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恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

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「そうですか......。あっ、痛え。うぅ......。本当に怪我をしていませんか?」
「ええ、わたしは平気みたいですけど......」
 裕美は言われてみて、ぶつかった腕を確認してみたが、少し痛むだけで特に怪我をした様子もない。打ち身程度の怪我はあるかもしれないが、問題なく手も動かせた。
「本当ですか? 俺はこんなに痛いのに......。そうか、ハンドルを取られて俺だけが転んだんだ......。すいません、申し訳ないです」
 彼は痛いと言いながらも、ゆっくりと立ち上がり自転車を起こして立ち上がった。もう一度、身体を確認する仕草をすると、腕を擦り剥いていることが自分でも分かったようだった。
「すいません。あそこの店に行きますので、ちょっと待っていて下さい」
 若い男は自転車を店の前に立てかけると、頭を下げて裕美に謝り始めた。
「申し訳ありませんでした。本当に怪我はないですか?」
「ええ、わたしは大丈夫みたいですけど、あなたこそ血が出てますよ。ごめんなさい。わたし......」
 裕美は少し動転していた。明らかに裕美よりも転んだ若い男の人の怪我の方が酷い。しかも事故の原因は裕美にあるのだ。
「すいません。もし怪我か何かをしていたら、この店に連絡をして下さい。俺、この店で働いているんで」
「でも、悪いのはわたしだし。あなた怪我をしてるし......」
「大丈夫です。俺は擦り傷だけのようですから」
  彼はそう言って店の裏へ行こうとした。裕美も心配で彼の後を付いていった。
「あのー、俺は大丈夫ですよ」
「ええ? でも、あなた怪我をしてるし......」
「ちょっと腕を見てみますよ」
 彼はそう言って、上着を脱ぐと、肘と腕を水で洗い状態を確認してみた。
「多少血は出ているみたいですけど、大丈夫です」
 裕美を不安にさせないよう、彼は優しい声で話しかけてくれた。裕美も初めて彼の顔を正面から見て、「あ、カッコいい人......」と思った。もちろんこんな状況で口に出せる訳はない。
「でも、でも......」
と、顔を少し赤くしながらも、何をどうして良いのか分からず、黙り込んだままだった。
「悪いのは俺ですから、心配しないで下さい。それよりも会社に行く途中じゃないんですか? ここにいつまでも時間を潰せないでしょう。早く会社に行って下さい」
 裕美も立ちすくんで何も出来ない自分が恥ずかしく、彼の言うことに従うしかなかった。
「わかりました。あのぉ、もし何かあったらここへ連絡して下さい。それと後でこちらに様子を伺いに参ります」
 裕美は会社の名刺を渡すと、顔を赤くして外へ出た。ただ彼のこと、申し訳ない気持ちと事故の責任についてどうしようと、頭がグルグル回るだけだった。

***

「ああ、わたしってダメねえ......。弁護士失格だわ。もう、落ち込んじゃう・・・」
 裕美は今日の朝の会議の最中も、ずっと気が気でなかった。幸いにも今日は裕美が仕切る会議でなかったので、とりあえず"フリ"さえしていればやり過ごせる。マネージャーの話も上の空で、事故とあの男の人のことを考えていた。
 本来であれば、警察に連絡すべきだったのかも知れない。しかし、歩道での事故で警察を呼ぶべきか、そうでないかは弁護士の裕美でさえも咄嗟に判断が付くものではなかった。車道で車同士の事故や人身事故なら、真っ先に警察に届け出なければ大変なことになる。だが、歩道の場合、自転車との事故はどうなのだろう?
 少なくとも救急車を呼ぶ程の重症でもなかったようだし、仮に警察に連絡をしても、「当事者同士で解決して下さい」なんて突き放されることも多い。
 いくら弁護士でも道路交通法なんて司法試験の対象外だし、わたしの専門でもないからそんな細かいとこまで分からないし......。
 でも彼の怪我が酷かったら、どうしよう? 本当に軽症だったのかしら? 彼は平気だって言っていたけど、やっぱり病院に付き添うべきだったわよね。
 あの男の人、わたしと同じくらいの歳かしら? ちょっとカッコ良かったから、よけいに罪に感じちゃうわ......。あんな男の人を怪我させちゃうなんて、わたしって男運ないのかしら?
 やだっ! わたしったら男の人のこと考えてる場合じゃないでしょ!!
 裕美は事故のことをアレコレと考えながら、ため息を付きつつ仕事を始めた。でもやはり、事故と彼のことがどうしても気になってしまう。
 やっぱり、もう一度あのお店に行ってみた方が良いわよね......。
 
 ***
 
 結局、裕美は会社を早めに切り上げ、今日彼の店に様子を見に行った。今朝は気が付かなかったが、そこは"WALKURE"『ワルキューレ』という自転車のお店だった。今朝、あの男の人は自転車に乗っていたし、このお店で間違いないようだ。
 裕美は不安を胸にしつつもドアを開き、店に入って中を覗いて見た。でも店の中に彼らしい男の人は見当たらない。恐る恐る裕美は他の若いスタッフに声をかけてみた。
「あのぉ、すいません。今日、背の高い人が怪我をしませんでしたか。このお店の人にいらっしゃるって聞いたんですけども......」
「ああ、それなら店長ですね。店長ぉぉ、店長にお客さまが来てますよ! 怪我のことだってー!」
 スタッフの人が店の奥に居るらしい彼に声をかけると、何故か男の人の声ではなく、女の人の声が返ってきた。
「ああ、そんなら中に入ってもらって! ちょうど今、笑いながら話していったところや。ホンマ、タッキーも間抜けやなあってな!」
「美穂さん、許して下さいよ。そこまで言わないで下さい! あれは流石に避けようがなかったんですよ!」
 その女性はまるで弟をからかう様な口調で話していた。関西訛りとその物言いからも、如何にも気風の良い女性だと分かる。その男の人も必死に反論するものの、彼女には逆らえないようだ。
 しかし事故を起こしたことが一体なぜ笑うことなのだろうと、少々不思議に思いながらも、裕美は奥の事務所らしき所に案内された。
 裕美は部屋に入るなり、ハッと息を飲んだ。
 その"彼"が腕に包帯を巻いていたからだ。しかもギブスを付けた腕を三角巾で固定している。どう見ても、ただの擦り傷などではない。
「ええ! やっぱり怪我していたんですか!? 申し訳ありません、わたしのせいで......」
「そうなんやて、タッキーのヤツ、骨が折れたんやって! もう、ほんま間抜けやなあ。折角のイイ男が台無しやなあ。あんたも笑ってやった方がエエわ!」
「ええ、そんな笑うなんてとんでもありません! でも、本当にすいません! わたしのせいで骨折なんて・・・」
「ああ、謝る必要ないって。タッキーが悪いんやからな。それよりアンタ怪我はなかったって聞いたけど、ホンマ大丈夫やった?」
 そんな姉御肌の彼女が、長い睫毛を携えながらも、少し不思議そうな顔をして、裕美の姿をジロジロと見てきた。
「あ、はい。わたしは平気でした。怪我も特に......」
「ホンマに? どうやってタッキーに骨まで折るほど派手に転ばせたん?」