小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

INDEX|5ページ/48ページ|

次のページ前のページ
 

 でも裕美は彼の話に相槌を打つ程度の答えしか出来なかった。裕美はフランスで暮らしていたので、当然"ツール・ド・フランス"のことは名前だけは知っていた。そう、名前だけは......。
 ロードレースにあまり興味がなかった裕美は、フランスの男の子たちがツール、ツールと話題にしていてもまるで分からなかったのだ。確かに昔住んでいたパリで毎年開催されているので、裕美もレースを何度か見たことはある。ただ観戦者が多くて、遠くから眺めることしかできなかった。それに選手が通り過ぎるのもほんの一瞬だけであったため、ほとんどレースの記憶などなかったからだ。
 自転車レースの本場フランス・パリに住んでたとは言え、それが裕美にとっての"ツール"でしかなかった。
しかし楽しそうに"ツール"の話をする彼は、裕美の懐かしいフランスの思い出を呼び起こさせてくれた。裕美の第二の故郷のフランスの話をする彼がちょっと身近に思えてくる。
 裕美も大学を卒業してから、一度もパリへ行っていない。たまにフランス時代の写真を見たりすると、ちょっとホームシックに罹ったような気分になったりもするが、自分が知らなかったフランスの風景を軽やかに語る彼の話は、"パリっ子"の裕美にとってはちょっと新鮮なものだった。
 裕美は思わず呟いた。
「夏のフランスへ帰りたいなぁ。わたしもその『ツール』をもう一度見てみたいなぁ......」
「僕も、もう一度"ツール"を見たいんですけれど......。今はもう仕事で忙しくてとても無理になってしまいましたね」
「そうね、店長さん忙しいそうだものね。でもわたしも......」
 そんな時、携帯電話の音が突然鳴り出した。彼の携帯だ。
 もう、良い話をしていた時に邪魔するなんて、と裕美は思いながらもさすがに顔に出す訳にはいかない。そんな裕美の不満をよそに、「ちょっと、すいません」と裕美に断りつつ彼は電話に出た。
「店長ぉぉ、ちょっと良いですかぁぁ。明後日のツーリングの件なんですけど」
 電話の相手は店長と呼んでいる。この店のスタッフのようだ。声が大きいのか電話の音声設定のせいか、夜静かなこともあって裕美にも会話の内容が聞こえてくる。
「ツバサの風邪が治らなくて、サポートカーを出せる人がいなくなっちゃったんですけど、店長、どうしましょう?」
「ああ、それなら大丈夫。俺が運転するから心配しなくていいよ」
「ダメですよー、店長! 腕の骨が折れてるんでしょう? 万が一のこともあるし運転は止めた方が良いですよぉ」
「うーん、そうだよなあ......。仕方ない、今回はサポートカーなしで、美穂さんにまかせよう。俺から美穂さんに連絡を入れておくよ。それじゃあ......」
 そう言って、彼は再度電話を掛けようとしていた。
 裕美が自分で自分に言い聞かせた。
 がんばれ、裕美! 声を出して! がんばって!
「あのぉ、店長さん。わたしが車を運転しましょうか? 運転は慣れていますし、そもそも今回の件はわたしが原因ですから」
 エライ、裕美!よく言ったわ!ステキよ!
「そんな、悪いですよ」
「大丈夫です。土日なら空いてますから!
 是非お手伝いさせて下さい!」

第2話『峠への誘い〜 美穂姉え、わたしもロードバイクに乗れるかなぁ?』

「おーい、こっちやあ。よく来たなあ。タッキーから話は聞いとるで!」
 朝8時半、カーナビを頼りに裕美は何とか待ち合わせのコンビニに来ることが出来た。
 同じ自転車用のユニフォームを着た集団が既に集まっている。それが今回裕美が同行する自転車チーム人達だ。彼らのユニフォームには"WALKURE"『ワルキューレ』と書かれている。あの店長さんのショップと同じ名前だ。彼らに間違いない。
 裕美に声をかけたのは、そのスポーツバイクショップ『ワルキューレ』で彼と一緒にいた女性だ。裕美は今度の自転車ツーリングで車を出すということを聞いただけで、今日これから一体何をするのか殆ど聞いていない。それに彼らについて何も知らないので、彼女が居てくれて少し安堵したのだった。
「おはようございます、美穂さん! 店長さんからは車でこのコンビニに来るだけで良いと言われているんですけど......。わたし今日は一体何をすれば良いんでしょうか?」
「ええっと"裕美ちゃん"だったけな? わたしのことは"美穂"で構わんよ。まあみんな"美穂姉え"とか呼んどるけどな」
「あ、はい、美穂さん。わたしも皆に"裕美"って呼ばれてますから」
「ハハハ......、だから、美穂でエエって! まあ今日は裕美に荷物運びとサポートカーをお願いしたいんや。ほら、皆自転車で山中湖まで行くんやけど、泊まりなんで結構荷物とかもあるからな」
 本当に車を出すだけの仕事のようで、裕美は少し安心した。
 でも、"山中湖"へ行くって一体何のことかしら? 富士山の......、山梨県の山中湖じゃないわよね? ここは多摩とは言え、一応東京都なんだけど、わたしの聞き間違いからしら?
 そんな裕美の心配をヨソに、美穂が声を掛けてチームの男達を集めていた。
「おーい、男ども! 今回サポートカーを出してくれる裕美ちゃんや! えらい美人やで。みんなこっち来いやあ――!」
 すると彼らチーム"ワルキューレ"の男達は堰を切ったように、裕美の回りに集まってきた。
「こんにちはー! 裕美ちゃんて言うんだ。可愛いねぇ。今日はよろしく!」
「話は聞いてるよ。弁護士なんだって? 頭良いんだねえ、カッコいいじゃん!」
「うおぉー、車はルノーじゃん。赤いフランス車なんてオッシャレ――!」
「趣味が合うねえ! 実はオレもフランス車に乗ってるんだ。今度一緒にドライブしようよ!」
「背も高いし、スタイルも良いねえ。ロードバイクは乗ってるんでしょ? 一緒に走らない?」
「裕美ちゃん、もちろん今日は泊まっていくんだよね。バーベキューも出るよね?」
 えー、そんなぁ! いきなりナンパされるの!? 荷物運びじゃなかたの? 今日は合コン!
 余りにもスピーディーで、かつ女に馴れた感のあるアプローチに、裕美も流石に返す言葉もなかった。唯のナンパぐらいなら裕美も軽くあしらうことはできるが、彼らは我先に争う様に直球勝負で声を掛けてくる。そんな手慣れた男達の集団に囲まれては、とても裕美では対処しきれるものではない。さすがに帰る訳にもいかないが、誰かに助けて欲しい!
 お願い、 美穂姉え! 裕美は美穂の裏に隠れて、美穂の"援護射撃"を期待するしかなかった。
「もう、あんたらもエエ加減にしい! せっかく女の子が来てくれたのに、お前らがやり過ぎたら帰ってしまうで! まあ裕美、こいつら冗談が上手いさかい、気にせんでや」
「ええ? 本当に大丈夫ですよね......」
「大丈夫やって! まあこいつらも美人が来たもんやから、ちょっと興奮しているだけだって」
 美穂に諌められてか、男達も今度は落ち着いた様子で裕美にフォローを入れ始めた。流石にちょっとやり過ぎたかと思ったようだ。
「いやぁぁ! 裕美ちゃん、驚かせちゃってゴメンね。皆が考えていたよりも可愛かったもんだからさー!」