恋の掟は夏の空
二人っきりの部屋−4
湯船に使って、ヤバイと思っていた。着替えのシャツとパンツはベッドルームのバッグの中だった。どうしよう。
直美にとってもらうのは、どうなんだろうか。
普通なのかなぁ。
髪の毛を洗いながら、ずっと考えていた。
もう、出てもいいだろうか。
普通の入浴時間だっただろうかと思いながら風呂場をでた。
バスタオルで体を拭きながら
「直美ぃ!あのさ、スエットその辺にあるでしょ、灰色の?あとさ、向こうの部屋にバッグあるから、そこから、下着とってくんない?」
思い切って言ってみた。
「はーぃ」
言いながら、探しているようだった。
「これでいいのかなぁあ」
歩きながら近づいてくる。
あわてて、バスタオルを腰にまいていた。
「はぃ。これでい?」
がっかりするほど、自然に渡された。
直美は白と青のストライプのパジャマに着替えていた。
「はやく、着替えて、ビール飲もうよ。のどカラカラだもん」
「はやく、あっちに行ってくれないと、なんだけど」
「やだー」
足音を確かめて、すばやく着替える。
リビングに戻ると、コップが二つちょこんとソファーの前のテーブルの上に置かれていた。直美はまだ、タオルで髪の毛を拭いている。
「さ、飲むぞー。ビールとってきてよ冷蔵庫から」
黙って栓抜きと瓶ビールを1本テーブルの上に置く。
「俺、弱いからあんまり飲めないよ。」
「じゃ、私ががんばって飲んじゃいます」
コップにビールを注ぐとものすごくおいしそうだった。
「カンパーイ」
直美の無邪気な大きな声が部屋に響く。
俺が惚れている女は隣でうまそうに、ビールを飲み干した。
「おかわり!」
「はい。どうぞ」
「あー、もっと飲みなさいよ、劉ったら」
「はぃはぃ」
「じゃー、ぐーっと、」
あわてて、一気に飲み干した。
「はぃついであげるね。」
なんか、うれしかった。
ポテトチップがあった事を思いだして二人でそれを食べながら、
冷たいビールを飲んでいる。
カーテンを開けて、新宿の夜景を眺めながら、ほんとうは直美のほんのり赤くなった顔を見ていた。
しばらくすると、いつの間にか横にいた直美は俺をソファーがわりにして、俺の前に座っていた。
右手でコップを持ちながら、左手でずっと、直美の腰に手をまわしていた。
初めてなのに、不思議なほど自然だった。
ずっと、出会った頃の話をしていた。
お互いに好きだったのに言えなくて、友達付き合いをしていた頃の話だった。
「あ、もう1本飲んじゃおう!」
そう言って、直美は立ち上がって冷蔵庫からビールを片手にぶら下げて戻ってきた。
俺の前にちょこんと座ると短いキスをしてきた。
直美は俺の前に座りなおして背中を向けながら
「なんか、私キスしたくてしょうがないみたい。どうしよう」
首筋に後ろから、軽くキスをした。
「わーやだー劉ったら・・」
振り返って、また、キスをしてきた。
今度は長い長い時間だった。
ビールとポテトチップと、甘い髪の香りが交じり合っていた。
初めてキスをした日が1番キスした日になった。
直美の体は、ほんのり暖かく柔らかだった。