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恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

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「ゆっくり乗るのが、エエ練習になるんよ。『ロング・スロー・ディスタンス』って言ってな、人の有酸素運動能力を上げるには、ゼエゼエ息が切れるまで練習するのは逆効果なんや。こうやってなあ、おしゃべり出来る位のペースで長い時間走る方が、人間の心肺機能が上げられるんよ。今日も軽く2時間は走るんやから、話も出来なきゃ飽きてしまうやろ?」
「ええ、2時間!? そんなに走るの? マラソンと同じ時間でしょ?」
「2時間なんて自転車ならスグやで。初めてやってもリラックスして走れば行ける、行ける。サドルに体重を乗せて、脚は宙ぶらりにする位でエエ。リラックスすることが速く走るコツや」
「ふーん、力一杯踏むんじゃないんだ? 美穂姉えあんなに速いのに?」
「リラックスした方が人間は力が出るんよ。よくゴルフとかでも聞くやろ、力を入れないで打った方がボールが飛ぶってな。人間はなあ、気合を入れ過ぎると、余計な筋肉まで使ってしまうんや。例えばなあ、腕を伸ばそうとしているのに、腕を縮める筋肉にまで一緒に力を入れてしまうんやな。ブレーキをかけながらアクセルを踏んだ状態や。それじゃ疲れるし遅くなってしまうやろ。力を抜いてペダルを回してやれば、必要な筋肉だけを使ってスムーズに楽に走れるんや」
 メイクにまで気合を入れてきた裕美にとって美穂のアドバイスは予想外だった。でも、楽におしゃべりしながら走れるのならこんな楽しいことはない。
 美穂のアドバイスで気が楽になったのか、裕美のペダリングも軽く、快適に回るようになってきた。実際、チームの皆にも着いて行けてる。初めてにしては上出来と言えた。
「ところで、裕美。タッキーをどう思う? 結構イケてるやろ?」
「え!? そんな美穂姉え! もちろん悪くないと思うけど......」
 いきなり美穂にそんなことを言われて、裕美も言葉に困ってしまう。普通の男の人のことなら美穂に何とでも言えるが、なまじ気になっているだけに何とも言い様がない。
「言わんでも分かってるで! タッキーを怪我させた後もちょくちょく店に顔を出してっていうないか。いやー、その話を聞きたくて、わざわざあんたに付き合ったんや!」
「ええ、そんなあ......。別にわたし美穂姉えみたいに走りたいなあなんて思って......」
「何言うとんのや? バレバレやん! バイクも随分気合入れたもんを買ってるしな。女のわたしから見たからって、そんな高いものに金を出すわけないやないか。さっさと白状しいな!」
「えー、でもわたしそんなに彼のこと知っている訳じゃないし......。もうちょっとお話したいなって思っているけど......」
「あー、でもタッキーは厳しいかもなあ。結構モテるんやけどなあ」
「えっ、そうなんですか!?」
「アハハ、やっぱりそうやろ? タッキーが気になるんやないか!」
 裕美は、アっと言う間に、美穂に本音を白状されられていた。
 しかし美穂も人が悪い。彼をモノにするのは難しい。なんてことを言われては、流石に裕美を気が気でないし、もう美穂に誤魔化したことを言っていられない。
「美穂姉え。あの、店長さんって彼女とかいるんですか?」
「彼女ね――。まあそっちの心配はせなくてエエよ。今んとこ彼女はおらんしなあ。唯なあ、店の方が忙しくて彼女どころやないんよ。アイツ結構モテてタッキー目当ての女の子も見たことあるけど、自転車以外のことについては放置しとる。裕美も相当頑張らんと難しいな」
「えー、美穂姉え。それじゃあ、わたしどうしたらイイの?」
「ちょうどエエやないか。 ロードバイクも買ったんやし、素直に店に遊びに行けばええやん」
「遊びに行くって言っても、そんな何を話して良いかも分からないし......。わたし自転車の話なんて出来ないもん!」
 これには裕美も困っていた。彼が好きな自転車の話など裕美はできないし、他のどんな話ならば、彼が喜んでくれるのか読めない所があったからだ。裕美の好きなフレンチポップスの話も、行き付けのカフェの美味しいランチの話も、彼の営業スマイルで全て華麗にスルーされてしまっている。
 ガードが堅い訳ではない。彼は何時もスマイルで迎えてくれるのに、何とも攻める手段がないのだ。裕美としても実に歯痒かった。
「それやったら、どうや? 今度ハワイに行ってみいへんか?」
「えっ、ハワイ?」
「そうや。ハワイで『ホノルル・センチュリーライド』っていうイベントが来月にあるんや。ホノルル・マラソンの自転車版やな。結構楽しいで!」
「え、ホノルル・マラソン!? それに"センチュリー"って、100って意味でしょ。もしかして100キロも走るの!?」
「いや、もっとや。100は100でも、100キロじゃなくて、"100マイル"のことなんよ。つまり160キロメートルってことになるなあ」
「えー! 美穂姉え、そんなハードなレースなんてわたしは無理よぉ。ロードバイクに乗り始めたばかりなのよ!?」
「アハハハ、大丈夫やって。レースじゃなくて普通のサイクリングやから。それに途中で引き返してもエエようになっとるから、気楽な気持ちエエんよ。ロードバイクが初めてっていう女の子も結構来てるんや。裕美ならハーフ・センチュリーでちょうど良いかもな」
「わたしみたいなロードバイクに乗りたてでも、大丈夫かなあ?」
「平気、平気! レースとかじゃ全然あらへんから。どっちかっていうと初心者が集まるサイクリング・イベントやなあ。パーティーもあるしな。自転車乗った後の飯は美味いし、最高やねん!」
「あのぉ、店長さんも一緒に行くの?」
「勿論タッキーも行くからな。わたしも行くし、センチュリーライドが終わった後はハワイで遊ぼうやないか!」
「そうね。それならわたしも行くわ。ハワイよ。ホノルルよ。わたしも頑張っちゃうんだから!」
「アハハ。そんなタッキーと行けるのが嬉しいんか。でもタッキーも一応仕事で行くんやからな。あんまり期待し過ぎないようになあ」
「そ、それくらい分かってるわよ......。でも少しぐらい期待したって、いいじゃない!」

 裕美と美穂は練習の後、他のチーム員と一緒に『ワルキューレ』の隣のカフェ『フィガロ』で休憩していた。走った後はお腹が空くので、このフィガロでの食事も走行会の一環となっている。
 裕美と美穂はそこで、ちょっと、イヤかなり大き目のケーキを食べながら、彼の話を続けていた。
 「ほらなあ、タッキーと良い話のキッカケが出来たやろ。ツアーが終わったら、写真やビデオを見に来てもエエしな。こうゆうイベントは走る前から楽しいもんな。それで、タッキーは何て言ってた?」
「えっと、彼もハワイはすごく楽しいって! それにわたしがちょっとロングライドは不安なんですって言ったら、
 僕もサポートしますから、がんばって下さいって。ホノルルに行くんですから、次のサンデーライドも来て下さいってね。何か分からないことがあったらすぐ来て下さい、って言ってくれたの!」
「アハハ。別に普通のことなのに、そんなにウレシイんかい。盛り上がってエエなあ」