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恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

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 引き返すといっても、半ば道も分からなくなっているし、もう体力も限界に近く、途中降りてきた坂を登れる自信もない。みんなも待っているし、荷物もあるから先に進まざるを得ない。
 しかも今回裕美は携帯を、"荷物になるから"ということで、置いてきてしまっているのだ。助けを呼ぶこともできない。
 どうしよう、わたし? このままじゃ帰れなくなっちゃう!
 誰か助けて......。
 裕美が弱気な言葉を呟いた時、後ろから車が軽くクラクションを鳴らし停車した。
 アレ? あの車はルノー?
 車もほとんど通らないこんな山道で、どうてしフランス車が......?
 裕美も疲れの余り意識が朦朧としている。"彼"から声をかけられて初めて事態を認識した。
 もしかして、店長さん......?
「裕美さん、大丈夫ですか?」
「えっ、店長さん!? どうてしここに?」
「やっぱり山で遅れてしまったんですね。もう大丈夫ですよ」
「ありがとう、ありがとう・・・、店長さん!」
 裕美は思わず彼に抱きついてしまった。目も涙で溢れている。
 いつもの裕美なら男の人に抱きつくことなんてありえない。、
 メイクも一体どうなっているか分らない、こんなボロボロになった姿を見せられないと隠れているだろう。
 本当に助かったという安堵の気持ちが、"女の恥"を上回ったようだ。
「裕美さん、怪我はありませんか? 自転車を押していた様ですけど」
「ええ、転んだ訳じゃないから......」
「そうですか! 怪我がないなら良かった。これ以上走ることは無理でしょう。さっ、車に乗って下さい」
「あっ、はい......」
 裕美を車に乗せると、彼は『デローサ』を慣れた手つきでトランクに詰め、携帯で話し始めた。『ワルキューレ』のメンバーに裕美が無事だったことを連絡をしているようだ。
「店長さん、ありがとう。助けてくれて。もう、本当にダメかと思ったの......」
「ええ、裕美さんが皆に付いて行けるか心配だったので、タカシさんに電話をしてみたんです。そうしたら裕美さんがいないって聞いて、急いで車で追い駆けたんですよ。でも見つかって本当に良かった。タカシさん達も来た道を戻ったけど、見つからないと言うので、道に迷ってる様でしたし......」
「わたし、道を間違えてたんですか?」
「ええ、違う道を走ってました。僕も裕美さんを見つけられる不安だったんですけど。でも、もう大丈夫ですよ。チームの皆の所まで送って行きますから」
「ごめんなさい......。店長さんに迷惑掛けちゃって」
「とんでもない。謝らなくてはならないのは、こちらの方です。ツバサが安易にこのツーリングを勧めたばっかりに。このコースは山道が厳しいですから、ちょっと心配だったんです」
「そんな、わたしが悪いんです。ご心配をお掛けしてすいませんでした......」
 やっぱり、店長さんって優しい。初めて会った時もそうだったけど。
 若くてルックスも良いだけじゃなく、誠実って言うか、"大人的"な雰囲気......。
 本当に優しいのよね......・
 でも、普通ならここでイイ関係になるキッカケを作りたいところだけど、今日のわたしってば......。
 強がって彼に迷惑をかけた挙句、こんな女として許されないボロボロの姿じゃあ、わたし彼に何も出来ない!
 彼は気を使って裕美を慰めようとするが、裕美はこんな"反省"の言葉しか彼に言えない。
 それこそ天の岩戸に隠れてしまいたい気分だ。女性神アマテラスが天の岩戸に隠れてしまったのも、きっと女としての恥ずかしいところを見られてしまったからに違いない。
 その時、ロードバイクの集団が、裕美が乗った車とすれ違った。
 彼らも『ワルキューレ』のジャージを来ている。
 もしかして、テル君とユタ君?
 いや、テルとユタだけではない。『ワルキューレ』のメンバーが続々とやって来る。彼らが裕美達の乗るルノー『カングー』に気づくと、Uターンして車の後ろに付いて走った。
 裕美が後ろを振り向くと、ざっと見ただけでも十数台ものロードバイクが走っている。チーム全員が裕美を探すために戻って来ていたのだ。
「裕美さん、見て下さい。タカシさん達ですよ。みんな秩父から引き返してきて、裕美さんのことを探してくれていたんです」
 ええ!? みんながわたしのために? 本当にごめんなさい。
 みんな、ありがとう......。
 でも......。
「裕美さん、みんな心配していたんですよ。ほら、声を掛けて下さい」
「でも、店長さん。わたしみんなに迷惑掛けちゃったし、何て言ったら良いか......」
「平気ですよ。皆さん気にしてませんから。それより裕美さんが無事なことを教えてあげないと、みんな余計に心配しちゃいますから。ほらっ!」
 そう言って彼は、車のウィンドウを下げて裕美を促すのだった。
「みんな、ごめんなさーい!」
 裕美が窓から手を振ると、チームの皆も裕美が無事だったことが分かったようだ。
皆手を振って返してくる。さらに何人かが車の側まで上がってきた。
「悪かったねえ、裕美ちゃん。置いてけぼりにしちゃって。いやあ、裕美ちゃんが平気だって言うからさあ」
「タカシさん、ごめんなさい。わたしが強がっちゃったから。皆に迷惑かけちゃって......」
「いいから、いいからって。それより裕美ちゃん、次も山を登ろうよ。今度山を登る時はちゃんと助けてあげるから。こうやって裕美ちゃんのお尻を押してね!」
 そう言って、裕美のお尻をさするような手を動かして見せた。
「ヤダー! それって完全に痴漢じゃなぁい! エッチなことしないでよ――!」
「裕美さーん、すいませーん。アタックがかかって、裕美さんのことすっかり忘れちゃいました。イヤー、ハハハ......」
「テル君、ユタ君! もう二人とも女の子を置いて行っちゃうなんて、アイドル失格よ! わたしが痴漢にあってもいいの?」
「いや、ダメ! 絶対ダメっす!」
「裕美ちゃーん、心配しなくていいって。ちゃんと、気持ち良くしてあげるからさ」
「もう! さっきまで素敵な人達だって思っていたのにぃ! もう馬鹿ぁ!」
 裕美は顔を真っ赤にして怒っていたが、それを横で見ていた"彼"は隣で笑いを堪えるのに必死のようだった。
「もう! 店長さんまで!」

***

「カンパーイ! カンパーイ!」
「今日はお疲れさまー! ホントご苦労さんねー!」
 裕美や『ワルキューレ』のメンバーは、今回のグルメツーリングの目的地である焼肉屋に無事到着し、焼肉パーティーが始まった。
 今までずっと走りっぱなしだったし、風呂も入ったりで沢山汗をかいたもん。ビールもすっごく美味しい。カロリーも消費したし、美味しい和牛も一杯食べれちゃいそう。
 裕美もさすがに上機嫌だ。
 しかしまだビールを飲んだばかりで酔っているはずもないのに、タカシさんが裕美に絡み始めた......ではない、イジり始めた。
「裕美ちゃーん、今日はみんなに随分迷惑をかけたね――。それは分かっているよねー?」
「ハイ。反省してます......」
「今日は本当にみんな裕美ちゃんのことを心配したんだぜ。戻ってもう一度山を登ってさあ」