Zero field ~唄が楽園に響く刻~
19唱、勝機の見えぬ軍歌
ドクン……ドクン……ドクン……
ショウの心臓は今、目の前で展開されている事で、強くとても強く脈打っていた。
ショウ達はヨリーの役所にある、掲示板から見つけた依頼の大型の魔物討伐をショウとテンの二人で引き受け、他の三人を留守番に置いてきていた。
しかし、今ショウの傍にテンはおらず、ショウが目を見開いてみている先にテンは自分の血に塗れていた。
この瞬間はショウにとってはとても長い時に感じれており、過去の同じような記憶を思い出していた。
テンの体は、宙に浮いている。と言うのも、今テンは一人の男の槍によって右胸を貫かれ、槍に持ち上げられている状態なのだ。
テンの血が足を伝い始めた頃、ショウはとうとう声を発する事が出来たが、それよりも前にショウの体は男の左腕を斬り飛ばしていた。
「次は首だ」
その声が先かもうショウの左に持った剣は、首に目指している。
男はテンを投げ飛ばし、体勢を低くして後ろに飛び退いて辛うじてかわすが、ショウには一瞬の猶予も与えないというように、後ろから攻撃を仕掛けている。
槍で防ぎつつ、ショウの追撃をドンドンかわしていくが、ショウの速さは普段以上に尋常じゃなく、ほとんどの攻撃を防ぎかわす事しかできず、反撃をしようものなら一瞬で絶命してしまう、そんな気を起こさせる殺気と速さと剣捌きだ。
ショウの剣は両手の2本しかないが、目で見える範囲以外からの攻撃が混じっており、男はその攻撃を全てもろに食らっている。
ショウの右の一振りで3回以上の攻撃が襲い掛かっていて、男は見る見るうちにボロボロになっていく。
「これが…フェニックス…」
その言葉が終わるとほぼ同時に、ショウは止めの蹴りで男を洞窟の壁に叩きつけた。
「なんだかんだ言って、やっとヨリーまで帰ってこれましたわね」
「姫は我の意見を聞かずに、夜にもかかわらず先へ進もうとするからのぅ。まさかここまで行動的とはのぉ。我らの旅の時では考えられぬものだった。」
シオンが少し嫌味を言うように、隣に立っている青髪の涼しい顔をした、蒼い扇子を扇いでいる剣士を半ば殺気を宿した眼差しを送っている。
剣士はそんな視線も気にする事無く、バーミリアからヨリーまでの旅での出来事を毎回毎回笑い事のように話している。だからシオンはこの剣士を極端に嫌っており、声には毎回殺気に近いものを感じさせるのだ。
宿を取るために町を歩いているのだが、シオンは周りに黒いオーラを発しながらまるで何かの呪いかと思う形相で剣士の横を歩いており、剣士は町を楽しみながら笑顔でまともなオーラを全身から発していて、まるで”横に居るシオンは他人です”と宣言しているかのようだった。
その二人は町の人たちからあからさまに変な目で見られているにもかかわらず、南出入り口に近い宿屋をとる事にした。
そして、その頃ショウ達もヨリーに着いたところだった。
「ん?なんかさっきすごい黒いオーラの主がそこの宿に入ったような……」
テンがポツリと零した疑問は、前で騒いでる三人には聞こえていないようで、三人が騒いでいるせいでショウにすら聞こえていない。
一人頬を膨らませてそっぽを向きながら四人についていくテンは、しばらくするまで口を聞かなかった。
ショウ達はヨリーの中心に位置する宿を取ったが、ショウ達は休む事をせずとりあえず、レオンはシオン探し、リョウとフィルは買い物、ショウとテンは金稼ぎに出かけることに話し合いをせずに決まっていた。
「ん?手紙着てるな…どれどれ…」
ショウが役所で真先に取った行動は手紙の確認で、テンもついでに確認していたが、大概ショウとテンは一緒に行動しているため、ほとんど手紙はショウの方にしか届かない。
それをちょっと恨めしそうに膨れてるテンは、ショウの肩に背伸びをして顎を乗せ手紙を見ている。
内容がたとえ、テン宛でもショウに届く事が多いのはテンにとって、いじける要素の一つでもある。
どうやらこれはGeneretor名簿確認の手紙のようで、名前がズラリと書き並べてある。
その中の名前に、ショウとテンの名前はもちろん、リョウ、イナ、レオン、シオンの名前も書いてある。そして、下の方にここ最近増えた人物名が書いてあり、そこにはサリナとフィルの名前があった。
「私への手紙省きやがったわね…」
テンが肩越しに文句を言うのを、ショウは微笑んでテンの頭を撫でる。
名前にサリナが追加されてるという事は、イナがGeneretorに入るように勧めたのだろう。
ちなみに、フィルはと言うと、ヨリーについて宿を取る前に立ち寄っていたので、きっとこの手紙は先ほど送られてきた手紙なのだろう。
Generetor新人5名、死去89名、行方不明2名、死去の中にクローツの村長の名前が入っており、今回の死去のほとんどはクローツに住んでいた者たちのである。
行動派の人数は14名で800名の中から2%に満たない。だから、ショウ達の存在はGeneretorには重要な存在となる。
「早くこの戦い終わらせたいな…」
「……うん…」
ショウとテンは少ししんみりした面持ちで、そのまま掲示板のところに行って見ると、そこには一番高金額の報酬が出る魔物討伐の依頼が張ってあった。
二人はそれをボーっと眺めていて、ちょっとしてショウがテンを見ると、テンも同時にショウを見ていて、目が合った時二人は同時にその紙を手に取った。
必要そうな物を次々と買っていくリョウを見て、フィルは”無駄遣いしそうにないから結婚する奴は贅沢できるなー”などと考えていて、ほとんど荷物持ちとしてしか働いておらず、フィルは今のところそれ以外役に立っていない。
一応会話をしながら買い物をしているのだが、フィルとイナ、ショウに対しては比較的に話す方だとしても、結局元が口数が少ない人間なだけあって、思う以上の会話が成立するわけじゃない。
それでも、無言の買い物はフィルにとってはかなり精神的にきついので、なるべく口を開くように頑張っていた。
「これとこれとこれ、あとこれもくれ」
旅に必要な物を次々と買っていくリョウの姿は、もはや熟練の旅人さながらだが、それ以上に旅をしてきているフィルは、無駄な買い物はしょっちゅうしていて、よく金欠になることがあった。
フィルにはリョウの買い物は勉強の一環とも言える。
「お前たまには何か余分な物買いたいとか思う事とかってないのか?」
少し疑問に思ったことを、フィルはとうとう口に出した。
何か理由があるのならそれ以上突っ込む気は無かったが、リョウから返ってきた言葉は、
「ある、だが必要ないものは旅の中では持っていても仕方が無い」
と現実味のある言葉で、フィルはさらに疑問が浮かんできたようで、それも口に出した。
「さっきこの町来る前に、ショウから石もらったじゃねぇか」
「アレはタダだったからな」
要はお金を使ってしまえば、必要ないものだとお金の無駄になってしまうが、タダならほしい物は貰っておくのだと言う事だ。
この考えは、貧しい人がよく覚える生活、節約法でもあるが、リョウがその思考の持ち主だとはフィルは思ってもみなかったようだ。
作品名:Zero field ~唄が楽園に響く刻~ 作家名:異海 豹