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八国ノ天

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 黒装束の者が四人、傀儡童子が一人、十夜の周りを囲んでいた。
 十夜は言った。
「あなたたちは退かなくて良いのですか?」
「ん? 何を言い出すかと思えば、この状況に怖気づいたか?」
「あなたたち、私を殺せると思っているでしょう?」
「当たり前だ。悪く思うな、これも伊都のためだ」
「あなたたちの選択は正しいわ。もし私があなたたちでも手に負えないほど強ければ、無用な戦いは避け一緒に退却していたはず。なのに、確実に私を殺すために残った」
「だからどうした? わかっているじゃないか。天狗」
「逆ですよ」
「何?」
「私はあの子たちのように甘くありませんよ」
 いつもの優しい眼差しは消えていた。
 翼がばさっと広がり羽がざわめく。
 梟が獲物を狙う目――十夜は手首で回すように、くるりと剣を一振りさせると、
「私が皆殺しにしてあげるって、言ったのです」
 その言葉を最後に、声は止み正確に切り裂く音だけが響く。
 やがて、静寂が訪れる。
 赤間竜宮に残っていたのは、空に舞う白い羽と静寂だけだった。

 木霊は桟橋を走っていた。綾村大橋から黒煙が何本も上がっている。
 船はすでに動き出し桟橋から離れようとしていた。
 ゴズが階段を駆け上がり船に乗り込む姿が見える。すぐ後ろから、黒装束の男と女が飛び乗る。
 船上からゴズの仲間が放った矢が飛んでくる。
「木霊!」ゴズの肩の上で揺さぶられながら、木沙羅が叫ぶ。
「ふん、もうこの距離では乗り込むのは無理だな」桟橋と船を結ぶ階段が外れ、海面へと落ち始める。
 しかし、木霊は階段を限界まで駆け上がると、それを土台にして跳躍する。
 通常の人間の跳躍では届かない距離だが、木霊は滑空するかのように距離を伸ばしていく。
「馬鹿な……飛んでいる。ヤツもキアラと同じように飛べるのか?」
 船の上にいた者、全員が呆然としていた。木霊が甲板の上に着地する。間を置くことなく、後から追いついた十真が翼を広げ、木霊の隣に並ぶように降り立つ。
「な! ……くそっ。対岸に合図を送れ!」
 兵が鏑矢の先端に火を着けると、空に向けて矢を放つ。黄色い光が海面を照らす。
「木霊、援護!」そう言って十真は矢筒から一本の矢を取り出し、近くのかがり火に矢の先端をかざす。そして、さっきの兵と同じように矢を放った。赤い光が夜空を駆け抜けていく。
「これは、乱戦になりそうだね」十真は腰に差した刀に持ち替えながら木霊のそばに寄る。
「どうする?」敵の矢を警戒しながら、木霊は十真を横目で見ながら返事を促す。
「このまま、あいつらが大人しく、タダ乗りさせてくれると思うの?」
「思わない」
 お互い笑みを浮かべると、息を合わせたように一斉に走り出した。

