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恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

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 全員が集合していた。どうやら映画関係者の写真撮影のようだった。美穂姉えとテル、ユタが一緒に写真を撮って貰っている。"彼"もスタッフと一緒に美穂らの撮影の手伝いをしているようだった。
「それじゃあ皆さん、写真を撮りますから集まって下さーい!」
 撮影が終わり、彼が声を掛けて参加者が集まりだした。次は美穂やテル、ユタに加え、参加者全員の集合写真を撮るのだ。
「店長さん! お早うございます!」
「あっ、裕美さん、お早うございいます!」
 彼は裕美に気付き挨拶はしたものの、ちょっと驚いた顔をして裕美を、そして裕美のジャージを見つめていた。
「裕美さん、山岳ジャージを着たんですね。似合いますよ!」
「あら、店長さん? もお世辞でもウレシしいわ! でも、本当かしら?」
「いえ、お世辞だななんて! ホントです。似合ってますよ!」
 裕美が着ているジャージは、一見、赤い水玉模様の可愛いデザインに見えるが、本来はツール・ド・フランスで『山岳王』が着るジャージだ。
 
 『山岳王』
 "Roi de Montagne" 〈ロワ・ドゥ・モンターニ〉)
 そして、ジャージの名前は――、
 "Maillot blanc a pois rouge"〈マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ〉。
 
 裕美はこの本気度の高いジャージに、白いミニスカートを履いて、女の子らしく可愛く見せてきた。ロードレースを知っている"彼"の目に止まらないはずはない。ここは裕美の作戦勝ちだった。
「裕美さん、写真を撮らせて下さい! 折角のジャージを着ているんですから撮りましょう」
「えっ? そんな恥ずかしいわ!」
 裕美は一瞬躊躇するが、"彼"はそんな裕美の照れ笑いを逃さずシャッターを押した。
「ハハハ、裕美さん、良い感じで撮れましたよ」
「ちょっと、店長さん! 心の準備がまだだったのに......」
 裕美がちょっと顔を赤くしながら目を背けた。彼が裕美一人を撮ってくれたのは、ちょっと計算外だったからだ。水玉ジャージの効果は想像以上だったらしい。
「自然な方が良いですよ! 良い感じで撮れましたから、後で楽しみにして下さい。それよりも皆さんと一緒に撮りますから、集まって下さい」
「は、はい......」
 裕美は、美穂やテル、ユタの所へ掛け寄り、声をかけた。
「おはよう!テル君、ユタ君」
「おはようございます。裕美さん。オッ、水玉ジャージですか! キメてますねー」
「『デローサ』ともバッチリ合ってるし、スゴイ似合ってますよ。スカートもカワイイです!」
「ホントに似合う? アイドルの二人に言われると照れちゃうわ!」
「裕美さん、こっちに来て。一緒に写真に撮って貰いましょう」
「そうそう。せっかく山岳ジャージでキメてきたし、目立つからね!」
 そう言って、テルとユタは二人の間に裕美を引っ張って、一緒に写真に入るようにしてくれた。
 キャー! ヤッター! こんなカワイイ二人の男の子に囲まれて、ハワイで写真を撮ってもらえるなんて!このジャージを選んで正解だったわね。
 "彼"がカメラのファインダー越しにこちらを見ている。
 裕美は照れたような顔を見せながらも、写真を撮る店長へ向けてポーズをとった。
「さあ、皆さん! ハーイ、撮りますよー!」
 パシャ! パシャ!
「オーケーです! ありがとうございました」
"彼"が写真を撮り終わると、案内役のツバサが参加者を盛り上げるべく、右手を上げて声を出した。
「じゃあ、皆さん、これからセンチュリーライドをスタートします。行きますよ。アレー!」
「ウィ、アレ! アレー!」
「イェー! ゴーゴー!」
「100マイル行くぞー!」
 裕美やテル、ユタ、他の参加者もノリノリで声を上げた。センチュリーライドのスタートだ!
 ツバサや美穂が参加者を交えチームを組んで、二人が先導する形でスタートした。スタート地点のカピオラニ公園を出て、ワイキキ市内の一般道やハイウェイを自転車達が一斉に通り抜ける。裕美も何百台もの自転車と一緒に走るなんて初めてだし、何より朝焼けに包まれたハワイの街並が眩しかった。
 ホノルル・センチュリー・ライドのスタートだ!

***

「ハーイ、海が見えてきましたよ! あれがダイヤモンドヘッドです!」
 ホノルル市街を抜け海沿いの道路に入ると、ツバサが声を上げて教えてくれた。海沿いのハイウェイに入り、裕美も俄然やる気が出てくる。
 波音が心地よい!
 解放感が堪らナイ!
 海風が最高に気持ちイイ!
 裕美は長年フランスに居たため、彼女もフランス人の例に漏れずアンチ・アメリカンだ。
 でもニースやマルセイユ等の南仏の街並みとは違う、アメリカンなビーチの雰囲気も速攻で気に入った。セレブが集う上品な地中海の海ではない。無機質な街並みと乾いた風が気分を高揚させてくれる。裕美が初めて感じる夏の感触だった。
 イケー! アレ、アレー!
「テルくーん、ユタくーん、スゴイ気持ちイイー! 海を走るのがこんなに気持ちイイって知らなかった。わたしこんなの初めてー!」
「ええ? もしかして裕美さんハワイ初めてなんですか? 実は俺たちも初めてなんですよ」
「そう、わたしもハワイ初めてー! ハジけちゃーう!」
「俺たちも弾けちゃうぜ。初めての海外デビューだしなあー!」
 アハハハ! ハハハ!
 三人は不思議?なハワイデビューを果たしてついつい互いに笑ってしまった。海を見て"スイッチ"が入ったのか、普通に話せる距離なのに大声で話し始める。他人から見てもテンションがかなり上がっている様子だった。
「でも裕美さん、海外初めてってことはないでしょう? 俺たちより歳上なんだし?」
「昔、フランスに居たの!でも他に行ったことないのー!」
「えー、フランス!? それじゃツール・ド・フランスとか見たんですかー?」
「ぜんぜーん! 皆によく言われるけど、ロードレースなんて興味なかったもん!」
「何だよ、それー! すげー、もったいねー! 俺、ツール見てみたーい!」
 アッハハハ! ハハハ......。
 三人は笑いながら他愛もない話をし始めた。
 どうして裕美がロードバイクに乗り始めたのか。
 テルとユタが映画の撮影のためにどれだけ練習をしたか。
 ロードバイクから転んで怪我をした時の話や、美味しいものを食べにツーリンツへ行った話。
 裕美の『デローサ』や、テルとユタが乗るパナソニックのバイクの話。
 ロードバイクに乗る女の子の話や、テルやユタのプロダクションでも、仲間がロードバイクを乗り始めた話などなど。
 中でも裕美が高級ブランドの『ロワ・ヴィトン』で弁護士として働いていることには、テルとユタも驚いた様子だった。
「スゲー、なんかセレブって感じ!」
「裕美さん、出来る女って訳ですね。こんな姉ちゃんがいたらなー」
「ええ、じゃあお姉さんが今度二人のお部屋を掃除してあげようか?」
「ダメ! 俺たちの部屋はスッゲー汚くて見せられない。もしこの映画が当たって、ドッキリとか来たらヤバイよなあ」
 アハハハ......!
 そんな姉と弟みたいな話をしていると、ユタが早速裕美に甘えてきた。
「裕美さんって、英語できるんですよね?」