小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

INDEX|24ページ/48ページ|

次のページ前のページ
 

「美穂さーん!お久しぶりでーす!」
 若い男の声が聞こえてきた。
「あー、来たな! テル、ユタ」
 美穂がテル、ユタと呼ぶ二人は、ツバサよりも若い二十歳ぐらいの男の子だった。二人ともかなりの"美少年"で、若さを考えれば、タッキーやツバサよりも高いポイントが付くかもしれない。それくらいイケている。
 裕美も一瞬息を飲んだ。
「どうや、裕美。まあ、わたしの弟みたいなもんや。結構イケてるやろ。
「美穂姉え? この人達のこと、"弟"って一体なあに?」
 裕美は目をパチクリさせたまま、美穂を、そして二人の可愛い男の子を見比べてしまった。美穂の"弟"ではないようだし、それに美形じゃない!
「美穂さーん! 幾ら何でも"弟みたい"はないでしょ! 変に誤解されちゃいますよ!」
「そうですよ! 俺らも一応仕事で来てるんだから、ちゃんと紹介ぐらいして下さいよ!」
「そうかあ? でもそんなもんやろ? 二人とも私の弟にしたいくらいやで」
「まあ、美穂さんにそう言って貰えるのは嬉しいですけどね」
「裕美、この二人は『メチャリキ』っていうロードレースの映画に出ててなあ。二人ともロードバイクは初めてやっていうんで、わたしが教えてやったんよお。一応アイドルなんやで」
「え? 芸能関係の人なんですか? それに映画ってスゴーイ!」
「そんな! 俺達こそ大したことないですよ。まだ駆け出しですからね」
「でも、この映画で人気が出たら良いよな。俺らも本気で頑張ったしなあ」
 裕美の"アイドル"への反応に二人とも遠慮がち照れながらも、可愛らしそうに笑っている。二人のそんなあどけない姿は、裕美のハートをくすぐるのに十分だった。
「んで、テル、ユタ。この可愛い美人が、裕美っていうてな。わたしがハワイに誘ったんや。明日一緒に走るから、面倒見たってな。そうそう、一応言っとくけど、こんな可愛い顔やのに、この子弁護士なんやって。あんまり、軽い口叩かん方がエエで」
「へえ、女弁護士! すげえ!」
「でも全然、そんなお堅い感じに見えないよな! 『キューティー・ブロンド』に出てくる『リーズ・ウィザースプーン』って感じ!?」
「あら、『キューティー・ブロンド』を知ってるんですか? でも流石、芸能界の人ですね。あの映画もちゃんとチェックしてるなんて! わたしあの映画大好きだったんです」
「ハハハ、そうでしょう? 美穂さんは、あんなこと言うけど、俺達も真面目にやってるんですよ!」
「でも、裕美さんも『キューティー・ブロンド』みたいに、ピンクのスーツで決めてたりするんですか?」
「やあねえ、あれは映画の話よ。現実はもっと地味な仕事よ。そんな他人に自慢できるようなものはないわ。それより、二人とも映画に出るんですか? 凄いじゃない! わたし絶対見に行っちゃう!」
「ホント!? 是非よろしく! 俺達スゲー頑張ったんですよ」
「そうそう! 美穂さんにロードバイクで、散々シゴかれましてね。撮影でもスゲー大変だったんですよ!」
「お前ら、シゴかれたなんて言い方あるかい! あれこそ本当の教育的指導やろ! まあでも、二人ともよく頑張ったなあ。ホンマ、わたしも嬉しかったわ。わたしが二人を教えたのも、映画の撮影のためのトレーニングやったんやけど、映画の監督から、本格的なレースシーンを撮りたいから本気で鍛えてやってくれって言われてなあ。長野で合宿して、徹底的に鍛えたんや。二人とも若いだけあって、メッチャ走れるようになったんやで」
「イヤー、美穂さんに褒めらると照れるなあ。練習じゃスゴイ厳しかったですからねえ。もうマジでキツかったですよ――!」
「そんな厳しくしとらんやろ? 遅れて泣きそうになってた、あんたらを助けてやったやん」
「それが一番キツかったんですよ! いくらプロとは言え、僕らも体力には自信がありましたからね。なのに女の人に助けられて......」
「そうそう。美穂さんに『女に負けて、情けないなー!』とか言われてさあ。マジ恥ずかしかった!」
「俺たちが、死ぬほど苦しんで走っているのに、美穂さんがあっさり抜いていくんだもん、凹んだんだよなあ!」
「アハッハ、ゴメンゴメン。そんなつもりは無かったんやけどなぁ」
「フフフ。やっぱり美穂姉えって厳しかったんだ? でも少し優しくはして貰えなかったの? 年下の男の子なんだもん?」
「尻を引っ叩かれましたよー! 『頑張れー』って。いや、情けなかったっス!」
「もうマジで涙が出ましたよ。汗と区別が付かなかったけど」
「フフフッフ! やっぱり美穂姉えって、お尻を叩くんだ。この前のツーリングでもねえ......」
 うーん、ツバサ君と違って、二人とも素直でカワイイわあ。『彼』もカッコいいけど、こんな子達も可愛くて良いわよね。
「ところで、テル君もユタ君も明日の"センチュリーライド"走るの? 仕事で来ているって言っていたけど?」
「ええ、僕らは映画の宣伝のためにこのセンチュリーライドに参加したんですよ。それで明日参加者の皆さんと一緒に走るんです。美穂さんはこの映画のスタッフでしたし、プロの女性レーサーと走るってことで、今回美穂さんとも一緒にってことなんです」
「じゃ、二人とも100マイルを走るんですか? わたし達と一緒に?」
「もちろんです。撮影で使ったジャージを着て走るんですよ!」
 ヤッター!
 アイドルの人とずっと一緒にいれるなんて、こんな機会は滅多にあるものではない。ミーハーな裕美としては嬉しい驚きだ。彼とは一緒に走れないけど、こんなカワイイ男の子が一緒なら不満なんてあるはずもない。
 美穂姉え! サプライズ・プレゼントをありがとう!

***

 夜も明ける前の現地時間午前5時、裕美やツバサなどセンチュリーライドの参加者はワイキキビーチ近くのカピオラニ公園に集合した。
 ここからホノルル・センチュリーライドがスタートするのだ。
 裕美は公園に集まったサイクリストの数にちょっと驚いた。何百人ではない。何千人もの参加者が、この公園に集まっている。
 それに参加者する人達も、その自転車も実に多彩だった。男性とロードバイク、女性とクロスバイク、お爺ちゃんにマウンテンバイク、可愛い男の子と女の子人に小さい自転車、アメリカ人のカップルとタンデム式の二人乗りの自転車などなど。
 自転車だけではない。参加者達のジャージも実に多彩だ。自分たちのチームジャージを着ている人もいれば、ツール・ド・フランスの優勝者が着る黄色いジャージ『マイヨ・ジョーヌ』を着ている人もいる。裕美がフランスにいた頃、街中でよく見かけたミシュランのキャラクター『ムッシュ・ビバンダム』もいる。
 自転車のありとあらゆるものが、ここにあった。
 えーと、エトセトラ、"et cetrera..."。
 裕美は小さい声で呟きながら、"彼"を探した。
 そう、今回"彼"はサポートカーを運転するので、裕美達と一緒に走れないとは言え、スタート地点のカピオラニ公園にいる可能性は高い。
 あっ、店長さん!
 あー!、美穂姉え! テル君にユタ君も居る!