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恋するワルキューレ ~ロードバイクレディのラブロマンス

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「タカシさん元気ないじゃない! そんなに坂道って大変なの?」
「そりゃあ、やっぱ坂はキツイよ。俺みたいに体重があるとね。平地だったら全然皆に付いて行けるんだけどさ」
 タカシが軽口を叩かないとは余程の事の様だ。これでは裕美もセクハラのお返しとばかりに苛め返す訳にもいかない。女の子としてはあまり近寄りたくないタカシだが、辛いながらも真剣に走っているのだ。どうしても声を上げ励まして上げたくなってしまう。
「ハア、ハア......。裕美ちゃん、オサムの奴が遅れちゃってるみたいだからさあ。悪いんだけどさあ、ちょっと見てきてくれない。太ってる奴だからすぐ分かるよ」
「でも、タカシさんは平気なの?」
「ああ、この峠を越える分には大丈夫だから。悪いけど、ちょっと頼むよ」
「分かったわ。でもタカシさんも他の人の心配するなんて、意外と良い所あるじゃない」
「当たり前じゃん! だから裕美ちゃんにも優くしてあげるから、今度ワインでもどうよ?」
「ほら、また始まったんだから! もう、一人で先に行って頂戴! オサムさんを探してくるわ」
 裕美はウィンカーを点灯させて、車を一旦停車させた。タカシの他、ワルキューレのメンバーが裕美達を追い抜いて行くのを確認すると、程なくして、ちょっと太めの人が見えてきた。あれがオサムという人だろう。
 裕美のルーテシアは左ハンドル仕様なので、反対側を追い抜いて行くオサムには声を掛け難いし、必死で走っている彼を停車させる訳にもいかない。裕美は再びエンジンをスタートさせ、彼の傍を並走した。
「オサムさーん! 大丈夫ですか? さっきタカシさんに、オサムさんのこと見て行ってくれって!」
「ハア、ハア......。ありがとう裕美ちゃん。何とか行けるから、大丈夫。ちょっと遅れそうだけど......」
「オサムさんが最後なの?」
「ハア、ハア......。そう、最後。皆に先に行かれちゃったから......」
「ねえ、車に掴ってよ。そうすれば皆にすぐ追い付けるわよ!」
「ハア、ハア......。いや、遠慮しとくよ。美穂さんに見つかったら、どやされるから......。まあ、それは冗談だけど、この坂を走らない訳には行かないからね」
「でもオサムさんを見てたら、わたしだって心配しちゃうわよ。置いて行けないじゃない。だからあのタカシさんだって、オサムさんのことを見てきてくれってお願いしたんでしょう?」
「まあ、タカシも心配はしてるだろうけど、助けてくれって意味じゃないないから。折角の峠なんだし、遅くたって皆と一緒に登るから楽しいんだよ。大丈夫、頂上までは行けるからさ」
「でも......」
「大丈夫だって、ほら、美穂さんが来たよ」
「おーい、オサム! 相変わらず山じゃドンケツかい?」
 美穂が坂道を下って来た。
 まるでアルペンスキーのダウンヒルの様に、一直線に坂を滑り降りて来たのだ。
 美穂はタイヤがスリップする程、強くブレーキを掛けた。車体が左右に軽くスライドするが、そんなことはお構い無しだ。一気に狭い道路をUターンし、オサムの側へやって来る。
「オサムー! オマエ相変わらず、山じゃ遅いな。ちょっとは進歩しないとアカンよ! 少しは痩せて、坂を登れるようにせえへんとな!」
 そう言って、美穂はオサムのメタボ気味のお腹を撫で始めた。
「うわっ、美穂さん、それはちょっと!」
 お腹を撫でられて、くすぐったかったのか、つい悲鳴を上げ恥ずかしそうな顔をするオサムだった。
 女性でも出ている所を触れては、この上なく恥ずかしい。だがそれは男の人でも同じの様だ。そんな美穂の"痴女的行為"を目の前で見せられては、裕美も笑みがこぼれてしまう。本当に美穂は男を扱うのが上手い。
 確かにオサムのお腹はちょっと出過ぎている。メタボ、肥満と言わないまでも、微妙なラインの上にいることは間違いなかった。タカシなどもワルキューレの他のメンバーに比べれば、確かにちょっと太めの部類に入るが、それでも一般的な成人男性としては標準的な体型だ。
 しかしオサムのお腹は"クマのプーさん"の様にポッコリ出てしまっている。総じてスリムな体型の人が多いワルキューレのメンバーの中ではちょっと例外的な存在でもある。
「オサム、お前がドンケツやで! ちょっとは裕美の前で格好エエところ見せなきゃアカンよ!」
「そうよ! オサムさん、どうしたのよ!? ちょっとお腹が出てたって関係ないわよ! 平地じゃ皆と一緒にあんなに速く走っていたじゃない!」
「......。裕美ちゃん、『お腹が出てる』って、そんなストレートに言わないでよぉぉ。 俺、もうダメぇぇ......」
 オサムが恥ずかしそうな表情をしつつ、苦笑いを浮かべる。
「ハッハハ......! オサム、裕美にまで言われてしもうたなあ。いつも美味いものばかり喰って酒ばかり飲んどるから、そんな腹になってしまうんやで。ちいとは節制せえや!」
「でも美穂姉え、オサムさん、平気なの? ちょっと苦しそうだし......。平地の時は皆と一緒にあんなに速く走っていたのに?」
「ああ心配あらへんよ。別に体調が悪いとかじゃないからな。まあ坂は平地とちょっと違うんや。平地なら筋肉さえしっかり付いてりゃ、走るのに体重は全然関係ない。太ってる奴でもそこそこ走れるんや。でも、坂だと体重が重いと途端に不利になるからなあ」
「ふーん、坂だと違うんだ?」
「ああ、かなり違うな。それに平地の時は、風除けに人の後ろに付いてりゃ楽に走れるから、実力差が出にくいんや。でも坂だと空気抵抗の影響が少ないから、もろ実力差が出てしまう。まあ、裕美には実感が湧かないと思うけど、そうゆうモンなんや。だからオサムのことは心配しなくてエエよ」
「そんな、裕美ちゃん! 俺のこと心配してー!」
「なら、オサムさん、ちょっとは頑張ってるとこを見せてよ!」
「ハア、ハア......。流石に無理! これ以上ペース上げたら、頂上に着く前にオールアウトしちゃう。代わりに俺のお腹を触らせてあげるから!」
「そんなのヤアよお! オサムさん、わたし太ってる人は好みじゃないの。例えお金持ちだってイヤぁよ!」
「ハハハ。早速振られてしもうたなあ」
「でも、オサムさん! たとえ太っていても一生懸命頑張る良いわよ! だからちょっと格好良いところ見せないさいよ!」
「ハア、ハア。結局、裕美ちゃんも尻を叩くんだね......。キツい!」
「そうゆうことや! オサム、ちょっとアタック決めてみい! 私も付き合ったるから。そら行くよ!」
 オサムはサドルから腰を上げ、立ち漕ぎで一気にスピードを上げたのだ。所謂"ダンシング"と呼ばれる自転車の漕ぎ方だ。
 オリャーー!
 オサムも気勢を上げて必死に走る!
 ヤァー! ウリャー!
 しかし全身を使いパワーを絞りだすダンシングはスピードは出るものの、そのパワーを維持出来る時間は短い。3分も持たず、オサムはサドルに腰を落とした。
 撃沈するのも早かった。
 ハア、ハア、ハア......。