恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス
「だって、店長さんに合う理由もできたし、用も無いのにお店まで来るのって結構ワザとらしいじゃない。来ても何を話して良いか分からないから、困っちゃうんだもん!」
「まあ普通に遊びに来てもエエやんか。ここの店で茶を飲みに来たってことにしてもエエし。練習が終わった後も、ここで休んでるお客も多いんよ」
「そうね。ここのケーキは美味しいし、ちょっと大きいと思ったけど、全部食べれちゃう」
「走った後は、美味いものが食べたくなるんよなあ。ケーキの二つ三つ平気でいけるやろ。この店は自転車乗りが多く来るから、ボリュームも大目になっとるんよ。練習の後はいくら食べても太らんからな」
「そうね、カロリーを気にしないで、デザートを食べれるってサイコーに幸せ! ハワイでも思いっきり食べちゃうんだから! 超、楽し――!」
「わたしも毎年ハワイに行ってるから、美味しい店教えたるわ!」
「そうそう、美穂姉え。店長さんから『ホノルル・センチュリーライド』のパンフレットを貰ってきちゃった。センチュリーライドって言うけど、みんな100マイル走る必要はないのね」
「ああ、気楽に走ってエエんよ。初心者の人も走るし、ロードバイクだけじゃなく、クロスバイクやマウンテンバイクで走る人もいるからな。わたしらは100マイル・160キロ全部走るけど、他にも80キロとか、120キロって、自分の実力に合わせて距離を選べるからな」
「なるほど、途中で走る距離を変更して短くしてもイイのね。それならわたしでも大丈夫かなあ」
「裕美なら80キロは確実に走れると思うんよ。もし調子が良ければ100マイルを走ってもエエしな」
「そんな、美穂姉え。わたしなんかに160キロなんて無理よ」
「それが結構走ってしまう人もおるんよ。途中の中継地点で、フルーツやらジュースやら美味いもんを食べて、栄養補給しながら行くしな。それにハワイはスポーツをするにはちょうど良い気候でなあ、日本の夏より涼しいくらいや。ホノルルの海を見ながら走るのも気持ちイイから、結構行けてしまうんよ」
「ふーん。そうなると実際にハワイに行ってみてかしらね? 美穂姉え、他に何か準備することってあるかしら? そう言えば、ロードバイクはどうやって持っていくの?」
「ああ、それはタッキーに頼んどけばエエよ。店で梱包して飛行機に積んでくれるから。まあ後はパンクの修理くらいは、出来るようにしておくことやな」
「ええ? でも、わたし機械とか苦手なのよねぇ」
「そうゆうことこそ、タッキーに教えてもらえばエエやん。タッキーを"ご指名"してな」
「美穂姉え。そんなホストクラブみたいなことしなくても......」
でもいいアイディアかしら?
そんなハワイの話しを楽しんでいる間に、裕美と美穂はあっさりとグランデサイズのケーキを平らげていた。裕美もダイエットを気にしているので、これだけのケーキを一度に食べることは滅多にない。かなりハッピーな気分だった。
「裕美それじゃタッキーを"ご指名"に行こうかい。おーいタッキー!」
「ええ! ちょっと待って美穂姉え、店長さんも忙しそうだしぃ!」
キャー!ヤッター。"ドンペリ"でも注文しちゃおうかしら!?
裕美は言葉とは裏腹に、内心はノリノリだった。
『教えて、店長さん!』〜安全装備編
裕美:「店長さん、今日のわたしのウェアやコーディネイションはどうだったかしら? でもわたしもそれなりに決めてきたつもりなのに、店長さんたら全然褒めてくれないんだから! 女の子に対してあの態度はちょっと問題よね!」
店長:「ああ、いえ。美穂さんや他のお客様も居ましたから、裕美さんだけを特別に褒めるというもの難しかったですので......。
あっ、でも裕美さんのファッションセンスは流石ですよね! ウェアだけでなく、ヘルメットやアイウェアも、『デローサ』とパッチリ合わせていて。流石、高級ブランド『ロワ・ヴィトン』で働いているだけのことはありますよね」
「あら、店長さん? 褒めてはくれなくても、ちゃんとチェックはしていたのね。それじゃあ次の練習の時はちゃんと言ってくれないとダメよ。何も言わなくては、愛は伝わりませんからね」
「そ、そうですね......」
「それで店長さん! 今日はロードバイクの安全装備についての話よね?」
「そうです。今日はその裕美さんのヘルメットやアイウェア等の安全装備について説明します」
「あら? このサングラスも安全装備なの? 単にスタイルが決まるから付けてるのかと思っていたんだけど」
「意外と思われるかも知れませんが、アイウェアも重要な安全装備なんですよ。夏でなくても太陽が雲で隠れていなければ、裸眼では眩しくて十分に視界を確保することは出来ませんからね」
「言われてみれば、冬でも太陽が眩しくて困っちゃう日もあるわよね。日焼け対策もあるから、わたしもそういうことは敏感よ」
「裕美さんの言う通りで、冬でも僕らはアイウェアを付けます。視界を遮るものが全くないロードバイクでは晴天時では目が焼かれるような状態なりますからね。長時間、屋外で走ることは視力の低下をもたらします。医学的な見地からもアイウェアは非常に重要なんです」
「帽子なんかじゃダメなの店長さん?」
「うーん、確かにつばの短いサイクリングキャップもあるのですが、アイウェアは空気中のほこりやゴミから目を守るという用途もありますからね。ロードバイクは30〜40キロのスピードを出しますから、空気中のゴミが目に入ってしまうことが多いんです。仮に下りコーナーの最中に目にゴミが入ろうなら......」
「コーナーでクラッシュして、死んじゃうわよね」
「そうです。それに普通に屋外を走っていても、昆虫などが顔に当ることも頻繁にあります。もしこれが目に直撃すれば失明しかねません!」
「良く分かったわ! アイウェアって単にスタイルだけの問題だけじゃなかったのね。店長さん、他に何があるかしら?」
「次はグローブですね。これも非常に重要です!」
「グローブ? それこそファッションじゃないの? 指の穴が開いているグローブなんて意味がないもの。単にカッコよく見せるために、こんな変わったグローブをしていると思ってたわ」
「そう思われる方も多いんですけれども、グローブはれっきとした安全装備なんです。特に足をビンディングで固定しているロードバイクでは非常に重要です。仮に裕美さんが転ろびそうになった時、まずどんな行動をしますか?」
「えー!? まず手を付くと思うけど・・・。店長さん、あんまり意地悪なこと聞かないでね」
「あっと、そんなつもりじゃなかったんですが。でも、手を付いた時に怪我をしてしまいますよね」
「そうなると転んだ時に、手を擦り剥いちゃうかしら? 確かに痛そうよね」
「擦り剥く程度なら良いですが、アスファルトのような硬い所で。しかもロードバイクの乗車位置は、足が地面に付かない位高い所にあります。そこから落ちて手を付くと、歩行中に転んだ時よりも大きな怪我をすることになるんです。具体的には、手の平の皮を擦り剥くだけでなく、その下の肉ごと......」
作品名:恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス 作家名:ツクイ