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Zero field ~唄が楽園に響く刻~

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男は手を全開に開いたどこからどう見ても、パーとしか言えないパーを出しており、その手は小刻みにプルプルと震えていた。
女性は得意気にブイサインをしている右手を、自分の顔の横で左右に見せびらかせている。
「私の勝ちね、ヴン今日は貴方のおごりよ」
「っくぅ〜…何でお前ジャンケンそんなに強いんだよ…今まで全然勝った事が無いんだけど?」
諦めたように肩を落とし、毎度の台詞を口にしていつものお決まりの返しをする。
「貴方って読み易いのよ」
そう言って、先に部屋を出て行くと、その後ろをしぶしぶ男はついていく。
部屋の外に出て、廊下を歩きT字の曲がり角を曲がったところで男に急に飛び掛る小さな女の子が居た。
それと同時に廊下全体も傾き、男は持ち堪える事の出来ない耐性になり、女の子を正面で抱きかかえながら尻餅をつく羽目になった。
「ヴン!私もご飯!」
「お前、何でも良いけど、すぐ飛び掛らないでくれるか?」
とても元気良く明るい声で女の子は言うと、眩しいほどのキラキラした笑顔を振りまいている。しかし、男は対照的に片眉を上げてとても不機嫌そうに低いトーンで答える。
女の子は片頬を膨らませ、ブーブー良いながら抗議する様な視線を送るが、男はずれた眼鏡を直すなり、膝の上に乗っている女の子に退く様に右手で促す。
残念そうに膝の上を退くと、ゆっくりと立ち上がりすぐ近くでくすくす笑っている女性を無視して食堂に向かっていった。



あまりの出来事に流石のショウも動揺を隠せず、その場で立ち尽くすしかなかった。
合図と共に後ろに飛ぶはずだったのだが、テンは前に跳び、男に跳び掛ったのである。
ショウは2回後ろに飛んでしまい、テンの行動に動揺し瞬華で間に合うはずの間合いにも関わらず、その場で何もできないで目の前で起こる惨劇を見るだけとなった。
テンは男に向かって走りながら、いくつもの矢を放ち隙を見せなかったのだが、男も槍で矢を打ち落としながら一歩前に出て、近づいてくるテンを待ち望んでいたかと思うと、次の瞬間である。
「ダークネスピアー」
その声と共に男とテンの間合いは0となり、その時にはテンは既に宙吊り状態になっており、槍はテンの右胸を貫いていた。
槍には血が付いており、テンの体からは赤い血が流れ始め、服が赤に染まっていく。
テンは一瞬の間に、かわす事は敵わないと判断し、攻めて急所である心臓だけは外す事に成功し、左胸ではなく右胸が貫通されたのだ。そして、貫通されてすぐのテンは抵抗しようと弓を双剣にし、腕を振り上げるが意識を保つ事が出来ずに両腕がぶら下がった。
テンの手から武器さえも落ちて完全に意識は遠退いてしまった様だ。
男は目の前のテンに気を取られていたようで、ショウが既に間合い0のところに居る事に気付いたのは、ショウの乾いた声を聞いてからだ。
左腕が無い事は1撃目だと思っていた攻撃をかわしてからである。
そのかわした攻撃は既に2撃目で、1撃目で左腕が持っていかれているなど予想もしておらず、飛ばされた感覚もない。
男に思考する暇は全くと言っていいほどに無い、完全に自分の内に秘める精霊と自分の生存本能により攻撃を防ぎ、かわしているに過ぎない。
男は全力で、精霊の力を全開にし、全てのなせる力を使っているが、それでも全くショウの剣に追いつく事など敵っていない。
「これが…フェニックス…」
苦し紛れに呟いた言葉は、突如後ろから現れたショウの蹴りによって遠くの壁へと消えていった。
