恋の掟は夏の空
二人っきりの部屋−5
気がつくと12時になっていた。
ビールは2本ともカラになっていた。
残った最後のビールを飲み干して直美が
「わー、なんか、酔っ払ってるかも・・」
ってほんのり顔で言っている。
ま、半分以上は間違いなく彼女が飲んだんだから仕方ないかもって思っていた。
「劉も顔、赤いよー」
「だから、あんまり飲まないんだってば・・よく飲むのか?」
「ホントはね、あんまり、飲んだことないんだけど。今日はなーんか飲みたかったんだもん」
もともと、二人きっりになると甘えん坊だと思ってたけど、今日はもっと甘えん坊の直美だった。
「俺、コーヒー入れるけど飲むか?」
「うん。ミルクいっぱい入れてくれる?」
「牛乳でいいよね?」
「うん」
俺は、兄貴お気に入りのコーヒー豆を拝借して挽いて、お湯を沸かしてドリップし始めた
夜中にコーヒーはどうかと思うけど、習慣だからなぁ。
振り返って、ソファーの前の直美を見ると、ソファーのクッションを抱えて横になっている。寝ちゃったかもしれないな。
疲れただろうな、今日は、と思った。
音を立てないようにキッチンテーブルで一人でコーヒーを飲んだ。
珍しく、砂糖もミルクも入れていた。
甘いコーヒーだった。
静かに静かに、
「直美ぃぃぃ 愛してるよ」
って小さな声でつぶやいてみた。
たぶん、離れて寝ているだろう直美には聞こえないだろう。
あとで、「愛してる」って抱きしめながら言えるだろうか・・
バカなことを考えていた。
そーっと、静かに静かに直美に近づいてみる。
体を丸めて、寝息をたしかに立てていた。
初めてみる寝顔だった
初めて見た15歳の直美ではなく、18歳の直美がいた。
俺も18歳の顔になったんだろうか・・
初めて意識して直美をみてから、ちゃんと大人になって綺麗になっていた。
今でも、男の子っぽいけど、ちゃんと、大人になっていた。
隣の部屋から薄いシルクの毛布を持ってきて、彼女の丸まった体に優しくかけた。寝返りをうちながら、小さな小さな声がした。
「手握って・・」
俺は黙って彼女の差し出した手を握り締めた。
暖かく柔らかだった。
「すごく、気持ちいいよ」
小さな小さな声だった。
その手を軽く握り返した。
直美もその手を握り返した。
そのまま、彼女は眠りにつくようだった。
残った手でなんとか部屋の電気を消すことができた。
さっき、カーテンをあけた窓に、都会の明かりが差し込んできた。
ぼんやりにしか見えない直美の顔を見つめながら痛くないように手を握っていた。
それがすごく、気持ちよかった。
直美に起こされたのはそれから1時間たってからだった。
やっぱり、キスされていた。