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Zero field ~唄が楽園に響く刻~

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フィルは少しポカーンとしていたが、年上の人間として何かしなくてはいけないのだと思ったらしく、近くのアクセサリー屋に入り、少ししてから帰ってきた。
律儀にリョウはその場を動く事無く、さらに言うとさっきからずっと同じポーズをキープしたまま待っていた。
それを見たフィルはつい噴出してしまったが、さっきまで持っていた荷物にプラスでさっきの店で買ってきたであろうアクセサリーを渡す。
「時にはな、必要なくったって、持っていた方が良いもの、身に付けていた方が良いものって言うのはあるんだ。実践的じゃないし現実的じゃないがな、俺らは心を持った生き物だ、折角心があるんだ、全開に使ってやろうじゃねぇか」
ちょっとかっこいいセリフをフィルが言った事にリョウは少し驚いた様子だったが、珍しくリョウも微笑み、フィルから渡されたアクセサリー…チョーカーを身に付けた。
そのチョーカーはシンプルな出来で、安物っぽかったが、三日月の中に星がシンボルであるチョーカーを大切にしよう、そう心に秘め。
「やはり年長の言う事は一味違う、これからは、たまに少し俺も贅沢してみる」
と、感謝の気持ちを述べた。


「え…えっと、俺と同じ年くらいで、ここくらいの身長の桃色の髪をした女がここに泊まってないか?」
シオンを探すために、片っ端から宿を探しており、レオンは3件目の宿屋を当たっていた。
最初の宿屋の時、レオンが「これくらいの女が泊まってないか?」と身長で示してしまったがために、若いお兄さんが店番をしていたせいで口説かれてしまった。
ちなみに、何度も男と言っても聞かなかったので、殴り倒して泊まっているかどうかを吐かせた。
2件目は、さっきの反省を活かして、「俺と同じ年くらいの女がここに泊まってないか?」と言ったがために、数人やってきてしまった。
そして、数人用も無く呼ばれたことに怒り、レオンを数十分叱っていた。
正座をさせられていて、慣れないものだから今もまだ足が痺れている。
「あぁ、泊まっていますよ、先ほどテオドリスと言う方と一緒に泊まっておられますね」
店員が普通に答えたので、レオンはちょっと拍子抜けしたように、ポカーンとしていると、後ろから声をかけられた。
「あら?レオンじゃない、どうしてここへ?」
シオンの黒いオーラが、八つ当たり気味にレオンに向けられている。
それもそのはず、レオンは本来今頃セーツレーノンに居るはずなのである。
それがまさか、正反対、おまけに二手に分けた場所のヨリーに帰ってきている。
説明を受けていないシオンは、次の言葉が出るよりも先にレオンの胸倉を掴んで持ち上げている。
店員は目の前で繰り広げられている出来事に、目を見開いて驚いており、関り合わない様によそを見ている。
「どうしてここに居るんですの?早くお答えなさい…」
黒いオーラが目に見えてしまうほど強く滲み出ている。
早く答えろ、と言われても、胸倉を掴み持ち上げられていては口がうまく開かないレオンでは、答えたくても答えられない。
それに気付いたのか、シオンはレオンを下ろし、イライラするのを頑張って抑え、レオンが話し出すのを待っている。
レオンは少し青ざめた顔を落ち着かせるためか、深呼吸を2回してから、やっと話し始めた。
「実は、道に迷って、セーツレーノンに行けなかったから、仕方なくシオンと合流しようとして、ヨリー目指してたら、途中で間違って風の神殿にたどり着いて、そこで見つけたGeneretorの行動派の奴らとここに来たんだ」
と、レオンが長々とした台詞を一息で頑張って言い切ると、シオンがさっきまでの黒いオーラはどこへやら、目を輝かせて、両手を祈るようにして凄く良い笑顔を浮かべている。
レオンはこう言う時、次に何されるか分かっている、長い付き合いなのだ。
「レーオーンー♪」
店員もビックリ仰天、さっきまで胸元掴みあげて宙吊りにしていた人間が、打って変わって今度はレオンに抱きついているのだから、驚かないわけがない。
さっきとは違い、黒いオーラと言うより、桃色のハートが飛んでいそうなオーラを放っている。
何も知らない人が見れば、単にイチャイチャしているカップル――レオンはガタガタ怯えて震えているが…――に見えてしまう。
「そ、そういえば、テオドリスって誰だよ?」
ビクビクしつつ、シオンの両肩をを掴んで、少し距離をとって気になる事を尋ねた。
甘えたりない、もっと抱きついていたい、と言う視線を送りつつ質問に答える。
「ポーテリッツで知り合った、あのオメガの伝説に出てくる英雄の一人ですわ」
「なんだって?!」


「いよーう、待たせたな」
「久しぶりだよークロナー!」
メガネの茶髪ロング男とクルクルにロールを巻いた青髪の女の子が、とある喫茶のベランダで日向ぼっこしているクロナに声を掛けた。
女の子に関しては飛びついているが。
クロナはよだれを垂らしながら、寝ていたようで飛びつかれて起きた。
とてもいい夢を見ていたのだろう、起きても少しの間ニヤケと言うのか、口の形が少し三日月上になったままだった。
「何ニヤけてるんだよ…」
男が呆れてため息交じりに言うと、クロナが慌てたように、
「べ、べっつに?ショウが私を助けてくれる夢とか?禁断の恋に落ちる夢なんて見てないわよ!?」
勝手に自白しているクロナを見て、男はお腹を抱えて笑い始め反対側のイスに座る。
女の子は何故か得意気に言う。
「禁断の恋?クロナは甘いねぇー…弟との恋は立派な恋なんだよー…」
「お前は城の使用人に混じって年齢制限の漫画を読みすぎだ」
男が女の子の頭を叩いて叱る。
しばらくして、やっと正気を取り戻したのか、クロナが口をパクパクして、驚いている。
「ヴン…エイナー…」
「よ、起きたか?」
「おはよー、クーロナ♪」


サリナがボーっと空を眺めながら水浴びをしていた。
今誰も男と同行していないからと言って、サリナは服を着ずに素っ裸のまま、イナが暖まってる焚き火のところまで戻ってきた。
「コラァ!服を着なさいって何度も言ってるでしょ!」
イナはサリナを見て何度も叫んでいる。
正直これが、元姫だったなんて誰も思えないくらい、普段の生活がだらしないのである。
宿に泊まっていた時は、部屋でゴロゴロして店で買ってきたおやつをバリバリ食べて、部屋からあまり出たがらないと言う引きこもりっぷりだ。
風呂上りや、水浴び帰りはもちろん服を着ずにタオルを頭に被って帰ってくるだけなのだ、つまり、隠すべきところが隠れていない。
「いくら男が同行して無いからって、そんな格好で外をうろうろするのなんて絶対ダメだよ!女性としてどうなのよ!」
これじゃ年齢的にどっちが子供なのか分からない、いや、ある意味正確なのだが。
サリナは叱られている間も髪を拭きながら、話を流すように聞いている。
一応正座させられていると言うのは補足だ。
「眠い」
イナが長々と説教してる真っ最中に、いきなりサリナが髪を拭き終わったかと思った時に、発せられた一言がこれだ。
呆れて物も言えないイナは、肩を落として気が抜けたように腕をぶらつかせて、自分の寝る位置に移動して、乱暴にお休みと言って眠ってしまった。