かなりの距離があったにも関わらず、ショウの蹴りで飛ばされた男は壁に強く叩きつけられ、壁の一部が崩壊し倒れゆく男の上に岩が次々と落ちていく。
ちなみに、男と戦っている間に無駄に放たれた斬撃があたりの地面を切り刻んでおり、デコボコになっている。
それでも、テンが倒れている近くの地面は綺麗に残されている。
しばらくの間、ショウは落ち着かない体を持て余し暴走していたが、一人の剣士がショウ達が来た逆の方向からゆっくりと歩いてくる。
一声かけると、洞窟の広場全体に響く不思議な声がその場を占領する。だが、剣士は歩みを止める事はなく、ふと目に入ったテンに徐々に近づいていく。
ショウは一瞬で自分の立っていた位置と剣士を結ぶ直線を貫いたが、剣士は既に直線上に居なかったため、壁まで到達していた。
既にショウの手には武器はなく、完全なる素手の状態で攻撃を仕掛けていたが、肝心の剣はと言うとテンの傍に突き立てられている。
そして、テンの近くに剣士が近づいているのを剣を通して感じ取ると、壁から腕を引き抜き瞬時に上に跳び、天井を蹴り剣士とテンの間に物凄い勢いと速さで現れた。
剣士は歩みを遅くする事も無く、ただただテンに向っていくのみで、ショウは剣士の顔面目掛けて攻撃を仕掛ける。左足を一歩戻し、攻撃をかわすと肘を顔面に食らいショウは遥か遠くに飛ばされた。
「どれどれ…ふむ、今から運べばまだ間に合いそうだのう…して…」
剣士がテンの脈を計り、まだ息をしているのを確認すると、ポツリと呟くがその頃には既にショウが頭上から攻撃を仕掛けようとしていた。
「紅き鳥よ…もう少し、強くならぬか!心も!体も!全てじゃ!」
そう叫ぶと、剣士は剣を抜き左手に扇を持つ。次の瞬間扇がショウに向かって扇がれると、ショウは空中で動けなくなるが、それは一瞬だけで、体勢を取り直し剣士を探すが、既に地上にはいなかった。
一旦地上に降りてあたりを見渡してもどこにも見当たらない、気配も感じ取れないようでずっと警戒しながら辺りをキョロキョロと見渡している。
だが、姿を確認する事も無く、ショウは腹・顎・胸の順番に中段蹴り・蹴り上げ・カカト落としを食らうと口から大量の血を吐き出しつつも、すぐに体勢を立て直し間合いを取る。
口から血をたらしつつ、やっと気配を感じ取る事が出来るようになったのか、見えない相手の攻撃をかわしていく。
そして、一際遠く後ろに跳ぶと両手を広げて顔の前で打ち鳴らす。
「?!…やりおるわ!」
剣士はついそれを追いかけてしまっていたのか、ショウのすぐ後ろで声がしたが、姿は見えない。
ショウが両手を打ち鳴らすと同時に、突発的な爆発が舞い起こったのだ。
大きな爆音と赤い光が洞窟の大広間を支配する。
剣士は大きく吹き飛ばされ、テンのすぐ近くに着地する。その体は一瞬の内で傷だらけの物となっており、その傷だらけの体は火傷より切り傷の方が多いことから、その一瞬で爆発だけで無い事が分かる。
あたり一面を焼き払っており、まだ炎が消えていない場所からショウの姿が現れる。ショウはゆっくりと剣士に向かって歩いていたが、残像を残し剣士の後ろを取っていた。
ショウの手には魔力で作られた紅い双剣が握られており、剣士に次々と連撃を加えていくが、全て扇と剣で防がれてしまっている。しかし、既に剣士の姿は完全にあらわになっている。
だが、ショウの猛攻も長く続く事は無く、剣士の最後の一撃で全ての動きが止まってしまった。
剣士の剣はショウの頭を完全に貫通しており、ショウは完全に動かなくなってしまったのだ。
「……ショ…ウ…?」
かすかに意識を取り戻したテンは頭が貫通されたショウの姿をおぼろげな意識の中で眼に焼き付け、再び気を失った。