Zero field ~唄が楽園に響く刻~
18唱、別れの雷鳴が聴く
一人の剣士が蒼い扇子をパタパタ扇ぎながら、微笑んで口を開いた。
「ふぅ…しかし、久方ぶりよなあ…」
「最近は来訪者が多いな…」
子供が頬杖をついて退屈そうに王座に座っている。
久しぶりの再開にもかかわらず、共感する風もなくただめんどくさそうな表情を浮かべる子供を見て、剣士はセンスをいい音を立てて閉じた。
「久方ぶりの再開と言うのに、相も変わらずの面白味の無い奴よ」
ため息のような、悲しみのようなあいまいな声を上げる剣士。
「お前こそ詰まらないだろうが、私をこんな体にしよってからに…」
いかにも嫌そうな視線を剣士に向ける。
剣士が羽の髪飾りを揺らし、大口で笑い出した。
「な、笑うな!」
「ははは、いつも申すが、悪かったと言っておろう」
顔を赤く染めた子供が叫ぶと、剣士が謝罪する。
今王室には子供と剣士だけで、他の使用人たちは外に追い払われている。
しきりに笑った後、剣士は扇子を広げまた扇ぎ始め、少し真剣な顔になった。
「動き始めたようだぞ…?」
剣士が笑みを零しながらそう告げると、子供の方はどうでもよさげに、
「知っているよ…昨日もカルタイムの娘が来たわ」
「ほほう、もっと詳しく知りたいものよのう…」
剣士は不敵な笑みを浮かべて子供に言った。
雲一つ無い空、星も一つも見当たらない空、それなのに満月が夜を照らし出していた。そんな中、搭の頂上にショウが一人立っていた。
普段胸元の服のボタンを留めてペンダントを服の中に入れているのに、この時外してペンダントを出していた。
ショウは満月を見ているわけでもなく、ただ何も無い黒い空をボーっと立って眺めていた。
そこでずいぶんと長い間ボーっとしていたが、ふと何かを感じたのか端に行って下を眺めた。
暗くてよくは見えないが、下に3人の人物があることに気付ける。
ショウはペンダントを仕舞うと、そこから下に向って落ちていく。
正直、この搭は外に階段があるわけでも綱や縄梯子があるわけでも無い。だから、下りる際は落ちるしかないのである。
となるとショウはどうやって上ったのか、と言うことになるのだが、ショウの魔力によって重量を一時的に変化させる技術により、
上に跳んで、壁を蹴って剣でまた上に跳んで壁を蹴って剣でまた上に跳んで頂上の端に捕まる事に成功した。ちなみに、5回失敗している。
ショウは普通に着地すると、下に居た3人はビックリしたのか、目に見て分かるほどに体をビクつかせた。
「え?何々?!」
「だ、誰!?」
「なんなんですか!?」
三人三様の事を叫び、一人は驚いて何もできず、一人は身が前で戦う姿勢に、一人はパニクってしまっている。
ショウはそんな三人を見てクスクス笑い、初めに落ちてきたのがショウだと気付いたのは戦う姿勢になった人物だ。
「なんだ、ショウじゃない、ずっと捜してたのに、上から降ってきたって事は搭の上にでも行ってた?」
拍子抜けしたような表情を浮かべ、少し不機嫌な声がショウに放たれる。
ショウは肩をすくませて「そーですよー」と答えると、その声を聞いて次に気が付いたのは、何もできないで居た人物。
「およ、その声はショウだねぇ〜テンは気付くのが早いなぁ〜」
ホッとした様な表情を浮かべ、いつもの陽気な声で言う。
ショウが微笑むと、二人は残りの一人をジット見つめていた。
「これは夢です、幻です、気のせいです、何も無いんです、大丈夫です、生きているんです、アレはきっと魔物です…」
と相当パニクって頭を抱えてしゃがみこんでおり、未だにショウだとは気付けて居ないようだった。
