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八国ノ天

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 予想だにしなかった事を訊かれ戸惑ってしまう。
 ――どうして、こんな時にそんな話を。
「えぇ? っと、それは……彼女……では……ない、です」
「ふぅん。だけどその服、キアラが作ったんでしょ?」
「はい」
 にやりと笑っている愛耶愛に、小声で答える。
「嬉しそうだね。ふぅ〜ん」
「な……、何ですか?」
「べっつに、何でも」
 なんか引っかかる言い方をしてくる。このまま話が終わるのも気持ち悪いので、もう一度たずねてみた。
「何ですか? 何か気になるじゃないですか? 言ってください」
「うん、わかった」即答。「キアラのこと好きなの?」
 カーっと、顔が熱くなる。
「な……な、なにを急に……」
「どうなのかな? 教えてほしいな。教えてくれるまで離さないからね」愛耶愛が楽しそうに手綱を握りながら、木沙羅をぎゅっと抱きしめる。
 木沙羅は、わっ、と驚き、
「え、え、そ、それはその、一応、キアラは……お兄さん、だし、私は……その、兄としてス……ス……す、き、かな」
「ほぅ、兄としてですかぁ。へー」
「な、何ですか……」
「まあ、キアラも木沙羅のこと、大事にしてるよね。その服、この世界で作るの難しそうだし、好きな人じゃないとそこまで頑張って作らないと思うよ」
「え? そ、そう…なの、かな……?」
 木沙羅の頬がまた紅潮する。
「キアラが大事にしてるなら、あたしも木沙羅のこと大切にしないとね。よろしくね、木沙羅」
 愛耶愛は優しく微笑みながら言った。にやけ顔は消えていた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 木沙羅は嬉しかった。
 こうやって女の子同士で話をすること自体、久しぶりだった。佳世とふざけ合ったり、時には喧嘩したりもした。愛耶愛との会話は、楽しかったあの頃を彷彿させる。
「良かった――」
「え?」
「目覚めたばかりで、まだこの世界のこと良く分かっていないけど、木沙羅が辛い立場にいるってのは何となくわかる。だから、笑ってくれて良かった」
「愛耶愛……」
「じゃあ早速だけど、この世界のこと教えてね」
 長い列を作って、木沙羅たちは狗奴本城へ続く山道を進んで行く。

 城が見えてくるあたりに、差し掛かった時だった。
 前を走っていたニニギたちの馬の足が遅くなり始める。
「みんな止まりだして、どうしたんだろう?」
「木沙羅、あそこ……」
 木沙羅は愛耶愛が指差す方を見た。遠くで黒煙が何本も立ち昇っていた。
 愛耶愛はニニギに言った。「あの煙は城の方角なの?」
 ニニギは厳しい表情でそうだ、と言い、
「急げ! あの煙の数は異常だ。あれは城が燃えているに違いない」
 ニニギを迂回しながら、兵が隊列を組みながら駆け足で城を目指していく。

「木沙羅。覚悟はいい?」
「うん、私は大丈夫。愛耶愛は?」
「あたし? あたしは大丈夫。うん、大丈夫……」
 愛耶愛は緊張していた。眠っている間に、様々な戦闘技術や知識、経験を体に叩き込ませてきた。とはいえ、実戦経験はない。
 手綱を持っている愛耶愛の右手を木沙羅は両手で包んだ。
「木沙羅……?」
「大丈夫だよ、愛耶愛。私たちには仲間がいる。きっと、キアラや木霊たちが来てくれる。それまで、頑張ろう」
「うん、そうだね。ありがとう」

