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まつやちかこ
まつやちかこ
novelistID. 11072
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ココロの距離

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【6】-2

 「奈央子が言うみたいに、イライラしてた気持ちを単純に近くにいた奈央子にぶつけた――望月さんの代わりみたいにしたってのが本当だったら、あんた最低の男だけど」
 身も蓋もない言われ方に、柊はグサリと来た。反論しようとした時、彩乃が「けどね」と口調をいくぶん穏やかなものに変える。
 「なんていうか……羽村がそういうことする奴だとは、あたしには思えないから。思い違いかもしれないけど。だから、ちゃんと確かめたいの。奈央子のためにもね――さっき言ったようなこと、あんたはちょっとでも考えてた?」
 ほんの少しだが、柊はほっとしていた。どれだけ責められるだろうと思っていたが、彩乃の第一の目的はそうではなかった。一応こちらの言い分を聞くつもりでいて、さらに、奈央子の「里佳の代わりにした」という勘違いを(そう思われても仕方なかったが)、彩乃が頭から信じているわけではないとわかり、有難くもあった。
 「おれは――」
 彼女なら、ともかく最後まで耳を傾けてくれるだろう。その思いが柊に、正直に話す勇気を与えた。
 「そういうことは考えてなかった、全然。多少イライラしてたのは確かだけど、あいつが家にきた頃にはほとんど治まってたし、それに……」
 「それに?」
 一度唾を飲み込み、柊は自分を落ち着かせる。
 「……あの時、誰でもよかったわけじゃない。奈央子だったから――奈央子だからそうしたかった」
 他の誰でもなく、奈央子だったから。
 そんなふうに思ったのは初めてだった。 里佳と付き合ってきた間に、キスをしたことがないわけではない……というより、何度もしていた。
 しかしいずれの場合も、どちらかといえばその場の雰囲気で――シチュエーション的にそうしておくかと、頭で考えていた割合が大きかった。
 それが、あの時は全然違った。自分から積極的にそうしたいと、考えるよりも先に感情が体を動かした。今まで、あんなに強く心をつき動かされた覚えはなかった。
 柊の言葉を聞いて、彩乃はこちらの目をまっすぐに見つめた。柊もその視線を正面から受け止める。
 ややあって、彩乃がゆっくりと言った。
 「つまり、それって……奈央子を女の子として好きだってこと?」
 奈央子以外の他の女なら、きっとああいう行動は起こさなかった。そもそも、考えもしなかっただろうと思う。どうしてなのか、ずっと考えていた。
 何度考えてみても、行き着く結論はいつも同じだった。自分にとって、奈央子が特別だからだ――幼なじみだからとか、兄弟みたいなとか、これまで認識していた意味よりも、もっと大事な、強い気持ちで。
 彩乃の言葉で、確信が自分の中で揺るぎないものになった。
 「そう」
 短いがはっきりとした答えに、彩乃はうなずいた。張りつめていた空気が少しだけゆるむ。
 「わかった。それで、これからどうするつもり?」


作品名:ココロの距離 作家名:まつやちかこ