恋の掟は夏の空
長い夜−4
公園の入り口が見える。
「入ろうか?」
「やだぁ。キスしようとしてるでしょ?ここで。劉ったら」
なんて事を言うんだろうか。
「キスしようね。って言ったのは直美でしょうが」
「そんな事いってないもん。
俺の鼻を開いた手でつまんで笑った。
「キスしないから、公園で遊ぶ?」
「あいかわらずの劉ですね・・」
瞳の中に笑顔の直美がいた。
「あのさ、この辺に幽霊坂ってあるでしょ。知ってる?」
「うん。この先を左に曲がって、信号を過ぎたら、病院があってその角を右に上がったのが幽霊坂。」
「そこ、いこうよ」
「えぇ。夜にですか・・まじででるらしいぞ」
本当に夜中にはでるらしい、って聞いたことがあった。昼間でもなんか、薄暗いのに、そこは。
「こわいんでしょ?」
「えっと、正直にいいますと、すごく苦手です」
「じゃぁ。おもしろそうだから、絶対行きたいと思います」
なんで、丁寧な言い方になったのか、全然わからなかった・
「じゃぁ。そこの坂の途中でキスしたいと思います。幽霊もビックリすると思います」
大きな通りにでる。8時半になっていた。早稲田から四谷に抜ける道だから、車はひっきりなしに走っていく。
ヘッドライトと、街灯に腕を組んだ、18歳の俺と直美が照らされている。
こんなに長く腕を組んで歩いたのは初めてだった。
なのに、なんでこんなに自然なんだろう。
「病院ってあれ?」
「うわ、そう、あの病院がもう、すでに出そうでしょが・・・あそこさ、神経科・・ってのあるんだぞ。昼間見ても、暗い病院なのに・・なんか・・・」
「うーん。でも病院じゃないんでしょ?でるのは」
「その隣ののぼり坂が幽霊坂・・途中に階段あってさ。昼間1回見たことあるけど暗いんだってば・・昼間でも・・」
「なんか、そんなに劉ってだめなわけ?」
「ダメよ。遊園地のお化け屋敷で子供の頃泣いた記憶あるもん」
かっこわりぃい、って思ったけど、それよりも苦手なんだから。
「ねぇ、ここ?」
「そう」
俺は明るい道路側の車を眼で追いかけながら坂は見ないようにしていた。
「わー。ここは出そうよ。劉」
坂の上をのぞいているらしい。
「だから、でるんだってば」
道路を見ていた
「さ、上ろうよ。キスしてくれるんでしょ?」
「言ってないってば、そんなこと」
しらばっくれるが1番にきまってる。
「ひどーい。初めてキスするんじゃないの?」
「初めてじゃないでしょうが」
さっき、寝てる間にキスしたのに、って思った。あれが初めてじゃん。
「あああ、誰かとまちがえてるでしょ、劉ったら、ひどーい」
「さっき、寝てるときにキスしたじゃん。俺に」
「え、してないよ。寝ぼけてたんじゃないの?」
言葉につまっている俺がいる。
「じゃ、いいや、ちょっと行って来るから、ここで待ってて」
「一人でいく?マジで?どうしても?いく?」
おれは、ものすごい早口だった。
「いいよ、劉は無理しなくっても、泣いたらこまるし」
すっげぇ笑いながら、直美はもう坂を走って上りだして行った。
やべー、マジで思った。
10秒もしない間に直美の大きな声が聞こえた。
「劉ぅぅー。来てぇー」
やべー走り出しいた。
「直美ぃー。」
階段を駆け上がる。直美が坂の上でしゃがんでいた。
「だいじょうぶか?転んじゃったのか?」
息が切れていた。
座り込んで、直美は俺の顔をのぞきこんでいる。
「大丈夫か?」
直美はすくっと立ち上がった。
「大丈夫だよ。劉。早いねー足!」
「あ、だまされた?俺?」
「うん。バッカみたい劉、必死な顔しちゃって・・」
まだ、息がきれているのに、笑われている。
「キスしよう 劉。」
だまって、引き寄せててゆっくりキスをした。
直美の唇は、初めてのキスよりもずっとやわらかく甘い。
直美の手はしっかり、つよく、俺の背中をだきしめている。
俺の手も優しく強く、直美の全てを抱きしめている。
「ずっと、側にいてね劉。今日からずっとずっと私だけの劉になって・・」
唇を離しながら、見つめられた。
言い終わると直美は涙を流しながらキスをしてきた。それは頬に伝わり、口元に触れる涙のキスだった。
泣いている直美は初めてだった。
震えている体を しっかりと受け止めている自分がいた。
幽霊坂の幽霊は僕たちを見て、笑っているのだろうか。