小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

INDEX|33ページ/48ページ|

次のページ前のページ
 

「店長さん、出来ればこのゴールした時の写真が良いなぁ。
 わたしこれが一番気に入ってるの......」
「でも、裕美さん。この写真だとジャージが汚れてしまってますよ。折角綺麗なジャージを着てきたんですから、こちらの写真の方が」
「ううん、ジャージが汚れてたっていいの。
 美穂姉えや店長さんが助けてくれたおかげで、わたしゴールできたんだもん。このゴールした時の写真が一番の思い出なの......」
 その写真に写る裕美はジャージも泥で汚れているし、ポージングも決めている訳でもない。
 ありきたりの写真ではあったが、他の写真にはない、心からの喜びと誇りに満ちた笑顔がそこにはあった。
「そうですか......。それじゃあこの写真をHPに飾らせて下さい。チームのみんなも驚きますよ。裕美さんが怪我をしてもゴールまで走り切ったって!」
「ありがとう、店長さん!」
 あの――、それとね。お願いがあるんだけど」
「何でしょう、裕美さん?」
「あのね、わたしも皆と同じ『ワルキューレ』のジャージを着たいんだけど、良いかしら? 別に実業団とかで走る訳じゃないけど、わたしも着て良いかなあ?」
「勿論ですよ。裕美さんに着て貰えるなんて、こちらからお願いしたい位です。チームの皆も喜びますよ」
「そんな、皆だなんて。でお、お世辞でも嬉しいな」
「お世辞じゃありませんよ。同じジャージを着る仲間が増えるのは嬉しいですし、それが裕美さんなら尚更です。今度はジャージを着て応援してあげて下さい。皆本当に喜びますから!」
「そうよね。"仲間"だもんね。ハワイでは店長さんや美穂姉えに助けて貰ったんだから、今度は私が皆を応援してあげなくちゃ!」
 そんな話をしながら、"彼"は『ワルキューレ』のジャージを裕美に見せてくれた。
 背中に女神『ワルキューレ』が絵描かれたそのジャージは、他のチームジャージとは一線を画す上品で端正なものだった。
 通常チームジャージは、スポンサーのロゴがプリントされ、それにパステルカラーで彩られてと、目立つことのみを優先したデザインのものが多い。裕美の美的感覚からは"ごめんなさい"と謝りたいものだった。
 しかしこの『ワルキューレ』のジャージは、ルネサンス調のタッチで物憂げな金髪の美しい女神が絵描かれており、見る者を魅了する雰囲気があった。
 バレエやクラシック音楽に慣れ親しんだ裕美の美的センスとも、ピッタリとマッチしている。それに美しい女神のジャージは、むしろ女性が着てこそ映えるものかもしれない。
「店長さん、この『ワルキューレ』のジャージって綺麗よねえ。ホント素敵だと思うわぁ」
「『ロワ・ヴィトン』の裕美さんに褒めて貰えるなんて嬉しいですね。実はこのジャージは僕がデザインしたんですよ」
「えっ、店長さんが? それにジャージって自分でデザイン出来るものなの?」
「ええ、自分でデザインさえすれば、オーダーメイドで作って作って貰えるんです。このジャージも店の名前が『ワルキューレ』でしたからね。そのイメージに合う様なデザインにしたんです」
「でも店長さん、素敵だわあ。美的センスもあるのね。ワルキューレって戦う女神様でしょ。ワーグナーのオペラ『ニーベルングの指輪』だと鎧を着ていたりするから、もっと無骨なイメージだったんだけど」
「まあ、チームには美穂さんみたいな女性もいますからね。女性にも似あうジャージも作りませんと。裕美さんにもきっと似合いますよ!」
「ホント? 似合うかしら? 女神様に負けちゃいそうな気もするけど?」
「アハハハ、大丈夫です。きっと裕美さんが、女神様みたいだって言われますよ!」
「えー、本当? ありがとう店長さん!」
「絶対、タカシさんなんか、そう言いますよ!」
「フフフ、そうよね。タカシさんなら如何にも言いそうなセリフだわ。ちょっとご遠慮願いたいけど」
「でも、裕美さんがこのジャージを選んでくれて嬉しいですよ。次のツーリングでは、是非このジャージで走って下さい」
「勿論よ! わたしもこのジャージで次も頑張っちゃうんだから!」
 わたしも走りに行きたいわあ。
 そんな裕美の言葉を聞いたツバサが、作業を中断して二人の間に割り込んできた。
「オッ、裕美さん。やる気ですかぁ? 次にもウチでツーリング・イベントがありますから、良かったら参加してみませんか?」
「えっ? 何よ、ツバサくーん」
 裕美は彼との二人の間を邪魔されて、明らかに不機嫌そうに声を出した。
 あなた空気を読みなさいよ、と睨んだつもりだか、ツバサは一向に意に介さない。
「裕美さん、走りたいんでしょ。来月、絶好のイベントがありますよ。秩父へのツーリングなんですけど、走り終えた後に地元の焼肉屋で和牛を食べるんです。そこの肉がメチャ旨いんですよ」
「えっ、お肉?」
「そうなんです。都内で食べるよりも半分の値段で和牛が食べられますからね。ツーリングの後の肉はヤッパ最高ですよ。裕美さんだってダイエットぐらい気にしてるんでしょう? でも走った後なら、脂ものも気にせずガンガン食べれますよ!」
 んもう! ダイエットなんて、余計なお世話よ!
 そりゃ気を付けているけど、ツバサ君も彼の前で余計なことを言うわね!
 でも太っちゃう心配もなく、焼肉を食べられる?
 今までチーム練習の後はケーキばかりだったから、ちょっと物足りないと思っていたのよねえ。
 お肉、お肉......。
「そうね、ツバサくんが言うなら参加参加してみようかしら? 店長さんも行の?」
「えっと、すいません。僕はその日は店があるので......」
「店長さん、行けないの? ええ、ツバサくんとなんかじゃヤダなあ......」
「裕美さん、何で俺じゃダメなんですか! まあ俺も行けないんですけど、テルとユタも行くんですよ」
「ふーん、どうしようかしら」
 裕美はそんな勿体つけたことを言ってはいるが、よくよく考えてみれば、"彼"の前では思いっきり焼肉を食べるなんてことは絶対できない。一緒に行けないのは寂しいけど、むしろ好都合かも!?
 それにテル君とユタ君がいるなら、寂しくないし、行っちゃおう!
「そうね。折角ツバサ君か誘ってくれたんだし、行ってみることにするわ」
「あのー、裕美さん。このツーリングはまだ裕美さんには厳しいかも知れませんよ。距離は100キロ強で、確かにホノルル・センチュリーライドより短いんですが、最後に山越えがあるのでちょっと......」
「大丈夫よ。店長さん。わたしだって100マイルを走り切ったんだし、あのハートブレイクヒルを登り切ったのよ!」
「そうですか......」
「任せて、店長さん! ちゃんと走って見せるんだから!」
 彼の不安そうな顔をヨソに、裕美は自信満々だった。


『教えて!店長さん』〜輪行編
裕美:「店長さん、今度のツーリングは『輪行』で行くって聞いたんだけど、『輪行』って何なの? どんな準備をしていけば良いのかしら?」
タッキー(店長):「裕美さん、『輪行』というのは自転車と電車の両方を使って移動することを言います。ロードバイクでのツーリングの場合、行きはバイクで目的地まで行って、帰りは電車というケースが多いですね。