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恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

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「ジャージは気にしなくても良いですよ。それよりエリカさん、血も止まりましたし傷は大したことはないですけど、撮影は中止にしましょうか?」
「滝澤君、スタッフを集めるのだって大変なんだから! そんな訳にもいかないでしょう。カメラさん、ちょっと大変かも知れないけど、怪我をした反対側だけから写真を撮ってくれるかしら。怪我した所が写らなければ平気でしょう」
 裕美から見ても意外だった。尻に敷くように彼をあしらっていたようなエリカが、意外なガッツを見せたからだった。
 当然、彼も驚いたようだが、エリカのプロとしての姿に共感したのか、少し嬉しそうな顔をしたことを裕美は見逃さなかった。
「エリカさんがそう言うのなら......。少し痛むと思いますが、頑張って下さい。僕も出来るだけサポートしますから」
 何よ、それってわたしに言ってくれたことと同じじゃない。
 彼って自転車に乗れて、ガッツのある女なら誰でも良いの?
 ホノルル・センチュリーライドで彼が励ましてくれた言葉は、裕美にとって大切なキズナだったのに。
 それがエリカにも......。
 どうしよう? 彼を取られちゃう!
 エリカの所へ行っちゃう!

***

「美穂姉え、お願いがあるの!」
「裕美ぃ、なんや一体、やぶからぼうに?」
 裕美は、女性プロロードレーサーの美穂に会いに行った。美穂は彼のことをよく知っているはずだし、もう頼れるのは美穂しかいない。
「ああ、エリカね。話は聞いたことがあるなあ。なんかタッキーが雑誌の取材でモデルと一緒に仕事しているらしいやん」
「唯の仕事じゃないのよ――! エリカって彼に気があるのよ! 彼もエリカのことを気に入ってるみたいで......」
「ははぁー、それで裕美はタッキーを取られたくないってことやな。でもタッキーは難しいやろ。仕事が忙しいから、裕美が誘っても相手をするヒマもないからなあ。ロードバイクでアプローチするしかないやろ。まあ今度のヒルクライムで良いところを見せるのが、タッキーには一番のアピールやな」
「でも美穂姉え、それだけじゃあダメなのよ。自転車の話ができるだけの"お友達"のままで終わっちゃうわ!」
「それは違うなあ。裕美はタッキーにとってはまだまだ"お客様"や。まだ"お友達"にもなっておらんで。今の裕美の実力じゃあ、タッキーと一緒に走りに行くこともできんやろ。裕美がせめてタッキーの後ろに付いて走れるくらいにならんと、いつまでたってもお客様のままや。そこそこ走れる所を見せて、まず"お友達"に昇格せなあかんなあ。まあ先は長いわなあ」
「そんなあ......」
「まあ、トレーニング方法は今教えてあげるさかい。ちょっと走ってみようか。心拍計は付けてるよな?」
「うん、一応」
 二人はサイクリングロードをゆっくりと走り出した。
「裕美、LSDって言葉を覚えとるか?
 "Long Slow Distance"『ロング・スロー・ディスタンス』ってことやけどな」
「うん、覚えてる。ゆっくり長い距離を走るってことでしょ」
「そうや。この前裕美が山を登りきれなかった原因は、ゆっくり走っていなかったからやな」
 裕美は美穂の言っていることが理解できなかった。あんなキツイ山道を走るためには、相当ハードなトレーニングが必要なはずだ。
「どうしてなの、美穂姉え? それって逆じゃないのかしら?」
「ゆっくりでええんよ。人間の身体ってのは不思議なもんでなあ。身体が出来てない内から、ハードなトレーニングをやっても効果は全くないんやわ。筋肉がもっとパワーが出るようにするには、それこそキツイ運動をせなアカンのやけれど、有酸素運動能力、つまり酸素をより多く身体に運ぶ能力を上げるには、最初はあまりキツイ運動はしない方がエエンよ。ほら、裕美も山を登りきれなくて息が上がってしまったやろ。それは有酸素運動能力が足りないってことや」
「でも、ゆっくりってどれくらいのスピードなの? 美穂姉えの"ゆっくり"って本当はスゴイ速いんじゃないの?」
「心拍計を見てみ。いまどれくらいになってる?」
「えーと、140bpmって出ているけど、これってどうなのかしら?」
「それじゃあ、も少しスピードを落とさなイカンなあ。裕美なら1分間の心拍数が130前後くらいがLSDのレベルやわ」
「ええ、そんなゆっくりなの? ウソじゃないの美穂姉え?」
 裕美には、俄に信じられなかった。今でも十分"ゆっくり"したペースだ。これ以上ペースを落とせば"ゆっくり"どころか、"遅い"と言いたくなるレベルである。
 『スピード・フェチ』?の裕美にとっては、むしろ逆の意味で"我慢"をしなくてはならない速度だ。
 これでそんなに速くなることが出来るなんて信じられない。
「ウソやないよ。このLSDをやらない限り、ヒルクライムを登れるようにはならん。平地を走ることは出来るが、坂になるとからきしダメになる人がおるけど、それはLSDをやってないからよ。裕美もそうやろう?」
「ウン、確かにそうだったわ。坂になると『ワルキューレ』の人達に全然付いていけなかったの」
「でもそれなら、みんな速くなってるんじゃないかしら? LSDだけで速くなれるなら、他のみんなもビュンビュン走っているはずよ」
「それはなあ、ちょっとトリックがあってなあ。このLSDはまあ、半年は続けなくちゃ効果が出ないんよ」
 半年、6ヶ月!
 ナルほど、そうゆう"トリック"があるからなのね?
ゆっくりで楽ではあるが、決してタダではない練習方法だけに、逆に美穂の言うことを信じることが出来た。
 でも......。
「でも、美穂姉え。それじゃ大会に間に合わないわよ。どうれば良いの?」
「それは個人差があるからなあ。それに今まで裕美が練習で走ってきた"貯金"もあるからな。本番まであと2ヶ月。どれだけ裕美が練習できるかや。毎日1時間バイクに乗ることが目標やな。毎朝、早起きして朝練するとエエ。朝走ると気持ちエエよ。朝飯も美味くなるしな」
「そうね。運動するから甘いものを食べても平気よね。毎朝、甘いチョコレートパンを食べちゃう!」
「そうそう、その調子や。それと裕美にタッキーを落とす最後の手段を教えたる......」
「え、一体なに? 美穂姉え?」
 そんな彼を落とす方法なんてあるの?
 でも、美穂姉えの言うことなら間違いないはず!
 きっと彼をわたしのところへ振り向かせるに違いない。
 裕美は息を飲んで美穂の言葉に耳を傾けた。
「レーパンや」
「え、レーパン? 一体どういうこと?」
 裕美は美穂の言うことが理解できず、戸惑ってしまった。
「裕美が履いているスカートを脱いで、レーパンだけにするんや。ロードバイクに乗っている男はレーパンが好きやからな。裕美はスタイルも良いからレーパンも似合うはずや。レーパンを履いて、もう少し生足とヒップをタッキー見せてやらんとなあ......」
「そんなあ、美穂姉え。 恥ずかしいわよ! レーパンなんて、身体を全部見られてる様なものじゃない!」
「だから男にも"効く"んやないか?
 まあミニスカートも新鮮で悪くないけど、もっと短くしないとな。
 これはタッキーに効くでえ......」