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恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

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 そうやって、ツバサはまた他の参加者との応対を始めた。
 自転車を空港まで持ち込む人もいるので、自転車をカウンターに預けるなど、ツバサも結構忙しいはずだが、他の参加者と軽口を叩きながらも、テキパキと参加者の応対や荷物の確認をしている。ツバサは確かに"軽い"ものの、意外とソツがない。
「もう、ツバサ君たら! あうゆう軽い性格じゃなきゃ、結構いい線いってると思うんだけどなあ」
 裕美はツバサの手際の良い仕事振りを見て感心し、そしてちょっと惜しいと思ってしまう。
「まあ、そう言わんかて。ツバサも結構カワイイとこあるやんか。年下も悪くないやろ?」
「そりゃあ、弟みたいな男の子も良いけど、ツバサ君みたいじゃやあよ」
 そんなことを話していると、ツバサが裕美達の方を向いて、ニコッと笑顔を見せてくる。
「もうツバサ君たら! 聞こえるはずもないのに、こっちが話していることを"お見通し"って顔!」
 確かに、ツバサは憎めない性格であった。

***

「えー、皆さん長旅お疲れ様でした。今回ロードバイクショップ『ワルキューレ』のホノルル・センチュリーライド・ツアーに参加して頂きましてありがとうございます。これからセンチュリーライドのためのプレミーティングを行います。まず今回のサイクリングに同行するスタッフの紹介です。走行中何かトラブルがあれば、スタッフに声をかけて下さい......」
 ハワイについて二日目。ホノルル・センチュリーライドのための説明会が『ワルキューレ』の店長であるタッキーのアナウンスで始められた。
 このセンチュリーライドは初心者向けのイベントではあるが、160キロも走る本格的なサイクリングだ。何人かのベテランライダーが同行するし、事前にコースの案内や長距離を走るためのコツや注意事項を説明するためだ。
「まず女性プロロードレーサーの吉岡美穂さんです。彼女は全日本選手権のチャンピオンで、今回は女性ライダーの代表として、皆さんと一緒に走りますので何か分からないことがあれば、色々と聞いてみて下さい」
「みなさん、よろしくお願いします。100マイルに初めて挑戦する人もいると思いますが、お喋りしながら走りましょう。わたし、関西の出身ですから、いつも走りながら喋ってばかりですよ――!」
 ワハハハ! パチパチパチパチ!
 場内に笑い声と拍手が響いた。
 うーん、美穂姉えは美人なのに、気さくで、しかもプロなんだから、さすが人気もあるわと、裕美も関心していた。
「えー、『ワルキューレ』スタッフのツバサです。僕も同行しますので、よろしくお願いします。僕も初心者に合わせたペースで走ります。皆さんをサポートしながら走りますので、ロングライドが初めての方は一緒に走りましょう」
 パチパチパチ! パチパチパチ!
あら、意外とツバサ君も人気があるのね。女性の参加者からも結構拍手があったので、裕美には少々意外だった。
「皆さん、お手元ののパンフレットをご覧下さい。今回のセンチュリーライドのコース図があります。20マイル毎に休憩ポイントがあります。そこで休憩して水と食べ物を必ず採る様にして下さい。今回同行する二人は100マイルを余裕を以て完走するペースで走ります。二人に付いて行くのが厳しい。もしくは身体の何処かが痛いと思ったら、休憩所で休んでスタッフが戻ってくるのを待つか、そこで折り返してください。サイクリングの後はパーティーもありますので、無理せず、パーティーに参加する体力を残すぐらいが、楽しいサイクリングのコツです......」
 裕美は、"彼"、店長のセンチュリーライドについての説明を聞いていて、ちょっと悩んでいた。
 そうよね、パーティーもあるんだし、彼の前でクタクタに疲れた姿は見せられないわ。明日のサイクリングもホドホドにしなくっちゃ。
 でも彼と一緒に走っていたいし、ある程度の距離は走らないと......。
 週末のサンデーライドで、裕美と彼とは走るスピードが違い過ぎて、余り一緒に走れなかった。でも、明日は彼も一緒にゆっくり走ってくれるなら......。
 そんなことを考えながら説明を聞いていると、突然驚くべき話しが聞こえてきた。
「それと今回わたしがサポートカーを出しますので、何かトラブルがあった際には同行スタッフにお知らせ下さい。車で現場に向かいますので......」
 え!? 彼がサポートカーって?
彼が車を出してたら、センチュリーライドを一緒に走れないじゃないの!
そんな! ウソでしょ?
 裕美は今度は流石に声を上げなかったものの、驚きを隠せない。
 これには本当にガッカリした。
 折角このツアーのために可愛いジャージも用意して頑張るつもりだったのに!
 もう、ヤダー!

***

「ツバサくーん、ちょっとこっちへ来なさい! 話があるんだから!」
 ホノルル・センチュリーライドの前夜祭のパーティーで、裕美はかなり不満気な口調でツバサを呼び出した。
「え!? あー、裕美さん、一体何のご用でしょう? 俺そんな裕美さんに何もしてないでしょ。そんな怖い顔して、呼び付けなくてもイイじゃないですか?」
「ツバサくーん、何で店長さんがサポートカーを運転しなきゃならないのよ。サポートカーぐらいツバサ君が出しなさないよ。それに店長さんは仕事をしてるってのに、どうしてあなただけパーティーに参加してるの?」
「裕美さん、言うなあ。驚きましたよ!」
 ツバサは、ヤレヤレと、心底呆れた顔をしていた。
 さほど酔っている様に見えない裕美がここまで言うのだ。店長に会えないことに相当不満があることは見て取れる。
「まあ、仕方ないですよ。僕じゃ海外で車を運転できませんから。国際免許を持っているのは店長だけですし。それに僕は僕で遊んでる訳じゃないですからね」
「ツバサくん! お姉さんに対しておふざけは許さないわよ。そんなお酒なんか飲んじゃって、何を言うの?」
「裕美さん、このパーティーに出る事だって大切な仕事なんですよ。ツアーに参加するお客様も初心者の方が多いですからね。色々と不安があって質問や相談が結構あるんですよ。それに事前にお客様のロードの経験とか色々を聞いておきませんと、ちゃんとしたアドバイスも出来ないでしょう?」
「もう、またそんなこと言ったって、信用できないんだから。大体ねえ、あなた......」
「ツバサくーん!ねえ、明日のことなんだけどぉ!」
 後ろから、女の子の声が聞こえてきた。ツバサも女の子から人気があるので、"ご指名"がかかったようだ。
「ほら! 早速仕事ですよ。僕だって忙しいんですからねえ――! それじゃあ、裕美さん。ちょっと失礼しまーす」
 ツバサはそそくさと、女の子の所へエスケープしていった。
「もー! ツバサくんたら! 待ちなさいよ!」
「まあまあ、裕美もそう言わんと。ツバサの言ってることも嘘やないしなあ」
 後ろで見ていた美穂がツバサのフォローに入った。
「あー! 美穂姉えまで、ツバサ君の肩を持つの?」
「まあまあ、裕美。ほら、例の約束な。覚えとるか? ツバサなんかより、エエ男の子を紹介してやるって言うたやろ。ほら、ちょうどその男が来たとこなんよ。機嫌直して、ちょっと会ってみいな!」