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恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

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「えーっと、初心者用というと、どんなところなの?」
「主に変速機ですね。シマノの『アルテグラ』のフロント3段変速の変速機を選んでいます」
「店長さん、ごめんなさい。『アルテグラ』って何かしら......? ポルシェみたいな
「良い喩えですね。ポルシェ程高価ではありませんが、『シマノ』は自転車界では名実共にNo.1のブランドで、その正確無比な性能から自転車界のポルシェと言っても過言ではありません。実際、シマノの製品はロードレースだけでなく、マウンテン・バイクの市場でも独占に近いシェアを有しています。自転車界のマイクロソフトとも言われる位なんでよ。
 シマノの最高級パーツはヴィトンやシャネル位の値段が付きます。本当ですよ!
 『アルテグラ』はそのセカンド・グレードの製品ですので、10万円程ですね。まあロワ・ヴィトンのセカンドバック位のお値段かも知れませんね」
 ポルシェ、シャネル・・・。わたしそんな無謀な買い物をしちゃったのかしら? でもデキる女だったら、ヴィトンのバックぐらいは当然よね! ファッションだけじゃなくて、スポーツで身体もシャープじゃなきゃ!
「値段はともかくとして、今回女性用としてフロントの変速機を三段にしました。通常の2段変速の物よりも、軽いギアを使えるのが特徴です。女性で初心者の場合、脚力がありませんので、坂道でも楽に登れるようにフロントトリプル仕様の『アルテグラ』を選びました。
 また新型『アルテグラ』の場合、ブレーキが手の小さい女性でも握りやすくなったことも理由の一つです。デザインもシルバーが基調なので、『ロッソビアンコ』のカラーを壊しませんから。
 あと裕美さんが、イタリアブランドの『カンパニューロ』に興味を示さなかったので。お客様によっては、イタリアブランドを重視する方も少なくありませんからね」
「そうよ!イタリア製なんて、信用できないんだから! イタリアの車なんて、壊れるし高いし、フランスやドイツじゃ、イタリアの車なんて誰も買わないもんね。まあ服や靴は悪くないけどね!」
「......まあ製品の信頼性を重視するなら、シマノを選んで間違いありません。ただサドルはイタリア製の『fizik(フィジーク)』というブランドの『アリオネ』という製品を使っています」
「そうよね。革製品はイタリアは悪くないわ。店長さんの言う通りよね!」
「この『アリオネ』はクッション製が高いこと。それと座面がフラットなので、初心者が楽な姿勢を採り易いのが特徴です。それに赤と白のカラーがあったので、『ロッソ・ビアンコ』とのコーディネートも考えて選びました」
「そうよね。店長さんは、ファッションセンスもあるわよ!」
「......、ありがとうございます。あと女性は肩幅が狭いので、ハンドルも360ミリと狭目のものを。またドロップ部分の落差が少ないものを選びました」
「店長さん、ハンドルのドロップって何かしら?」
「ハンドルが下側に湾曲したこの部分です。スピードを出す時など、深い前傾姿勢を採れる様にこのハンドルの下の部分を握るのです。"ドロップ"とか、"下ハン"などと呼ばれたりしていますね。ロードバイクに慣れていないと、このドロップの部分を握れない人が多いんです。だから湾曲が大きく落差が少ないものを選んだんです」
「よく分からないけど、要するに女性用に小さいハンドルを選んだってことね。それにロードバイクって、お辞儀をしたままの姿勢で走るから首も痛くなっちゃうしね」
「裕美さんの言う通りです。ドロップハンドルがこんな複雑な形状をしているのは、自分の好きな所を握って走り易いポジションを選択する為なんです。裕美さんも初めはハンドルの上の所を持って下さい。他にもステムを短くしたりして、上半身を起こしたポジションを取れる様にセッティングしました。
「そうそう。これでハンドルが近くなって、かなり乗り易くなったわ。それにしてもロードバイクって、色々と考えてパーツを選ばなきゃならないのね。車だってそんな必要ないのに不思議よね」
「車よりも女性が履く靴のようなもの、と考えた方が良いと思います。女性でも靴ズレは深刻な悩みでしょう。ロードバイクでもサドルやハンドル等、身体に触れる部分は自分に合った物を選ばないと身体が痛むんです」
「成る程、靴と同じね! それなら納得しちゃうわ。靴も履いてみないと分からないし、合わないとホント痛いのよ。カラーを選べる所も靴と同じよね」
「そうですね。今回バーテープも、カラーを合わせて白にしています。サドルやバーテープ等はカラーバリエーションも豊富なので、その人のファッションセンスが出ますね。
 もちろんファッションだけでなく、ロードバイクを使う用途によって使うパーツも変わってきますし、乗る人のポジションによっても変ります。裕美さんもこれからロードバイクを乗って上達すれば、また違うパーツが合ってくると思います」
「そうなのよ、店長さん。靴と言えばね、夏のお出かけ用に買ったミュールも、すごくカワイイの!」
「......。裕美さん、僕たちの会話って噛み合ってないですよね......」

***

 裕美の家にロードバイクの『デローサ』がやってきた。イタリア語で"赤"と"白"を意味する『ロッソ・ビアンコ』カラーに、ハートマークが入ったブランドロゴは女の子の部屋のオプジェとしても悪くない。
 ヘルメットや空気入れ等の男っぽいアイテムは、流石にクローゼットに隠している。
 適度にフェミニンに、適度に上品に、そしてしっかりと清潔感のある趣に裕美が仕立て上げた部屋だ。別に彼氏や親からチェックが入る訳ではないが、そんな自分の美意識に沿わないものを置いておきたくなかった。
 でもそのデローサと共に、可愛い自転車用のウェアはちゃんとハンガーに掛けられている。『デローサ』のハートマークが左胸に入っただけの、無地のシンプルな白いジャージに、赤いチェックのミニスカートだった。
 そもそもロードバイク用のウェアは、『レーパン』と呼ばれる水着の様なウェアであり、ヒップラインが露骨に出てしまう。
ウエストも細い裕美でスタイルには比較的地震のある裕美であったが、流石に恥ずかしくて『レーパン』をそのまま着ることは出来なかった。
なので、黒いレーパンの上に赤いチェックのミニスカートを履くことにしたのだ。我ながら、巧いチョイスだと思う。
 勿論、ヘルメットは隠している。ちょっとスピード狂の裕美でも、初めてロードバイクに乗った時、その危険性は十分理解できたのでヘルメットは必須だ。
 自転車のヘルメットを被るとキノコの様な頭になるので嫌がる人が多いらしいが、サングラスをかければ違和感はない。サングラスもスポーツ用の赤いフレームに、ピンク色のレンズを選んだので、ヘルメットともぴったりマッチしている。
 寧ろヘルメットを被った方が、断然クールに見える。
 シューズはル・コックのピンク色のものを選んでみた。赤だと目立ちすぎるので、敢えて"外し"を入れたのだ。