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恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

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 日本では電車にそのまま自転車を持ち込むことは出来ません。ロードバイクを分解して、『輪行袋』に入れて持ち運ぶことになります。ロードバイクはタイヤを外すと結構コンパクトになりますし、折り畳み自転車等と比べてかなり軽いので、持ち運びも意外と簡単なんですよ」
「それじゃ、今回のツーリングは、ロードバイクで秩父まで行って、帰りは電車で帰って来るのね。でも店長さん、どんな準備をすれば良いのかしら?」
「まず郵便局に荷物を『局留め』で送ると便利です。輪行の場合、目的地で着替える必要がありますし、ビンディングペダル用でない普通の靴、それと輪行袋を持って行く必要があります。これらをリュックに詰めることも出来ますが、ちょっと重くなって走る負担になってしまいます。これらの荷物を目的地近くの郵便局に『局留め』で送れば、手ぶらでロードバイクに乗って、現地の郵便局で荷物を受け取ることが出来ます」
「何も持たなくて行けるなんて便利ね。折角ジャージをオシャレしても、バックで隠れて見えなくなっちゃうし、わたし荷物を送っちゃうわ」
「......まあ、そういう問題ではないんですが、それが良いと思います。重い荷物を背負うと肩が痛くなることもあるので、長距離に不安のある人は荷物を送った方が良いでしょう。この時、発送伝票と引き換えに荷物を受け取るので、忘れないようにして下さいね。あとツーリングの場合、天気が悪くて中止ということもあるので荷物を取りに行けなくても、局留めなら郵便局が自宅に返送してくれるので安心です。それと帰りに駅まで荷物を背負って走ることになるので、裕美さんもリュックは用意して下さいね。自転車用のリュックなら、こちらの『ドイター』というドイツのブランドがお奨めですよ」
「ふーん、どれどれ......。うーん、店長さん。申し訳ないけど、このブランド、真っ黒いデザインしかなくて、ちょっと......。もっとカワイイのが欲しいの!」
「でも、このドイターは肩に負担もかからず、背中の通気性まで確保した自転車専用のバックでして......」
「ああ! 店長さん! わたしこのピンクのバックがいい。コーラル・ピンクですって。素敵じゃない!」
「でも裕美さん、そのメッセンジャーバックは、長距離を走ると肩に負担がかかるのでちょっと......」
「店長さん、このバック、カワイイわね。やっぱり『デローサ』に合せるんだから、赤かピンクじゃなくっちゃ!」
「そうですか......。まあ今回はバックを背負って長距離を走るわけはありませんから、それでも良いかも知れませんね」
「他に店長さん、何か必要なものはあるかしら? そうそう、さっき『輪行袋』って言ってたわよね?」
「そうです。輪行袋なら『サイクルベースあさひ』のものがお勧めです。簡単にロードバイクを梱包できますし、袋自体も小さく折り畳めて便利です」
「この輪行袋を使う時に、何か気を付けることあるかしら?」
「そうですね。袋に入れる時には、ボトルを填めたまま梱包して下さい。ボトルがフレームとホイールとの緩衝材になるので、フレームが傷つくことがありません」
「そうよね。あんなキレイな『デローサ』に傷を付けるなんてできないわ。さすが店長さん、分かってるわね」
「あと、バイクを縛るベルトはナイロンで出来ているので、金具が滑ってベルトが落ちてしまうことがあります。梱包したら、ベルトの端を結んであげて下さい」
「えーと、どのベルトのことかしら? よく分からないわ。実際にやって見せて教えてくれないかなあ」
「勿論ですよ。すぐに覚えられますから、一緒にやってみましょう」
 フフフ......。もう少し"個人授業"をお願いね。店長さん!

***

「おはよう。テル君、ユタ君!」
「あー、裕美さん。おはようっス!」
「おはようっス! おっと、裕美さん! 今日は『ワルキューレ』のジャージっすね。良いっすね。似合いますよ」
「やっぱり女神様には、女神様ですか? 決まってますよ」
「あら、ありがとう。流石にアイドルだけあって女の子を褒めるもの上手よね」
 今日、裕美は白いミニスカートに、チーム『ワルキューレ』のジャージを着てきたのだ。
 このジャージは、ロードバイクショップ『ワルキューレ』の店長である"彼"がデザインしたもので、裕美は女神ワルキューレが佇むこの耽美な絵画をとても気に入っていた。
 ただ裕美がこのジャージを選んだのは、唯デザインが気に入ったことだけが理由ではない。
 彼とお揃いのジャージを着たい。
 そんな願いもあったし、勿論"彼"だけの為ではない。
 美穂やツバサ達『ワルキューレ』のメンバーと同じジャージを着て走りたいとの思いから、このジャージを着ることに決めたのだ。
 今日は、テルやユタなど、参加者全員が同じ『ワルキューレ』の白いジャージで決めている。まるでツール・ド・フランスで走る本物のプロチームの様だ。
 しかもジャージだけではない。今日集まった人達は、皆ロードバイクにかなり乗り込んでいる人達ばかりだ。比較的細身の男性が多く、身体にフィットするロードレース用のジャージは彼らの鍛え上げたボディラインを際立たせる。
 しかも皆がヘルメット、サングラス、グローブ等のアイテムまで揃ええているのだから本格的だ。他のスポーツにはないスマートでクールな印象さえある。
「裕美ちゃん!この前はサポートカーありがとねえ!」
「HP見たよ。100マイル完走したんだって? 水玉ジャージ、カッコ良かったじゃん!」
 裕美に声を掛けてきたのは、『ワルキューレ』の実業団チームの人達だった。
 以前、山中湖へのツーリングの際に、裕美がサポートカーを出したことがあった。その時に裕美が彼らを必死に応援したこともあって、その後の練習会などでは裕美にマメに声を掛けたりしてくれる様になった。
 イヤ、声を掛けてくれるどころの話ではない。
 手を変え品を変え、場所を選ばず手段を選ばず、裕美を口説こうとしたり、弄って遊んだりするのだから、裕美もちょっと困っている。
 しかし、彼らがロードバイクに乗る時の"真剣な表情"を裕美も知っているだけに、どうしても彼らを完全に拒否することは出来ないし、ついつい笑って許ししまうから不思議なものだ。
 今回のイベントはこの実業団チームのメンバーが企画したもので、道案内もこの人達がしてくれるから、彼らに着いて行くだけで良いとツバサに言われている。彼らは練習がてら、走る先で美味しい店のチェックは欠かさないというので、裕美としても楽しいグルメツーリングを期待しての参加だった。
「皆さん、今日は宜しくお願いします。わたし遅れないように、しっかり走りますから」
 既に知った仲ではあるが、彼らと一緒に走るのは初めてなので、一応社交辞令として裕美が頭を下げた。すると、誰かが「今日は、落車しないよーにねえ!」と声をかけ、ドワッっと皆一斉に笑い出す。
 ワハハハ!
「んもお、何よ! みんなったら!」
「いやあ、冗談、冗談! 怒らないでよ、裕美ちゃん」
「そうそう、今日は気を付けて走ってね!ってことだからさ!」
「もう! すぐわたしをオモチャにするんだから!」