    7

 キアラは西蔵と一緒に、綾羅木国と村久野国の王族や貴族と談笑していた。
 やがて和太鼓の演奏が始まると、花火が打ち上がる。
 大輪の花が夜空に咲き乱れる様子に人々が目を奪われている中、キアラは少し離れた所で立っている二人を見ていた。
(あの男と女……さっきから、こちらを見ている。格好からしてこの国の人間では無いな。一見、旅人のようだが男は戦士といったところか。背中にあるのは、弓と剣、杖)
 キアラは櫛の美しさに目を奪われた。竹取物語に出てくるかぐや姫を連想させる。
(しかし、どう見ても守られながら一緒にいるという感じではないな。きっと、男が背負っている武器のどれかが彼女のものに違いない)
 キアラは少し考えてから、西蔵に少しこの場を離れることを伝え、警備兵を二人連れ歩き出した。彼らから敵意は感じられない。
 キアラが二人の前に立ち、話しかけようとしたその時、
「迎えに来たぞ。月のカムイ、キアラ」
 ――!? 言葉がつまる。が、思い当たる節はあった。父の言葉を思い出しながら、キアラは言った。
「あなたたちは、天と地なのですか?」
「話が早くて助かる。俺は地のカムイ、官兵衛だ」
「私は業のカムイで櫛と言います……元、アトゥイの人間よ」
「アトゥイだって!?」キアラは驚きを必死に隠すも、櫛に敵意の眼差しを向ける。
「キアラ」
 櫛は静かに名前を呼ぶと、「落ち着いて聞いて。アトゥイが三五〇〇年前、日本を滅亡に導いたのは知っているわね?」
 そうだ。三五〇〇年前の戦争はアトゥイによって引き起こされたものだった。世界中の人間が集まって作られた月の都アトゥイ。そして、文明の頂点に登りつめた日本は危険視され、アトゥイと世界同盟によって、封鎖されようとしていた。いや、自分が眠っている間に封鎖されたと言ったほうが正しいかもしれない。事実、この国に外からやって来た人間はいなかった。
「ああ、知っている。俺はあの戦争で家族を引き離されたんだ。だけど俺はましな方だ。他の人たちはみんな殺されたからな」
「私たちアトゥイが過去にしたことは否定しない。私も三五〇〇年前……あの時、いたのだから」
 キアラは目をいったん伏せてから、落ち着いた声で言った。
「俺はアトゥイが憎い。だけど勘違いしないで欲しい。過去にはもう戻れないし、大切なのはこれからだ。カムイとして得た能力と文明知識を俺は、この世に役立てていきたい。それが今の俺の気持ちだ」
「お前のご両親は立派だった。それにお前がいかに、この国を大切に思っているのかも俺たちは分かっているつもりだ」
 キアラは微笑むと、「話を続けて欲しい」と言った。
 キアラは官兵衛と櫛から、アトゥイによる粛清がもう間もなく八国で始まろうとしていること、安宅船にカムイ麗がいることを聞く。
「くそっ。やはり商船では無かったな。すぐに兵を送ろう」キアラは、連れてきた警備兵に指示する。
「だが、アトゥイの目的は何だ? 嫌な予感がする。木沙羅……」
 遠くから悲鳴が聞こえてきた。村久野国側の方からだった。いくつもの警笛が和太鼓の演奏を遮るように響き、兵士が数名走ってくる。
「どうした!」キアラは叫んだ。
「襲撃です! 巨大なムカデに襲われあたり一面、血の海です!」そう言って、王族のいる方へ走っていく。
 橋の上は大混乱に陥いっていた。
「ムカデ? きっと技械衆だ」官兵衛は言った。
「技械衆?」
「キアラ、お前は知らんだろうがな。技械衆ってのは人形を操って、人を襲わせる伊都の軍団だ」
「伊都!? ということは、ヤツらの目的は木沙羅だ!」
「だとすればきっと、これは囮ね。キアラ、木沙羅王女はどこにいるの?」櫛は言った。
 キアラは赤間竜宮の方を見た。黒い森から黒煙が見える。
「木沙羅は赤間竜宮にいる。帰りが遅いということはもしや……」
「赤間竜宮には俺たちの仲間もいるはずだ。悲観するな」
「だけど、やっかいね。こっちには両国の王族や貴族がいる。兵士の数も少ないわ」櫛は官兵衛から弓と矢筒を受け取り、最後に杖を手にする。
 人々が逃げまわる中、甲高い無機質な音が近づいてくる。
 三人の目の前を、隊列を組んだ槍兵が走っていく。
 官兵衛が武器を握り締める。「俺たちも迎え撃つぞ」

    8

 綾村大橋は炎に包まれていた。ムカデの襲撃にあった者は人の姿をしていなかった。びちゃびちゃと血肉の上を歩く。
作品名:八国ノ天 作家名:櫛名 剛