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八国ノ天

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「ふふ、ご心配には及びません。綾羅木国の者が二人、旅人か傭兵らしき者が二人参りましたが、王への献上品などを載せた商船と説明しておきました。それにこの船はすでに両国の審査も通っております」
「お前の姿は見られていないのだな?」
「はい」麗は答えた。「私ども古代兵器を取り扱う武器商人が、このような所にいることが世間に知られてしまえば、大変なことになります」
 麗は訪れた四人のうちキアラ、官兵衛、櫛のカムイ三人がいたことは言わなかった。ゴズと鞍丸、ニニギにも自分がカムイであることは隠していた。彼らから見て、麗は一介の武器商人に過ぎない。
 今度は鞍丸が麗に尋ねる。
「あの鉄蜘蛛というやつは信頼できるのですか? 一人で動くカラクリとは聞いたことありませんぞ。本当にあれは動くのですかな?」
「はい、鉄蜘蛛のことは私どもにお任せください。あれもいつでも動かせる状態です」
「鉄蜘蛛は鞍丸の部隊に任せる。技械衆は先に向かわせている」
 そう言ってゴズが刀を握り直すと、周りに立っていた鬼、人間、天狗も一斉に武器を携える。皆、顔に戦闘用フェイスペイントを施し黒装束を身にまとっていた。
「それでは、私どもはこの船で待機しております」麗は言った。

 ゴズと鞍丸の部隊が船から出て行った後、一人残った麗は耳に手をあて、口を開く。
「コントロール。予定通り伊都が行動を開始する。鉄蜘蛛をいつでも出撃できるようにせよ」
 すると麗の耳元から別の声が聞こえてくる。
『こちらコントロール。了解、所属コードSS005VSウォーチーフ鉄蜘蛛、起動します』
「コントロール。鉄蜘蛛の装備はいつの時代になっている?」
『こちらコントロール。現在の時代に合わせています。銃火器は装備していません』
「二十一世紀の装備に今から変更可能か? 変更にどれくらい時間かかる?」
『OG7V弾頭を装填したロケットランチャーおよびM134を追加装備可能。四〇分後に出撃できます。……ですが、この文明レベルで二十一世紀型の武器使用は規則に反しますが……』
「わかっている。だが今回は状況が違う。カムイが四人いるわ。一人は天ノ羽衣を持っている可能性がある。カムイのことは私からアトゥイに報告します。今は準備を急ぎなさい」
『了解』
 耳から手を話すと麗は呟いた。「今のうちに彼らを叩かなければ……誰にも粛清の邪魔はさせないわ」

 ゴズと鞍丸は黒耀丸から桟橋へと出た。
 すでに陽は沈み綾村大橋からの明りが港周辺を照らしている。
「鞍丸はこの場で待機し、花火が打ち上がると同時に攻め込め」ゴズはそう言うと、五〇メートルはあろう黒耀丸の隣で待機していた船に乗り込む。
 ゴズの乗り込んだ船は全長二〇メートルほどの大きさだが、周りに停泊している船と比べて特に目立つようなものではなかった。
 今も同じような大きさの船が数隻、湾内を行き来している。
 船は静かに綾羅木国側の桟橋へと向かった。

    6

 桟橋に降り立った一〇名ほどの兵は皆、ゴズの指示を待っていた。対岸に黒耀丸の姿があった。
「わしの合図で鏑矢を放て。一気に木沙羅王女の所まで向かうぞ」
「将軍、間者の報告では王女のそばにもう一人、見知らぬ女がいるとのことですが」
「構わん、必要とあらば殺せ。まあ、その前に技械衆に殺されているかもしれんがな。周りの兵も同様だが一般人には手を出すな。かえって邪魔になるからな。狙いはあくまで木沙羅王女だ。この作戦の成功の鍵は速さにあると思え」
 ゴズから見て赤間竜宮は目と鼻の先にあった。ゴズたちは船の影に隠れるようにして、時がくるのを静かに待った。
 親子連れの姿が多く見られる。ゴズは胸元から桜石を取り出し、手のひらで転がした。
 ゴズは一瞬だけ口元をゆるめると、それを元の場所にしまった。

