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八国ノ天

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 キアラたちの目の前に、四体のムカデが立ち塞がっていた。その後ろに黒装束を着た者が一〇人と黒い天狗が立っていた。
 一進一退の攻防を繰り広げていた。
「櫛の言ったとおりだな。やつら、本気で突破しようとしてこない」官兵衛は言った。
「時間稼ぎね」
「キアラ、残りの傀儡童子を見つけることに集中しろ!」
「わかってる」
 ムカデと傀儡童子は組で行動する。すでに破壊したムカデの残骸がキアラの傍らに転がっていた。
「あれは!?」キアラは叫んだ。
 赤間竜宮の方向、海面から上空へ一筋の黄色い光が昇っていく。
 続いて、赤い光が夜空を勢い良く突き抜ける。
「あの船からだわ」
「あの赤いやつは十真だ! 支援要請の合図だ。船の向かっている先は……黒耀丸か? どういうことだ?」
 敵が後退を始める。
 キアラは官兵衛の疑問を頭の中で繰り返した。(確かにおかしい。伊都がなぜ、アトゥイと一緒に行動している? アトゥイに滅ぼされようとしている伊都がなぜ? いや、そもそも伊都とアトゥイは本当につるんでいるのか?)
 キアラは黒耀丸を見た――答えはあそこにある。
 それに今は――、
「木沙羅!」
 キアラは敵を追うように、全速力で走りだす。

    9

 波しぶきを背にして、ゴズは木沙羅を肩に抱きかかえ船首に立っていた。ゴズを守るようにして、生き残ったわずかばかりの兵が身を固めている。
 左舷の黒耀丸の姿が徐々に大きくなる。船首の先には、船を停泊させるための岸壁が見える。
「やっと着くよぉ」十真は息を切らしながら言った。
「走れ! 十真!」木霊が走る。
「え、なんで? ぁあ!」
 船は速度を落とさず、頭から岸壁に突っ込もうとしていた。
 木沙羅を肩に抱えたゴズが船首から飛び降りる。
 大きな音を立てながら、船首が潰れる。
 木霊と十真が飛び降りる。ゴズたちは、黒耀丸の方へ走っていく。
 木霊と十真は態勢を立て直しゴズの後を追う。
 すると――、
「ゴズ殿!」
 木霊は声のした方を見た。見覚えのある黒い翼。
「あいつは――鞍丸!」十真は言った。「なんで、あいつが伊都に?」
 眼帯をつけた鞍丸がゴズの隣に立つ。黒装束の者がゴズたちを守るように並んでいる。
 そして、鞍丸の背後からキアラ、官兵衛、櫛が姿を現す。その後に綾羅木国と村久野国の兵士の姿。
「木沙羅! 無事か?」キアラが叫ぶ。
「キ、アラ……? キアラ、キアラ!」
 ゴズたちは前後を挟まれていた。だが、ゴズたちに焦る様子もなく、鞍丸が十真を見て話し始める。
「おやおや、これはこれはまた、いつぞやの梟ではないですか」
「また会うとは思わなかったよ。あの爆発で生きているなんて、しぶといね」十真が答える。
「おかげで片目を失いましたがね。だが私は運がいい。あなたの目をこの指でえぐり出すことを、どんなに待ち望んだことか。ところで、あの時いっしょにいた佳世さまはどうしたのですかな?」

