恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス
「すいません。わたしが遅くて迷惑をかけてしまって......」
「いやいや、遅くたって全然悪いことじゃないんだよ。遅い人ともペースを合せて走ることもチームとして大切なことだからね。
只さあ、自分の実力を過大評価してチームのみんなを混乱させるってのは感心しないなあ。やっぱりチームワークってもんがあるんだからさあ」
「すいません。わたしが強がったことを言ったばかりに......」
「いやいや、裕美ちゃん。そんな謝ることはないんだよ。ただ仲間として、今度俺達が困った時にはさ、サポートしたりアシストして欲しいんだよね」
「ハイ......。もちろんわたしに出来ることなら何だってします......」
「うんうん、何でもしてくれるよねぇ――。
オーイ、裕美ちゃんが今夜の俺達の"オカズ"になってくれるってぇぇ!」
男達は視線を一斉に裕美に集中させた。
「何? 裕美ちゃん、俺達の為に脱いでくれるの?」
「オオ、美人のごちそう! 裕美ちゃん、サイコー!」
えー!? わたしがオカズって何よ?
イヤー、わたし何をされちゃうの?
男達は盛り上がるが、裕美は自分を"オカズ"、"ごちそう"呼ばわりされては、身の危険を感じざるを得ない。
「店長さん、テル君、ユタ君。助けてぇ!」
裕美は必死で三人に助けを求めるが、皆タカシのイジリ癖を知っているので特に慌てもせず、逆に笑いを堪えるのに必死のようだ。
「大丈夫ですよ、裕美さん。タカシさんは冗談を言うけど、そんな変なことはしませんから」
「そうですよ。みなさん今日だってホント裕美さんのことを心配してたんですよ。タカシさんだってセクハラはしても、痴漢なんかしませんてば。大丈夫ですよ。いざとなったら僕らがいますから」
「本当よね。絶対、助けてよぉ!」
「ウソウソ。裕美ちゃん、冗談だよ、冗談。脱げなんて言わないからさあ。オカズってのは"酒の肴"ってことだよ。今夜は裕美ちゃんが、皆のイジられ役ってことでさあ。今日はそれくらいやって場を盛り上げてよ」
皆に迷惑を掛けた負い目もあって、裕美はもう諦めざるを得なかった。
「わかりました......。もう、オカズにでも何にでもして下さい!」
オオォ!
パチパチ、パチパチ!
裕美のセリフに男達がどよめき拍手をする。
「それじゃあ、裕美ちゃん、まずは自己紹介から行ってみようか?」
そんな彼らの質問に、裕美は中・高校時代、フランスに居たこと、大学から日本に戻って弁護士になり、今ロワ・ヴィトンで働いていることなどを話した。
「裕美ちゃん、今、付き合ってる男はいるの?」
裕美は"彼"のことをチラっと見ながら、ちょっと不機嫌な様子で答えた。
「今は、いませんけど!」
「じゃあ、今まで何人の男と付き合ったぁ?」
「うう......、そんなこと言える訳ないじゃない!」
「それじゃ、三人?五人? それとももっと? 裕美ちゃん美人だしさあ、頭も良いんだから男がいない訳ないじゃん!」
「そんな遊んでなんかいないわよぉ! フランスから帰ってきたばかりで、日本語がまだ変でうまく話せなくて乗り遅れちゃったんだから! それに弁護士の勉強でも忙しかったんだもん。
もうあなた達最低よ! こんなこと言わせて――!」
............。
「乗り遅れた?」
誰かがそんな言葉を口にした。
「乗り遅れちゃったの? 裕美ちゃん?」
裕美の「乗り遅れた」という言葉を聞いて、周りの男達が皆一斉に裕美を見つめた。
全員の視線が裕美に集まる!
「えっ、あのぉ......。
みんな誤解しないでね。そんな意味で言ったんじゃないのよ。わたし変な日本語を言っちゃう時もあるし......」
............。
オオオォォー!! 裕美ちゃーん!!
暫しの沈黙の後、一斉に男達のどよめきが響いた。
「それじゃあ裕美ちゃんオレと付き合おうよ!」
「オレもオレも!」
「裕美ちゃん、俺が初めての男になってあげるから!」
そう言って、彼とテル、ユタ以外の男全員が手を挙げて裕美にオファーをしてくるのだった。
「ウソー! 何よ、それ? 結婚指輪をしてる人だっているじゃない?」
「俺達、みんな心は独身、年は二十歳、アラハタよー。だからいくらでも裕美ちゃんと付き合っちゃうよ!」
キャー! 何なの、この人達? こわーい!
でも裕美はこれだけ目にあったが、不思議と彼らに嫌悪感を抱くことはなかった。
彼らと居るとノリが良くて楽しい気分になるし、それに彼らは裕美にセクハラ?はしても、今回裕美が遅れて迷惑を掛けたにも関わらず、非難めいたことを言う人は一人もいなかったからだ。裕美は不思議と彼らのことを信頼できるようになっていた。
この人達と変な関係になっちゃったな......。
性格は全然合わないし、タイプな人は一人も居ないのに。
でも楽しいから良いかな? そう思いながら裕美はお互いに助け合う仲間とのキズナを感じていたのだった。
「まあ、皆さん。裕美さんをあんまりからかわないで下さい。女の子なんですから、程々にしないと......」
"彼"が裕美へのセクハラを見かねたのか、助け舟を出してくれた。
「タッキー、良いじゃんよ。みんな何だかんだ言っても、裕美ちゃんのこと気に入ってるんだからさあ!」
「そうそう。こんな美人でロードバイクに乗る根性もあるしぃ。なかなかこんな女いないぜ。タッキー、お前は裕美ちゃんより、エリカの方が好みかよ?」
裕美は"エリカ"という女の名前を聞き逃さなかった
えっ? 店長さん、エリカって誰?
彼女がいるの? だからわたしになびいてこなかったのね。
第6話『愛と美の女神 ヴィーナス誕生 〜 店長さんは、レーパンがお好き』
「お・は・よ・う、ツバサくん。店長さんいるかしら?」
裕美はツバサにちょっと嫌味を効かせて声をかけた。
ツバサもいつもの裕美への不遜な態度はどこへやら?
この時ばかりはかなり気まずそうだった。
「ああ、裕美さん。いらっしゃいませ。店長なら奥にいますよ。
アハハ......。この前のツーリングはヤバかったらしいっすね」
先週、ツバサの勧めで裕美は秩父へのロードバイク・ツーリングに参加した。しかし裕美の実力以上に厳しい山岳コースであったため、裕美は途中で全く走れなくなり、車で助けてもらう事態までになったからだ。
「ハハハ。でも焼肉は美味しかったでしょう? シロクマパンでも裕美さんかなり気に入ってたって......」
「もう! そんなことじゃ誤魔化されないんだからね。本当に大変だったんだから!」
「すいません、裕美さん、許して下さい。あー、店長、店長! 裕美さんが来てますよ――!」
もう、ツバサ君たら本当に調子が良い。"彼"の前じゃこれ以上ツバサ君に何も言えないことを知っていて呼ぶんだから。
でもまあイイわ。"彼"に会うために今日はお店に来たんだし。
「裕美さん。いらっしゃい」
「あの、店長さん。この前はわたしのせいでご迷惑をお掛けてしてしまって......。本当にごめんなさい」
作品名:恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス 作家名:ツクイ