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恋の掟は夏の空

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東京の夏

代々木の駅に7時48分
にーちゃんのマンションからは、都営地下鉄で、新宿まで行って、新宿からはひと駅。だいたい20分ぐらいか。
それにしても、東京ってなんで、こんなに、油っぽく暑いのか。
予備校は駅のまん前だ。
朝の授業は「私立大学直前対策日本史強化講義」
長い名前だ。先生は去年、慶応の問題を当てて評判になった先生だ。
ま、そんな大学は受けないんだけど。

3階の教室に入ると
「おーい。こっちねー」
久しぶりに聞く声の方角に顔を向けると、母方の親戚のおばちゃんのそのまた、よく知らないんだけど親戚の、娘の。うーん。ま、めっちゃ遠縁の「由紀子」が立ち上がって、こっちを見ている。

母とそのおばちゃんは、仲がよくて、そいで、彼女もなんだか、そのおばちゃんにかわいがられてて、俺の家にも子供の頃はなぜかよく泊まりで遊びに
来てた。
彼女の母は小さい時に亡くなっていた。

彼女の席まではどう見ても15mはある。だまって、うなずき、仕方なく1番前の席に近づくと

「すごいでしょ。7時30分から、席とったんだもん。」
「あと、5分遅れてたら、取れなかったよ、ここ」

俺はいくらなんでもせめて前からは5番目以降がいいのだが・・

「1年ぶりぐらいよね。去年、おばあちゃんの法事にいったもんね」
「あれ、夏休みだったもん」

「そうだっけ。で、ここ座るわけ?俺も?」
「あたりまえじゃん。席取ったんだから」
「はい、はい。じゃあ、ありがたく座りますね」
彼女は、少しふくれっつらして、椅子に座りなおした
俺も仕方なく、右の席に並んで座る。

先生が5分遅れで入ってきた。

一通りの自慢話と、得意げな授業が始まる。そして暑い教室にぎらつく視線が1番前に座った俺の頭の上を飛び交いだす。
ここに、いるだけで、もう、明日が試験日のような気がしてくる。

ため息、一つだな。

あと、何回ため息つくと2時間過ぎるのか・・
やれやれ。
俺とは違って、慶応受験するらしい彼女はさすがに、ため息ひとつもつかないな・・


10時ちょうど、学校なら音楽でもなるんだろうが、ここでは突然
「じゃ、ここまでです」
「では、明日また」
で、終了だ。

「頭なんか、俺、いっぱい、いっぱいなんだけど」
「わたしなんか、頭重くなって、地に埋まりそうよ」
お互いに顔見合わせて、少し笑った。それも、お互い引きつった顔で。

「次、私、10時半から英語だよ。劉は?なんだっけ?」
「俺、古文。苦手なんだよね。たぶん、聞いてもわかんないと思うわ」

「じゃ、終わったら、お昼たべよっか?入り口で待っててよ」
「俺、しゃれたとこ行かないからね。」
「知ってるよ。肩こるんでしょ。調べたから、いいとこあるのよお店。大盛りなんだって、友達に聞いてきたから、そこでね。地元の私にまかせなさいって」

そういいながら彼女は4回の教室に向かいだした。俺は隣の部屋らしい。
あれ、背伸びたのか・・


作品名:恋の掟は夏の空 作家名:森脇劉生