「佳世!?」木沙羅は言った。
「おやおや、これはこれは王女さま。お懐かしゅうございます」鞍丸が手足の自由を奪われた王女に、敬意を表するようにおじぎする。
「鞍丸……この裏切り者! 狗奴に忠義を尽くしていたのでは無いのか! なぜ、お前が伊都と一緒にいる!」
 鞍丸は笑った。
「何がおかしい」
「裏切り者はあなたではないですか。佳世さまに光明ノ書と鍵を盗ませたのは、あなたではありませんか?」
「え? 佳世が……?」
「当然だ!」
「はあ? 突然、あなたは何ですかな?」
「光明ノ書と鍵は、王でも誰のものでもない。月のカムイのものだ! それにお前たちは勝手すぎる。木沙羅も太陽のカムイも返してもらう。ヒムカの国もだ! お前たちの好き勝手にはさせない」木霊は長巻を鞍丸に向けた。
 鞍丸は更に笑い声を上げる。
「よく見れば罪人ではないですか。しかも天罪ノ面とは恐れ入りましたな。この悪魔め」
「気をつけろ、あれでもヤツはカムイだ」ゴズは言った。
「何ですと? これはまた滑稽ですな。悪魔でカムイとは。善悪の業を一緒に積み重ねるつもりか、まさに天に逆らう罪人よ」
「お前のその片目ではもはや、何も見えていないようだな。人は善悪どちらも心の内に秘めている。お前は天の声でも聞かないと善悪の判断が出来ないのか? 人が作り出したカムイという名に恐れ、人が作り出した仮面に恐れ、踊らされるお前の方こそ滑稽そのものだ」長巻の刀身がほのかに青白い光を放つ。
「こやつ、減らず口を――」
「鞍丸、落ち着け。我らの目的を見失うな」
「ゴズ、木沙羅を返してもらおう!」キアラが一歩、前へ出る。
「キアラか……。あきらめろ。方円陣!」ゴズが叫ぶ。ゴズと鞍丸を中心に円を描くように兵が取り囲む。
(なぜ、防御隊形を?)
 次の瞬間、木霊は目と耳を疑った。
 さきほど乗ってきた船の方向――大きな水柱が立ち上ると同時に、船体が真っ二つに割れる。
 少しの間を置いて、ブオンと低い唸り声が港全体を埋め尽くすように響き渡る。
 海面から巨大な鋼鉄の棒が一本、二本と現れ、続いて巨大な体が姿を現す。

「あれは!? ウォーチーフ!」
 キアラは叫んだ。
 それは巨大な蜘蛛の脚を持った戦車とも言えた。サーチライトが木霊たちを照らす。
 官兵衛はキアラと櫛のそばに寄ると、「櫛、キアラ、あいつの兵装を見ろ! 背中と腹にロケットランチャーとガトリングだ。木霊たちを狙っている」
「木霊と十真に鉄蜘蛛や銃の知識は無いわ」
「なんだって? カムイなら知ってるんじゃないのか?」
「あいつはカムイ天の子孫だ。俺たちのような二三〇〇年代の人間じゃない。あいつは書も持っていない」
 ――っ! 刀を鞘に収めながら、キアラは木霊の方へ駆けていく。
 ――カムイ天の子孫だって?
「皆、後ろに下がれ! すぐにだ!」官兵衛が後ろの兵に叫ぶ。しかし、旧時代の兵器を知らない兵たちの足取りは鈍い。

 木霊と十真は鉄蜘蛛のサーチライトの中にいた。
「まぶしい! 何、この光? 火でもないのに太陽のように明るい」思わず十真は目を細める。
 鉄蜘蛛は近づきながら、背中と腹に搭載した機関銃を木霊たちに向けていた。
「二人とも逃げろ!」キアラが駆けてくる。
 キアラが木霊と十真の腕を掴んで、乱暴にその場から引き剥がす。
 直後――、
 今いた場所に赤い矢の塊が豪雨のように降り注ぎ、あたり一面を白煙で埋め尽くす。
「立ち止まるな! あれに当たれば確実に死ぬぞ!」
 キアラは叫びながら大人ほどの大きさの木箱が立ち並ぶ場所へと二人を誘導する。ロケットランチャーの咆哮。
 木霊の背中に悪寒が走る。何か得体の知れない音が近づいてくる。
 すぐ後ろ――。
 ドン、と背中全体に衝撃――音が吹き飛ぶ。木霊たちは人形のように空中に放り出され、地面に落下する。
 頭に激痛が走り、すべての音が遮断されていた。木霊はうつ伏せのまま武器の感触を確認すると、指を動かしてみた。
 大丈夫だ。脚は? 首は? 目を開けると、木片や恐らく貨物の中にあったものと思われる様々なものが散乱していた。周りは砂埃と白煙で何も見えない。
「十真! キアラ!」
 十真とキアラが、白煙の中でむせながら起き上がる。
作品名:八国ノ天 作家名:櫛名 剛