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恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

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「きゃー! 店長さん、そんな怖いこと止めてー! わたしスプラッタとかダメなのー! 他人のだって、そんな大怪我を見せられたら失神しちゃーう!」
「別に脅かすつもりはなかったんですが......。兎に角そういう理由で、手を怪我しないためにもグローブも実は重要なアイテムなんですよ」
「そう言えば、ウチの会社に来るメッセンジャーの人も、ちゃんとアイウェアをしてグローブもちゃんとしているわ。わたしはてっきり、只のファッションであんな格好をしていると思っていたけど、意外と"マジメ"な服装だったのね?」
「その通りです。ですから裕美さんも、ちゃんとグローブとアイウェアを忘れないで下さいね」
「分かったわ! でもわたしはメッセンジャーみたいなスタイルの男の子はちょっとダメよねえ。アイウェアもあのヘルメットも、ラフに着こなして決めてるつもりなんだろうけど」
 店長さんみたいにスマートに着こなしてくれれば良いのに! 裕美は言葉に出さないものの、そんな本音が頭をかすめていた。


第4話『ホノルル・センチュリーライド 〜 店長さん、わたし100マイルを走りたいの!』

「ええ! 店長さんと一緒のフライトで行けないの!? そんなのないわよー!」
 空港のロビーで裕美は思わず声を上げてしまった。裕美は恥ずかしいことを声に出してしまったと、つい回りを見回したが、何人かに聞かれてしまったようだ。
 遅かった......。よりによって"ツバサ"に聞かれてしまった。
 裕美の言う"店長さん"とは、ロードバイクショップ『ワルキューレ』の店長のことで、裕美が目をつけている彼だった。
 店長という肩書とは言え、プロロードレーサーの美穂などは彼のことを『タッキー』と呼んでいるほど若い。背も高くスマートでルックスもイケてる。
 裕美は、"彼"ともう少し仲良くしたい。仲良くするキッカケが欲しい!、という邪な気持ちでこのホノルル・センチュリーライドに参加したのだ。それなのに初めから彼と会えないのでは、流石にショックだ。
「うわあ。裕美さん、露骨に言いますねー。驚いちゃうなあ。そんな店長に会いたかったんですか? まあ気持ちは分かりますけど、仕方ないですよ。店長はお客さんのバイクを準備しなきゃならないんで、どうしても別の便に乗らなきゃならなかったんです。店長も大変なんですよ。何十台ものバイクの搬送に付き合って、そのバイクを組み上げなきゃならないんですから。まあ、裕美さん。僕がいるじゃないですか。元気を出して下さい」
 そう言って、立て板に水で、裕美を慰めている?(裕美の失言に、突っ込みを入れている?)のは、『ワルキューレ』のスタッフの一人の『ツバサ』だった。
 ツバサは裕美より年下だが、軽い性格のためかズケズケものを言ってしまう。
 『ワルキューレ』では、店長である彼も若いこともあって、他のスタッフも比較的若く。そしてロードレーサー特有のスマートな体型をしている人が多いので、総じて"アタリ"が多い。彼もそんな"アタリ"の一人なのだが、裕美より年下で、また軽い性格ということもあり、裕美の"アドレス帳"、別名『イケメンブック』には入っていなかった。
 裕美が"彼"に気があることを知っていて、裕美をイジることも、ツバサが"アドレス帳"に入らない理由の一つだった。これも裕美がツバサを無視して、店長を"ご指名"し続けたことが原因だった。結構、ツバサのプライドを傷付けたらしい。
「うっ、別にいいじゃない。店長さんのことを気にしてたって。こっちだって楽しみにしてたんだから」
 裕美も、声に出してしまったので、少々開き直り気味でツバサに言い返した。
 しかし裕美がガッカリするのも無理はない。このホノルル・センチュリーライドのために、"彼"にパンクの修理の仕方を教わったり、週末のサンデーライドに参加してロードバイクの練習までした。
 美穂も意地が悪く、「まあ、タッキーに助けて貰うのも良い考えかもなあ。何も出来ない振りをして男の気を引くって手も悪くないかもな――」などと言われたりもした。
 でも「出来る」ところを見せたい裕美としては、そんな弱い所は見せられない。美穂のアドバイス通り、無理はしないものの、それなりに40〜50キロは走れる様なった。
 何よりファッションでも彼にアピールすべく、新しいジャージまで用意したのだ。
 赤い水玉模様で、女の子向けのカワイイジャージを。裕美の『デローサ』の『ロッソビアンコ』、つまりイタリア語で"赤"と"白"を意味するデザインのロードバイクにもピッタリということで選んだのだ。
 実は、この白地に赤い水玉模様のジャージは、フランス語で"Maillot Blanc a pois rouge"〈マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ〉と呼ばれるもので、本来ツール・ド・フランスで『山岳賞』、つまり坂道を一番早く登る人が着る特別なジャージだ。
 一見、女の子が好みそうなデザインだが、なかなか本格的だったりする。
 裕美はこの玄人好みの水玉ジャージに加え、可愛い白のミニスカートを履いてと、彼にアピールすべく対策を練ってきた。
 さらに、スカートの下の『レーパン』と呼ばれるロードバイク用のアンダーウェアも変えてきた。生脚が見えてしまうのでちょっと恥ずかしかったが、膝上の短めのものに変えたのだ。
 長距離のライディングでは、脚力よりも、気候に合わせたウェアのチョイスや水分や食料の栄養補給の方が重要だと、美穂からのアドバイスを受け、暑いハワイのために選んだのだ。勿論、白いミニを目立たせるためであることは言うまでもない。
 それ位、気合いを入れて来たのに――!
 そんな裕美とツバサの諍いを止めるべく、美穂がフォローを入れた。
 彼女は"彼"を餌に、裕美をこのセンチュリー・ライドに誘ったこともあって、流石に責任を感じている様だ。勿論、彼女は純粋にサイクリングを裕美に楽しんで貰いたいと考えているが、女として裕美の気持ちだってよーく分かる。
「まあ、まあ。裕美もそんな落ち込まんで。ハワイに着いたら、良い男も紹介したるさかい」
「ええ、美穂姉え! ツバサ君みたいに軽い人じゃヤアよ!」
「そんな! 裕美さんも、何てこと言うんですか! オレだって仕事で来てるんですよ。マジメにやる時はやりますからね。今回のツアーだって何十人ものお客さんをサポートしなきゃならないんですよ」
 ツバサは裕美に文句を言いつつ、そっとカメラを取り出した。
「それじゃあ、そんなスネた顔の裕美さんを撮っておきましょうか?」
 パシャ!
 そんな戯言を言いながら、ツバサは裕美の不機嫌そうな顔をしっかりデジカメで撮っていた。
「あー、ツバサ君! こんなところを撮って! もっと可愛いところを撮りなさいよ。そんなことばかっりしてるから、"軽い"って言われちゃうんだからね」
「まあ、まあ、裕美さん。こうゆう写真もきっと後で良い思い出になりますよ。こうやってお客さんの写真を撮ることも大切な仕事なんですから!」
「ほらほら! ツバサもそれくらいにして! わたしらはそこの茶店で待ってるからな。早めにお客さんを集めて確認しときなあ」
「了解です。美穂さん。まかせて下さいよ」