来る目周りの腫れによって眼光だけ異様に鋭い。出掛けに寝かしつけただけの髪は、もう2ヵ月以上美容院に通っていなかったため、好き放題に跳ねている。
 何だろう、どこにも魅力が無い。顔はほっそりとしているのでまだ許容出来る顔をしている、と思う、が、この顔で友人と会えばまず始めに連れて行かれるのは化粧室の筈である。
 そうやって、妙に冷静に写真の女を分析していたが、ふと、頭の奥深くに埋め立てた事実がピョンと飛び出す。
 こ れ は 私 で は な い か!
 今まで鏡なんてまじまじと見た事なんて無かった。だって、他人から見た自分なんて、惨めだろうから。
そう思って現実から目を逸らしていたツケが、今や滝の様な大雨となって、私を跪かせようと強烈に打ちつけたのだった。


作品名:情緒的偏光眼鏡生活 作家名:折戸 黄