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恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

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 仕事優先が当然とは言え、折角"彼"のためにタルトを作って来たのに。他の女に彼を取られたのでは裕美も流石に落ち込んでしまう。
 しかもそのエリカも彼のことをかなり気に掛けていることは間違いない。
 エリカはプロのモデルだ。
 自分のファッションにそれなりのポリシーを持つモデルが、スタイリストやカメラマンでもない、素人の男性にアドバイスを求めることはありえない。彼の好みに合わせたいという女の強いサインに他ならないからだ。
 彼を取られちゃう......。
 裕美はそんな予感から、急に不安になってしまった。

***

 裕美は次の休日に『ワルキューレ』に来てみた。特に何かの用があった訳でもない。
 ただ彼とエリカの関係が気になって仕方なかった。無論、彼に二人の関係など直接聞けるはずもない。でも裕美としても、やはり我慢出来るものでもなかった。
「あのー、店長さんこんにちは......」
「あ、裕美さん。こんにちは。先日はすいませんでした。せっかくケーキまで持ってきてもらったのに」
「いえ、そんなぁ。こちらこそ仕事の邪魔をしてしまったみたいで。あの女の人って、Cancanによく出てるモデルでしょ?」
 裕美はそれとなくエリカのことを聞いてみた。
「そうなんです。エリカさんって言って、結構有名な人なんですよ。裕美さんも同じファッション業界にお勤めですからご存知ですよね。そのCancanで女性向けのロードバイクの特集を組んで貰ってまして、それでウチの店が手伝うことになったんです。女性向けの自転車の話も書かれてますから、裕美さんも読んでみると面白いと思いますよ」
「ふうん、彼女もロードバイクに興味があるんだあ?」
 裕美はさりげなく、エリカのことを聞いてみた。
「ええ。最近、ロードバイクに乗る女性が増えているんですけども、彼女もスタイルを良くしたいということで興味を持ったみたいです。彼女、元々体育会系で、身体を動かすことも好きみたいですから、今どのバイクを買うか相談しているくらいなんです。もし『ワルキューレ』のチームに入ってくれれば、女性のロード仲間も増えますから楽しくなると思いますよ。裕美さんも同じ業界で働いているし、仲良くなるんじゃないですか?」

 ええ!?
 店長さん、そんなエリカと仲良くなれる訳ないじゃない!
 でもエリカがロードバイクを買って同じチームに入ったら、わたしますます不利になっちゃう。しかも店長さんたら、エリカがロードバイクに興味を持ったことを素直に喜んでいるし......。
 裕美は彼とは、店長と『お客様』の関係でしかないことを歯痒く思えてきた。
 しかしそれも裕美には如何しようにない。彼とは自転車以外の接点がないからだ。
 裕美が休みの土日も彼はお店で仕事となってしまい、二人のプライベートな時間を作ることなど出来ない。結果として、裕美からは自転車以外のアプローチを掛けれなくなってしまっているのだ。彼が裕美の気持ちに気が付かなくても無理もない。
 そこに美人のモデルのエリカが。自転車でも仕事でも、彼が休日の時も一緒に話をできる彼女が、裕美を一気に飛び越えてアプローチを掛けてきたのだ。裕美が圧倒的に不利だ。
「それに彼女、自転車のイベントにも参加したりしますから、そこでもウチで手伝うことを頼まれているんです」
「イベントって、何かあるんですか?」
 裕美は自転車のイベントなど興味はないが、上の空で彼の言うことに相槌を打つしかない。
「ええ、今度ヒルクライムのレースがあるんです。僕もそのレースに参加するんですが、そこで彼女は司会やセレモニーの......」
「ヒルクライム? レース? 店長さん、それってわたしも出れるのかしら?」
「ええ、もちろん参加できますよ。
 でも裕美さん、レースですよ! しかも裕美さんが苦手なヒルクライムですけど」
「出るわ!! わたし、そのレースに出るから!」
「裕美さん、本気ですか?」
「本気の本気よ、店長さん。名誉挽回のチャンスだわ! この前のツーリングは『ワルキューレ』の皆に迷惑かけちゃったけど、今度はわたしも走れるってこと見せちゃうんだから!」
彼とエリカを二人きりにさせないから! わたしもレースで走れるところを見せて、エリカよりわたしに振り向かせて見せるわ!
「うーん、分かりました。ヒルクライムなら最後まで登り切れなくても回収車が助けてくれますから、多分大丈夫でしょう。でも、くれぐれも無理しないで下さいね」
「分かったわ、無理しないから。でもわたし頑張るから、店長さん、応援してね!」
「ハハハ。そうですよね。出るからには頑張らないと。他のお客様もこのヒルクライムレースに参加するので、僕も引率で出ますから、裕美さんのこと応援しますよ。でも......」
「店長さん何かしら? まだ心配なことがあるの?」
「そうですね。出来れば、心拍計があった方が良いと思うんですけれども」
「心拍計って何なの、店長さん?」
「心拍計、つまり英語で言うとHeart Rate Monitorと呼ばれているもので、人間の心拍数を測る機械のことです。キツい運動をすると誰でも胸がドキドキして息が上がってしまうものですが、それが心拍数が上昇しているということです」
「そうそう、この前に坂を昇った時もそうだったわ。胸がドキドキしてスゴイ息が苦しかったの!」
「それが無理をし過ぎた状態ということですね。ですから無理のない範囲で走り続けることができるように、この心拍数をチェックしながら走る必要があるんです。それにヒルクライムですから、坂の角度が分かる斜度計が付いたものの方が良いでしょう。このGarminというメーカーの心拍計がお勧めです」
 ふーん、ロードバイクって意外とハイテクなのね。
 心拍数に斜度計ね。えーっと、スゴイ! GPS機能まで付いているものもあるんだ。
 だったら......。
「店長さん、こんなスゴイものがあるなら、もっと速く走れるのはないの? 坂でも楽に速く走れる道具って?」
「ええ――! 裕美さん、確かに速く走れるための機材はありますが、数分程度の差ですし。それに楽に走れる道具というものは、ちょっと......。レースで電動アシストを使う訳にはいきませんから」
「少しで速くなるならイイの! 何か教えて!」
 エリカに差を付けなきゃいけないんだから。少しでも良いところを彼に見せなきゃ! でないと、わざわざ辛いレースなんかに出る意味ないもん。
「それでしたら、ホイールを軽量化するのが一番ですが......。こちらになりますけど......」
 裕美の眼にまた信じられない数字が飛び込んで来た。
 ディスプレイには、20万、30万円数字を掲げた自転車のホイールが並んでいる。
 え? Deja vu?〈デジャヴ?〉
 裕美はデローサを買った時のことを思い出した。
 うそ―! ロードバイクのホイールってこんなに高いの?
 幾らレース用のホイールだからって信じられない! 車のアルミホイールより高いじゃない!
 裕美の表情を見て、彼も察したのかフォローを入れて来た。