 櫛と官兵衛は、夕方いた場所に戻って来ていた。
「あの船に麗が乗っていたのなら、私たちは木霊たちと合流すべきじゃない?」櫛は言った。
「いや、うかつにこの場所を離れるわけにはいかない。麗も俺たちの存在に気づいているはずだ。にも関わらず、あの黒耀丸は動く気配がまったくない。何を企んでいるのか、わからんが動かないということは、すでに何か仕掛けている可能性がある」
「ここには今、両国の王家や貴族が来ているわね」
「そうだな。木霊たちのことも心配だが、こっちも心配だ。カムイ一人では心配だしな」官兵衛と櫛は一人の男に目を向けた。キアラだった。
「あの子がキアラね。どうするの? あの様子では話しかけるの難しそうね」
 キアラは王族や貴族と言われる人と談笑していた。
「木霊と王女、全員そろった所で話した方が早い。実はそれを待っているんだが、いざとなれば無理やりにでも話しに行くさ。それよりも和太鼓の演奏が始まるな」
「呑気ね」櫛はため息をつきながら、不満そうな顔を見せるが目は楽しそうに笑っていた。周りの話し声が消えて行く中、二人は舞台を見た。

 舞台一番奥には直径が二メートルはある長胴太鼓が置かれている。長胴太鼓の前には桶胴太鼓が五つ立つようにして並んでいる。
 長胴太鼓の前で上半身裸の男が、かがり火に照らし出されていた。男は足をふんばって腰を深く落とし桴を振り上げる。
 両手に持った桴が静止する。
 万音一音。

 いよっ、とかけ声とともに男は桴を打つ。
 一音万音。
 雷鳴のような轟き。
 桶胴太鼓の前で五人の男が一斉に右手に持った桴を同時に打つ。
 爆発が起きたかのように空気の震えがそのまま腹に伝わる。
 左手の桴を打つ。
 続けて右手の桴を打つ。
 両手で打つ。長胴太鼓の雷鳴。
 長胴太鼓の音が空に轟くと同時に花火が打ち上がった。

 ゴズは和太鼓の音を聞きながら、じっと綾村大橋を見つめていた。すると、大太鼓の音とともに夜空に大輪の花が咲く。
「行くぞ!」ゴズが駆けだす。背後で次々と花火が打ち上がる。
 門の前までくると、「よし、放て!」ゴズの背後で鏑矢が夜空に放たれる。

 せいやっ、せいやっ、とかけ声。男たちは足を広げ体を前に倒して徐々に速めながら、どどど、と桴を打つ。

「遅れるな! どけ!」悲鳴の中、ゴズたちは門をくぐり抜けていく。
「止まれ! お前たち! 何をしている!」警備兵がゴズたちの後を追う。次々と打ち上がる花火が赤間竜宮を照らす。

「え、なぜこんな近くで花火? って、今の花火かな? 木霊は今の見た?」
「鏑矢……」木霊の知らない色と音がした鏑矢だった。
(今の鏑矢は綾羅木か村久野どちらかのだろうか?)
「うわあ、すごく綺麗」槇は両手を握り締め、次々と橋の方から打ち上がる花火を見ていた。
 木霊は悲鳴を聞いたような気がした。
「槇、何か様子がおかしい……」
「え?」
 カラカラカラカラカラカラ――。
 甲高い笑い声にも似た、木片を素早く打ち鳴らすような、無機質な音が鳴り響く。
「え? 何なの?」
 槇は振り向いてあたりを見まわした。周りの人間も皆、同じ行動をとっていた。
 今度は四方八方から、木霊と槇を囲い込むように林の中から音が響き渡る。周りが歓声からざわめき声に変わる。
 木霊は背中に背負っていた長巻を手に取ると、鞘を外し身構えた。
「槇、さがって」
作品名:八国ノ天 作家名:櫛名 剛