    2

 ニニギは散り散りになった軍を素早くまとめ、燃え盛る城内へと突入する。
 木沙羅と愛耶愛も少し離れた位置から、ニニギとゴズの後ろについて行く。

 三年の間に増築を施された城内は、木沙羅が居た頃と比べ、だいぶ変わっていた。
 敵の姿は無いが、城の住民の死体がいくつも転がっていた。無差別に殺されていった後だった。
「これは……ひどい……」
 愛耶愛が鼻を押さえながら口にする。
 木沙羅は綾村大橋の惨状を思い出していた。あの時と似ていた。
 大広間から叫び声が響いてくる。
 ニニギとゴズが重装備を施した兵とともに、大広間へと入って行くのが見えた。
「どうして武器商人のお前がここにいる? こいつらは誰だ?」
 遅れて木沙羅が中に入ると、ニニギが知らない女と話していた。
 絹のように滑らかな金色の髪と透明感のある翡翠色の大きな瞳――麗だった。
「あら? こう見えても私もカムイなのですよ」
 そう言って、女は唇を濡らしてから、
「アトゥイのね」
「何だと? やはり、わしらを騙していたのか?」
 ゴズが怒りをあらわにする。
(アトゥイのカムイ……、後ろの四人もアトゥイのカムイ? いや、二人は妖怪か。その周りの兵もアトゥイの……)
 木沙羅は異様な格好、武器を持った人間たちを目の前にして、粛清が本当に起きた事を実感していた。
「これは、お前たちがやったことなのか?」
 ニニギが鞘から剣を抜き取る。
「当然でしょう。愚かな人たち。太陽のカムイを復活させ、文明を発展させようとしている。行き過ぎた発展は世界を滅ぼすことになる。だから、そうなる前に私たちが止めるのです」
 麗は一歩前へ進んで話を続けた。
「粛清は伊都だけでなく八国全域で行われているわ。あなたたちに代わって、今後は私たちが八国を治めます」
「何だと? 黙って聞いていれば、結局は好きなことをやりたいだけの話ではないか。思い通りにならなければ、虫けらのようにわしらの命を奪う。お前たちがいる限り、この国の人間は苦しむことになる。お前たちがいる限り、この国に未来は無い!」
 木沙羅はニニギから、こんな言葉を聞くとは思ってもみなかった。
(考え方は違うけど、ニニギも国のために――人の幸せを願っているんだ)
 ニニギの兵とアトゥイの兵が対峙する。
 愛耶愛は木沙羅を後ろに隠した。
「一鉄……」
 麗が名前を呼ぶと、後ろに立っていた男が、前へ出る。
 歳は三〇後半だろうか。がっしりとした体躯に静かな眼光がニニギとは違った歴戦をくぐり抜けてきた戦士を思わせる。
 一鉄と呼ばれた男は、野太刀を二振り佩いていた。
「ここは俺たちが引き受けよう。麗とバドは先に伊都へ向かえ」
 一鉄が麗とバドと呼ばれたもう一人の男を見ながら、先を急がせる。
「いいだろう。ここはお前たちに任せるとしよう。田霧島の借りは返す」
 バドと呼ばれた男は、そう言うと、麗とともに背を向け立ち去った。
 一鉄は野太刀を一振り静かに抜くと、
「きさまらでは物足りんが相手してやろう。赤虎、無道、やるぞ」
 アトゥイの二〇名ほどの兵に対し、伊都の兵はその三、四倍はいた。
「その人数でどうするつもりだ。我が伊都重士隊の力を思い知るがいい!」
 ニニギが刀を振り上げ突撃の合図を出すと、伊都の兵が一気に相手方になだれ込む。
 勝負はあっという間だった。
 アトゥイは誰一人、倒れていなかった。
 一方の伊都は半数近くが倒れ、その中にニニギの姿もあった。
 ニニギのそばでゴズが立ちすくんでいた。
「やはり、きさまらでは物足りなかった。伊都国王ニニギは死んだ。これで八国を導くものは誰もいない。このまま放っておいてもこいつらは壊滅するだろう」
 一鉄は愛耶愛を見た。
「うぅん? お前、カムイ太陽だろう? 俺の名は一鉄。カムイ海と言ったほうが、わかりやすいか」
作品名:八国ノ天 作家名:櫛名 剛