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Zero field ~唄が楽園に響く刻~

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20唱、紅き鳥の遠吠え





「派手にやってくれよって…」
落ち着いた声が紅い化け物にたしなめる様に言った。
―――殺す―――
どこからするでもなく、脳に直接的な言葉が周囲に響くと、その紅い化け物は、落ち着いた声の主に光の速さに負けない速度で間合いを詰め襲い掛かる。
だが、紅い化け物の攻撃は壁に当たる事となる。声の主は化け物の遥か後ろを歩いており、倒れている血まみれの少女に近づいて行く。
それを一瞥する事も無く瞬時に確認した化け物は、絶対に近づかせないとするためか、声の主の前に立ちはだかる。
おぞましく、激しい憎悪と殺気が声の主にピリピリと伝わってくるが、声の主はそんな事はお構いなしで、ドンドン少女に歩を進めて行く。
止まらないと見た化け物はもう一度攻撃を仕掛けるが、あっさりとかわされてしまい、仕舞いには片腕だけで遠くまで飛ばされてしまった。
「邪魔じゃ」
―――触れるな―――
声の主は無視して、少女の首に手を触れて生死の確認をした。



リョウは鍛冶屋に武器を預けるのを明日にしようと、整頓の続きをして、フィルが寝ている間に終わらせてしまった。フィルの寝ているベッドの横に腰をかけて、フィルの買った本に適当に目を通している。
特に面白いわけでもない本なのだが、リョウは全部読み終えて2冊目に手を伸ばそうとした時、フィルがとうとう勢い良くベッドから活きの良い魚の様に跳ね上がった。
「ぶっはぁ!!」
「苦しかったろう」
「あぁ…死ぬかと思った…ってか気付いてたなら寝返りくらい打たせておいてくれよ…」
リョウはあっさりした口調でフィルに言うと、苦しそうな表情を落ち着かせようとしながら答える。
フィルは寝ている間、何度か苦しそうにもがいていた時もあったが、リョウは完全に無視をして本を読んでおり、たまにフィルの方を見て苦しそうにしているなぁ、と見る程度でどうするつもりも無かったようだ。
フィルは、帽子をしたまま寝ていた事に気付き、唾が上を向いている事が不満だったようで、ベッドの上で胡坐をかいて帽子を取って、唾の角度を調節している、こだわりがあるようでかなり念入りにしているが、それを無視してリョウは2冊目の本を読んでいる。
しばらく沈黙が場を制していたが、その沈黙を破ったのは、その場に居たリョウとフィルのどちらでもなく、急に開いた部屋の扉だった。
「ここですわね!」
急に開いた扉の先から現れたのは、桃色の髪をした少女で、その後ろから苦笑をしているレオンが見える。
リョウはボーっと急に開いた扉を見ており、フィルはビクッとして桃色の髪の少女を見ている。
レオンは桃色の少女より先に前に出て、この桃色の少女が誰なのかを説明しているが、リョウの関心は未だに扉でフィルもレオンの話より、桃色の少女の綺麗な顔立ちに見とれていた。
「おいおっさーん、聞いてるー?そして、黒いのー聞いてるー?ドアなんか見てて何が楽しいんだーおーい…だめだ、二人とも俺の話を聞いちゃくれねぇ…」
とレオンが、話を聞いていないと気付き呼びかけてみるが、全く反応をしてくれず、大きなため息と一緒に大きく肩を落とした。
その後ろ姿を見たシオンは、ボーっとして居たが、フィルと目が合うとくすりと微笑んだ。
その微笑みを受けたフィルは少し顔を赤くして、指で頬を恥ずかしそうに掻きながら帽子を深く被った。
リョウはふと何かを思い出したように、レオンを見る。
「カルタイムの姫か、この娘は」
「なんだよ…聞いてたのかよ…」
レオンが呆れながら改めて、説明し直し本題に入ろうとした時、フィルが口を開いた。
「カルタイムか…」
「何か不満でもあるんですの?」
シオンはフィルの言い方が気に食わなかったらしく、少しきつめに聞き返した。
だが、「なんでもない」と答えたっきり、帽子を深く被ったまま窓の外を眺めていた。
しばらくの沈黙が場を制し、レオンが短いため息を一つ付いてからシオンの方を向くと、シオンは片頬を膨らませている、どうやら、何かまだ気に食わないようだ。
リョウに関してはこの空気を上手く察知できていないらしく、また本を読み始めてしまい紙が捲られる音がするばかりである。
さらに、その捲られるペースが単調で、ほとんど同じペースで捲られていて、時計の様に沈黙の部屋を強調する。
とても長い時間3人は大して動いておらず、徐々にピリピリとした空気も漂い始めた頃、外はもう既に夕方で日が落ちようとしていた。
いずれ町は闇に落ちるだろうが、ここは港町で人の行き来が激しい場所なだけあって、夜になってもここはそこそこな賑わいと灯りがあると言われているが、まだその光景をレオンとシオン以外は見て居ないはずである。
旅をしているフィルもここに訪れた事があるかもしれないので、見た事があるかもしれないが、フィルは大して自分が旅してきた町の事などを皆に話したことが無い。
暗くなっていく空に比べ、地上は大して暗くは無く、各店の外の灯りがともされ始めたので、地上は大して暗くは無いがむしろ明るくなっている。
レオンとシオンも長い間動かずに立っていたため、足が疲れたらしくイスに座る事にした。レオンはすぐ横に置いてあったイスをシオンの足元に持っていき、もうひとつのイスを自分の近くに引き寄せて座った。
しばらくしてから、シオンは大きなため息と共に、ドスンとイスに座った。



もうスッカリ暗くなってしまって、部屋のベッドでゴロゴロと転がっている黒髪の女性は気持ち良さそうに枕を抱いている。
ちなみに、意識は夢の中であって現実には意識は無いのだが、結構寝言を言いつつゴロゴロとベッドの上を転がっていると、起きているとしか思えない。
部屋全体が大きく揺れてベッドで心地良さそうに寝ている女性は、大きく転がって頭から床に転げ落ちた。
「はにゃぁ?!」
「間抜けな声を出してんじゃねぇよ…」
「うっさいわね…良い所だったのに…」
「俺が起こしたんじゃないんだから、俺に怒るなよブラコン女」
「ふん、シスコン変態眼鏡男よりマシだと思うわ」
「は…言ってくれるじゃねぇか」
「貴方もね…」
頭を強く打って可愛い声を上げて目を覚ますと、近くのテーブルでイスに座って分厚い本を読んでいたメガネをかけた男が、本を読んだまま会話を始めたのだが、言い争いになってしまっている。
ちなみに女性は、体はベッドにあるのだが、頭が床にぶつかったままで動かずに言い争っていた。
そして、一時沈黙が流れると、二人とも静かに立ち上がり向き合うと、無言のままお互い睨みつけ合う。
最初に口を開いたのは黒髪の女性。
「ジャン…」
それにあわせてお互い右手の拳に力を入れ、物凄いオーラを放ちながら構えている。
次に口を開いたのは男。
「ケン…」
一拍置いてから二人が強い調子で声を重ねて最後の一言。
「「ポン!」」
世に言うジャンケンである。
グーはチョキに強く、チョキはパーに強い、残るパーはグーに強いと言う仕組みの古来より伝わりし、手っ取り早くかつ公平に勝敗決める事の出来る勝負である。
二人の掛け声はとても大きく、一瞬隣接した部屋から苦情が出るのじゃないかと思われるほどの大きさだった。
幸いその気配は無いようで、二人の勝負は決していた。