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Zero field ~唄が楽園に響く刻~

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5唱、大きな音の曲



「どうって言われてもな〜…俺らはまだ考えなくていいんじゃないか?
 だって、あいつも言ってたけど、次の港町で知ればいいじゃないか。それに、今はセントバイトから逃げれたことを喜ぼうぜ」
とテラスでショウは潮風を感じながら、落ち着いた口調で、しかし納得いかない面持ちで、後ろに立っているテンへの返事をする。
それを聞いたテンは、テラスの窓のそばに置いてあった椅子に腰かけた。
そして、少し不安な声で
「うん…ごめんね変な事言っちゃって…」
「いや、気にすることはねぇよ…、ただ、バルトはもう味方と考えるべきじゃないって事だけだな…」
ショウはそう言って晴天の空を見上げて悲しげに言った。
テンはそのショウの背中を見て声にならない声を漏らした。
「怪しすぎるよね…」
明日、ショウ達は港町アートレスタに着く。

「さて、何の用かしら…?」
テンが縛られた男に疑惑の目を向けて言う。
男は口を開かず、ただソッポを向くだけである。
男は昨日ショウが捕まえたテンに襲いかかった男である。
「まぁ、どうでもいいがオクトリクスに向かうぞ、こんなとこで止まってもいられないからな。」
バルトがそう言って男を立たせ、連れて行こうとする。
「その人も連れて行くの?」
イナが怪しげに聞く、それをバルトは平然と
「あぁ、何か知ってるかもしれないだろ」
ふーん、と鼻で答えるイナはそれ以上何も言わなかった。
そして、ショウはそれをずっと見ているだけだった。

ショウ達は崖沿いを歩いていた。
どどどどどどどどどど…
滝の音が段々近づいていた、ショウ達はとりあえずそこで今日は休むことを考えた。
まだ日は沈みかけていただけだが、先を急ぐ事より休みやすい場所を選んだのである。
地面は湿っておらず、ここはどうやらあまり生き物が来ていないらしい。
魚は泳いでいたから水は大丈夫だろうと、テンとイナは水浴びをしていた。
縄で縛られた男はバルトが見張る事になった。そして、ショウは今日の焚き火するための木や食べ物を探しに周りを歩き回った。

(おかしいな…魔物の気配すらない…一体どういう事だ?)
ショウの不安は深まるばかりだった。そして、ショウがある木の実に手を伸ばした時。
物陰からガサッと物音がした。
ショウは、そっちに目をやると剣を構えないで警戒だけした。
(魔物…だけど変だな…いや…こいつは…)
物陰から現れたのは、小さな精霊である。

「あの男の人大丈夫かな〜?」
イナが不安を漏らした、がイナの顔は水浴びを楽しんでいる顔だった。
「大丈夫じゃないと思うけど、ショウもいるし大丈夫なんじゃない?」
テンが曖昧な事を言う、テンは魚を1匹捕まえて手でもてあそんでいる。
イナは泳いで魚と追いかけっこをしている感じだった。
イナが1匹の魚を滝の近くで捕まえて飛び出すと、轟音のする滝の後ろ側から何か大きいものが現れた…。

イナは大きいものに捕まってしまった。
大きいそれは大きなハサミを持ったカニのようだったが、後ろ側から触手のような物が数本伸びていてそれでイナを捕まえたのだ。
テンがすぐさま湖から出て服を着て武器をとり触手を切り落とし捕まるのを防ぐ。
「きゃぁああああ!!!!」
イナが触手に縛られて奇声を発する。
それを聞いて後ろからバルトが飛び出してきた。
テンはハッとした瞬間、カニはバルトにもう1本の触手を伸ばす。
触手は不思議な軌道を描いてバルトに伸びた、その触手はテンがさっき切ったはずの触手である。
バルトは辛うじてかわしたが、斧を持って行かれてしまった。
「くそ!」
バルトが言った瞬間にイナがまた奇声を発した。
イナはそのまま気絶してしまった、テンはイナを救うためにまずは触手を狙い撃ちするが、さっきバルトから取り上げた斧で光の矢はすべて打ち消された。
カニは大きなハサミで湖の水面を思いっきり叩いて大きな波を立てる。
その波の速度は速くとてもかわせる高さと速度じゃない。
テンたちは安易に波に押し流され木に叩きつけられる。
テンは頭を少し強く打ちすぎて体に電波信号が送られない、すなわち体が動かないで苦しい声だけが漏れる。
バルトも木に叩きつけられた時、頭を強く打ったようで、完全に気絶した。
(うっわ…頼りないったら、あらしないわ…)
テンが心の中で思うがテンも人の事を言えたような立場ではないことを笑う。
テンに触手が伸びてくる、テンはそれを防ぐ手段はなかったが、それが届くこともなかった。
「クラステシア(甲殻型)だったのか・・・。
 よく考えたらわかる事だったんだな。
 こいつは滝の奥に潜んで魔力の波長を完全にぼかして誰にも気づかれずに、ただ獲物が来るのを待つ…。
 それがこいつの狩りの仕方、それがこの周りにこいつ以外の魔物がいない理由だ…」
そう言ってテンの前に立つのはショウである。
テンはまだ体がうまく動いてくれないが、顔を起してそれが誰かを判断するだけはできた。
「ショ…ウ、おっそいわよ…馬鹿ぁ…」
そう言ってテンは気絶した、そしてショウは一歩踏み出し構える、反撃の時を見計らって飛び出すようだ。
カニは触手を複雑な軌道を描いて数本伸ばしてくる、その触手の伸びはさっきとは比べ物にならないくらい速い。だが、それはショウには全く無関係だった。
伸びた触手はボトボトとテキトーな長さになって湖に落ちていく。しかし、その音が鳴るよりも早くショウはイナを拘束する触手をも切ってカニの甲羅の上に立っている。
カニは一時硬直した。そして、カニはすぐに滝に引き返そうとする、ショウは最後に一振りした。
その一振りはカニの両方の大きなハサミをばっさり切り落とした。

パチ…パチ…
木の枝が火によってはじける音が、月を真上にした夜に鳴り響く、その音はこの静まり返った夜には、うるさすぎる。
風はない、木々は少ししか揺れない、音が出ないほどしか揺れない、それはかえって薄気味悪さを倍増させる。
「も…っと…つ…く〜…なぁ…る…のぉ〜…スヤスヤ」
ショウの隣に横になって寝るテンが寝言を言う。
ショウは微笑みテンの頭をなでる。
テンは夢の中でもなでられているのか、ニタニタと笑った寝顔をする。
ショウは微妙に気味悪そうにもしたが、まぁいいかと仮眠をとる事にし、目をつぶった瞬間。
さっきまでの夜の様子が豹変した。
物音はない、ただ大きい何かが動く気配だけがする。
「何か来るわね…」
テンが寝たまま言った。
どうやらイナもバルトも気づいたようだ。
身を起してその気配を感じ取っている、だがやはり物音は全くない。
そして、ショウがふとすっかり忘れたモノを思い出した。
「あの男!」
言った瞬間にはもうすでに遅かった。
ショウ達は既に男の術にかかった。
ショウ達は身動きがとれない、むしろ脳がそのまま侵されたのか、力と言う力が抜けていく。そして、物陰から男が現れた、男は波に流されて縄がほどけていたのだ。
そのまま自由になった男はショウ達の脳から自分の事を忘れさせて、反撃のチャンスを狙っていたのだ。
「んぁんはっへひぅんぁ…」
バルトが声を上げるが全く言葉になっていない。
テンに関してはそのまま眠ってしまった。