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まつやちかこ
まつやちかこ
novelistID. 11072
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ココロの距離

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【8】-2

 彩乃が『奈央子をほっとくつもり?』と脅しをかけた時も、やや沈黙したものの、やはり同じ調子だったらしい。だが、
 『今年中に必ず連絡する。だからそう伝えておいてほしい』
 と言った口調は真摯なものだったので、彩乃はそれを信じることにしたという。歯がゆい気分は変わらないけど、と後に付け加えはしたが。
 「昨日も電話してみたけど、やっぱり留守電だったわ。ちょっと腹立ったから、いいかげん何とかしろってメッセージ入れといた」
 「どんなふうに?」
 「そりゃもう、ドスのきいた感じでね」
 と言って彩乃が実演したので、奈央子も「そんなのが入ってたら怖いだろうね」と太鼓判を押した。
 「でしょ、それが目的だもの。なのに効いてないのかね、あの朴念仁には」
 「……忙しいんじゃないの、まだ」
 実際、たまに見かける最近の柊は、いつも走り回っている様子である。講義には出席しているが、たいてい来るのは直前で、時には遅刻してきたりもする。今日のドイツ語Aでもそうだった。そして、終了後はまたバタバタと荷物をまとめて教室を走り出ていく。
 こちらには声をかける気配がないので、奈央子はほっとしているのだが、一抹の不安はあった。先がわからない不安とでも言おうか。
 彩乃に明言しているのだし、柊も今の状態のままでいるつもりはないのだろう。……だがもし万一、彼の考えが自分や彩乃の期待とは違っていたら。
 柊が何をしていて、どうするつもりなのか予測ができないので、そんなことはないはずだと思いながらも、気がかりな思いを捨てきれなかった。
 このまま、話すどころか見かける機会も少なくなってしまったら――もし、柊が離れていってしまったら。
 そんな不安を口にすると、間髪入れずに彩乃は奈央子の頭をこづいた。
 「バカ。そんなわけないって、大丈夫」
 「でも……なんか不安で」
 「うん、わかる。でも、ほんとは信じたいんでしょ?」
 「……うん」
 「だったら待ってあげようよ、今年中にはって言ってるんだし。もし何もないようだったら、その時はあたしが怒鳴り込んでやるから」
 真剣に言ってくれる彩乃の気持ちが、とても嬉しくて有難かった。
 「わかった。その時はよろしくね」
 そう応じると、彩乃はくすりと笑った。奈央子も微笑み返した。

 土曜日、大学生協は平日よりも1時間早く営業を終える。そして今日はクリスマスイブだ。
 昨日で年内の講義期間は終了し、週明けからは生協も営業時間を短縮して29日以降は正月休みとなる。
 そういうわけで、奈央子の年内のアルバイトも、今日で最後だ。年末年始は学生も当然少なくなるので、学生バイトも基本的には入れない。今日はたまたま、普段いるパートの女性が都合で休んだため、奈央子が臨時で入ったのだった。
 閉店の片付けを終え、職員や他のパートにクリスマスと年越しの挨拶をして、建物を出る。
 外はもう薄暗いが、まだ4時半過ぎである。奈央子は帰る途中、乗り継ぎの中継駅で下車した。
 食事は家で作るつもりだったが、イブなのでケーキぐらい買おうかなと考える。駅ビルの中にある、そこそこ有名な洋菓子店がお気に入りで、月に1・2回は寄っている。
 店をのぞくと、やはりイブのためか数人が順番待ちをしている。並んで待つ間、奈央子はショーケースの中に見つけた「いちごショート」の直径15センチサイズを、少し迷った末に買うことにした。1000円強とお手頃だったし、なんとなくいつもより多く食べたい気分にもなったのだ。
 最後の1個だったケーキを箱に入れてもらい、それを持ったまま、書店といくつかの店を回る。
 自宅の最寄り駅に着いた頃には、6時を過ぎていた。改札を出た途端、凍るような冷たい風が顔に当たり、髪と服を揺らしていく。
 空を見上げると、街灯の明るさを差し引いてみても、星はほとんど出ていないようだった。そういえば予報で、夜は雪かも知れないと言っていた気がする。
 奈央子は早足で歩を進め、マンションにたどり着く。なんとか雪が降り出さないうちに帰れたと安心しながら、部屋に入った。
 その時、携帯がカバンの中で鳴り出した。ケーキの箱を慌ててテーブルに置き、折り畳み式の機器を開く。ディスプレイ表示を見て息をのんだ。
 柊からだった。
 固まっている間にも、呼び出し音は鳴り続けている。はっと我に返り、通話状態にした。
 「――――もしもし」
 『奈央子?』
 ずいぶん久しぶりに間近に聞く、柊の声。名前を呼びかけられてひどく安堵する自分を、奈央子は心の底から感じていた。
 一度深呼吸をして、答える。
 「……うん。なに?」
 『今どこにいる? 家?』
 「帰ってきたところだけど……」
 『ちょっと待っててもらえるか、今から行くから』
 「え?」

作品名:ココロの距離 作家名:まつやちかこ