Zero field ~唄が楽園に響く刻~
サリナは何か置いていかれた感を感じながら、少しの間、ボーっとイナを眺めていたが、くすりと笑うとゆっくり服を着始め、着終わってから眠りについた。
魔物討伐の依頼に向うショウとテンは、宿に書置きを残し、さっさと洞窟ヘと向ってしまい、3人を置いて行ってしまった。
「置いて行って大丈夫だったのか?」
と、ショウが心配して、テンに声を掛けてみるが、テンはそっぽを向いて、少し拗ねている様だ。
ショウは何に拗ねているのか分からず、洞窟に来るまでにも、少し困っていた。
いつもなら、近くで歩いてるのに、今日はかなり距離を置かれており、戦闘中も、回復の時さえも、最低限の接近で抑えている。
さらに言うと、ショウが攻撃を受けてしまった時、いつもは声をかけるのに、全く声をかける事がない。
「何か怒ってないか?ってか、怒ってるよな?」
「別に?怒ってなんかないわよ、えぇ、全くね」
と若干叩きつけるように、言うとさっさと洞窟の奥に向かって行く。ショウは肩をすくめて軽いため息を吐くと、テンの後ろを追いかけた。が、一定の範囲に入るとテンは足を速くしてしまって、結局追いつけないで居た。
魔物が出るや否や、矢を放ちながら、一気にショウの後ろに行って、律儀に援護体制に入る。
ショウが呆れつつも、目の前の魔物を次々と倒し、奥から大きな気配を感じて奥をジッと見つめ、テンがそれに気が付いてから、ゆっくり遠くに向った。
すると、そこに立っていたのは、一人の男で不気味に笑っている。
「そいつはお前がやったのか?」
「察しが良いですね、そうですよ、コレは私がやりましたが?何か」
ショウの問いに、何の迷いも無く答えた男の後ろには、ショウ達の魔物討伐の目的である大型の魔物の死体が転がっていた。
テンはいつでも攻撃が出来るように体勢を作っていて、それをショウは男とテンの直線状に立ち、テンを男から見えないようにしている。
だが、男も結構やるようで、それをあっさりと見抜いてしまった。
「そこのお嬢さん、前に出てきてはどうですか?後ろに隠れたところで無意味ですよ」
(この男…私もかなり気配を消せる方だと思うのに…ショウの後ろに隠れても、気配を感じて、しかも、女だとも見抜くなんて…侮れないわね)
(なんだ…この別の気配は…殺気じゃないから、一旦放置で良いか…?)
などと、二人が考えていると、男が槍をショウに向ける。
「あ、そうそう、あとここに来る途中、数人死んでるのを見かけませんでしたか?」
「!?」
ショウとテンが二人で同時に思い出して驚いた。
ショウ達は途中で数人旅人だろう人間が死んでいるのを見かけていた。
どの旅人もどこかの急所を一突きされて、絶命させられていた。
魔物の中には人間の急所を知っているものも居るが、そこをピンポイントで狙って絶命させる魔物は早々居ない、少なくともこの洞窟には存在しない事をショウ達は確認してきた。だから、ショウ達は誰か別の人間が居る事は察していた。
ちなみに、この洞窟にはまだ先があるのだが、この中途半端なところでその人間に会うとまでは思って居なかったのだが、会ってしまった以上そう簡単には逃してくれなさそうな雰囲気である。
「貴方達もあんな風にしてあげますよ」
弾むような声で言うと、男は笑って槍を構えてショウ達に向かって歩き始めた。
「………」
「ん?どうした?その紙になんか書いてあるのか?」
そう言って、リョウのジッと見つめていた紙をフィルが取り上げて書いてある文字に目を通した。
「どれどれ、魔物討伐に行ってくるからショウはもらって行く、心配しなくても良いからな…なんだコレ…書いたのは…」
「その字はテンだろう、ショウの字ではない」
「やっぱりか…」
フィルが文を見て、呆れて苦笑しているがショウが付いているのなら、大丈夫だろうと思ったようで、その紙を置いて買ってきた物の整頓を始めた。
「む…しまった…」
リョウが整頓している途中に何かを思い出したように、ピタリと動きを止めて口を開いた。
フィルはたまたまリョウの方を向いていた時で、ピタリと動きを止めたのを見て少しして笑いが込み上げてきたが、笑いを堪えながら口を開いた。
「え、え?な、なにが…くくく…あっつ、ブフゥ…あったんだ?くくく…」
堪えきれずに途中噴出してしまったが、聞きたい事は聞けた、リョウに伝わってるかどうかは放っておいて。
リョウは数秒フィルの方を向いて、フィルの言った事を理解しようとしていたようだが諦めたようで、
「武器を鍛冶屋に預けるのを忘れていたな…と思っていた」
と自分の話を続けたのだが、フィルは堪えるのをやめて腹を抱えて笑ってしまっていて、聞こえて居ないようだ。
しばらく経ってから、フィルが「ヒーヒー」言い始めて、笑いが収まってきたと思った頃に、
「武器を鍛冶屋に預けるのを忘れていたな…と思っていた」
と律儀にさっきと全く同じ台詞を全く同じ口調で言った。
フィルは気付いていないようだが、理解したらしく「そうかそうか」と言って、疲れたのかベッドにうつ伏せで倒れこんだ。
「笑いすぎだ、どこにそんなに笑える要素があった?」
リョウは理解できないように、少し首をかしげながらフィルの横に立っていた。
しかし、フィルはすぐに眠ってしまったようで、聞こえて居ない。
「…この寝方…息できなくて死ぬんじゃないか?」
と言ってすぐにフィルは苦しそうにもがいていた。
「大体さ、お前は何してるんだよ?」
「何ってなんですの?」
レオンの質問にシオンは質問で返す。
そんなシオンたちの今居る場所は、シオンの泊まっている宿の食堂で、テーブルを挟んで向かい合って座って居たのだが、シオンは紅茶をずっと飲んでいて、レオンは飲んでいる間まともな反応を返してこない事を知っているので、自分もコーヒーを飲んでいた。
レオンがとうとう痺れを切らし、質問したのだが案の定質問で返されてしまった。
対するシオンは、急に声を掛けられて少し驚いた感じでキョトンとした表情で、レオンを見つめている。
レオンにとっては、シオンに見つめられて赤面しつつ、答える。
「何って言えば、テオドリスに金稼ぎに行かせてお前は何してるんだって事だよ」
「あぁ、私は情報を集めようとしていたところですわ」
上機嫌に答えるシオンは満面の笑みである。
「じゃぁ、さっさと情報集めに向おうぜ、こんな所でのんびりとなんてしてらんねぇだろ?」
レオンが赤面しつつ立ち上がるが、シオンはまだ紅茶を楽しむつもりで居るらしく、立ち上がる気はなさそうだ。
ふるふると少しの間震えていたのだが、諦めたのかレオンも席に座りなおして、紅茶を飲み終わるのを待つ事にしたとほぼ同時に、
「おば様、紅茶のおかわりを頂けませんかしら?」
と後ろの方に居る、宿屋の亭主の女性に声をかけるシオンを見て、情報集めするのを諦める事にした。
亭主が紅茶のおかわりを持ってきた時に、シオンが口を開いた。
「ここの紅茶は美味しいですわね、おば様のお手製かしら?」
「あら、上手ねぇアンタも」
微笑みながら、シオンの紅茶のカップに紅茶を注いでいく。
「おば様、近々戦争が起こりうるという噂などを耳にしてませんかしら?」
作品名:Zero field ~唄が楽園に響く刻~ 作家名:異海 豹