と言うより、全く別のものと勘違いして何も聞かないように、何も見ないようにしている所為でもあるのだが。
「サリナって霊的なものが無理なのか?」
とショウが苦笑気味に話しかけると、やっと正気に戻ったらしく、ショウを眺めてボーっとしている。
しばらくしてから、サリナがショウの言った事を把握したのか、
「そそそそそんなこと無いですよ!?わ、私、た、戦えますよ?!大丈夫ですよ?!ゴースト(亡霊型)の魔物でもお茶の子さいさいのうふふのふですよ!?」
と意味の分からない事を、隠しきれて無い動揺と共に叫ぶ。
「サリナ、何言ってるのか意味が分からないんだけど」
とテンが苦笑しながらサリナに話しかけると、サリナはさっきまでの同様はどこへやら、いきなり冷たい表情になって、バカにしたように見つめる。
テンはその代わりようにカチンと来たのか、口の端を吊り上げて怒りをあらわにしている。
「あ、そういえばね、レオンが呼んでたよ〜」
そんな二人を余所に、ファナがショウの腕に絡んできながら、捜していた理由を話した。
ショウは二人を置いて姉妹宅の近くに展開されたテントの方に歩いていく、すると子供のように後ろから走って追いかけていった。
「ごめんね、こんな狭い部屋で2人で寝るなんて」
サラは申し訳なさそうに人差し指で頬を掻きながら言うと、シオンをベットに寝るように促した。
が、シオンは先ほどお風呂に入って乾かない長髪をタオルで雑に拭いていて全く聞いていなかった。
サラが目を細めてあからさまに嫌な表情を作りしばらくの間睨みつけていると、シオンはやっとそれに気付いたらしく、「ほえ?」と可愛らしい声を上げた。
「ご・め・ん・ね、こ・ん・な・せ・ま・い・部・屋・で、ふ・た・り・で・寝・る・な・ん・て」
嫌味を込め一文字一文字を丁寧に…強調するように言うと、今度はシオンが、
「分・か・り・に・く・い・で・す・わ」
と同じように面白半分で言い返した。
サラは、カチンときたらしく、シオンを持ち上げるとそのまま勢いよくベットに投げ込んだ。
「ふにゃ!」とまたも可愛らしい声を上げて、ベットに思い切り尻餅をついたシオンは、お尻をさすりながらさらに目をやると、
サラは無言で寝るように威圧を放っており、シオンは渋々それにしたがって寝る事にしたようだ。
シオンが布団を被るのを見ると、サラも浅いため息を付いて自分のために敷いた布団で横になって目を瞑った。
「それにしても、姫ってやってて楽しい?」
サラがふと思ったらしく、唐突にシオンに目を瞑ったまま質問を投げかけた。
が、返事はしばらく経っても返ってこず、サラが本気で寝ようとした頃に返事が返ってきた。
「楽しくありませんわ」
「ホントめんどくさい人ね」
「何か言いまして?」
「イイエ、マッタク」
シオンは楽しく無い理由を少しして話し始めた。
「私、姉が死ぬまではとても楽しい日々を送っていましたわ。
地下牢に勝手に忍び込んでは、罪人の人たちと楽しい会話で花を咲かせたり、城を勝手に抜け出して旅人を装って魔物討伐をしに行ったりしてましたわ。でも…」
(ゴメンすごく突っ込みたいところがありすぎるんだけど…)
と心に思うサラはまだ続くであろう話に水を注すと悪いと思い、黙って続きを聞くことにした。
「…………………」
「……………?」
「あら?感想は無いんですの?」
「貴女ってホントムカつくわね」
シオンは話を続ける事にした。
「姉が死んでからと言うもの、私は女王だった姉に代わり、国を治めなくてはならないと言われ、色々とやらされてきましたわ。
作品名:Zero field ~唄が楽園に響く刻~ 作家名:異海 豹