Zero field ~唄が楽園に響く刻~
「はっ……し、勝者クロナ!………勝者クロナ!!!」
「わああああぁぁぁぁ………」
審判の宣言により我に帰った観客達は、元の盛り上がりを取り戻しさっきまでの賑わいが戻った、いやさっき以上だろう。
クロナはそのまま女性準備室に歩いていくと、女剣士が笑って待っていた。
「面白いねぇ!すまないねぇ、これでトリーの選んだ意味が分かったよ!
次は俺と勝負だからよろしく頼むよ!」
「さっきの見てもまだ戦闘意思がうせって無いって事は、相当なバカか自信家か実力者なんでしょうね?」
挑発気味に少し睨みながら言う。
「俺はバカの中でも、挑戦バカって呼ばれてるんだよ」
と笑って言い返されて言う事がなくなって、クロナは肩を落としてベンチに戻っていった。
「まさか1撃で終わらせてしまうなんてすごいです!」
と喜び気味の声がクロナに掛かった。
「そうでもないわよ、私なんてまだまだ…木剣でも剣圧だけで大きな木を切り倒せる人がいるんだもん」
「そんな化け物みたいな人いるんですね〜」
クロナが苦笑いしながら驚きのセリフを言うと、サニーは目を見開いて驚いていた。
「兄さんもリュウも化け物みたいに強いからね…」
と誰にも聞こえないような小さな声でクロナは呟いていた。
そこは戦場と化しており、武器と武器がぶつかり合う音が鳴り響いていた。
「さすがにセントバイト兵士…この数、このしつこさは流石クラスBと言ったところでしょうか…?」
「ごちゃごちゃ言ってんなよ!」
サイスが10人くらい倒し、現在同時に4人を相手にしていた。
相当消耗しており、最初の勢いは無くなってしまっている。
「後ろ!」
イブがサイスの後ろから攻撃しようとした敵に矢を放つと、その敵はさっきサイスが倒したと思っていた敵だった。
セントバイト軍の戦士はどんなことをしても敵を倒せればいいのである。
そして、この青の特攻と言うと基本的に、青の属性をもっており、茶に有利なのだが、何らかの力があり、倒れる事が少ないのである。
何度も起き上がっては何度も襲ってくるのだ。
それは、まるで・・・。
「ゾンビだなこの野郎・・・」
とリノアが息を切らせながら、また1体1体と切り倒しながら、そう言うと、5姉妹が縦に頭を振る。
このセントバイト軍をまともに倒すためには、体を完全に切断するか、首を飛ばすしかない。
セントバイト軍のランクBからは、身体に情報操作と組み込んでおり、自然治癒能力があるのである。
「ふぅ・・・だいぶ殺したわね〜・・・」
とファナが言った後に、ファナに向かって一人の男が飛びこんできた。
銀髪の逆毛がとても目立つ男は斧を振り回していた。
ファナは頑張って受け流しているが、衝撃を完全に受け止め切れていない。
「ふん・・・この女がこの中で一番手応えのあると思ったのだがな?」
銀髪の男が斧を次々と攻撃しながら、そう告げると1撃を強く放ち、ファナが剣で受け止めた時、今度は女の子が飛び込んできた。
「なんて多勢に無勢なんだろうな・・・馬鹿じゃない?」
そう言うとクスリと笑い、リボンを前に突き出して男を後に飛ばした。
「イナ・・・か?」
フィルが目の前にいる女性を見て小さい疑問系で問いかけた。
女性はあちゃーと言う気分で右手を額に当てていた。
「ん〜・・・まさかフィルに見つかるなんて・・・」
苦笑しながらフィルを眺めていた。
「それより助けてくれない?フィル」
と小さく笑うと女性の後ろにシルフェンが一匹襲いかかっていた。
その時銃声が響き、シルフェンが後ろに吹き飛び、フィルがニヤリと笑った。
「ふん、気が乗らねぇけど味方だもんな仕方ない。」
その瞬間に全てのシルフェンが走り出し、イナとフィルに襲いかかってきたが、今回はフィルの銃はシルフェンには通用する。
よって2体を同時に相手していても、余裕に笑っていられる。
詠唱を必要とするイナと違い、魔力の玉をそのまま射出することの出来る銃とでは、余裕かそうでないかが一目瞭然である。
イナがこの大人の女性状態では、詠唱をとても短くすることも出来るが、やはりシルフェンの速度では十分に唱えることも出来ない。
ここでフィルがやってきたのは、イナにとっては有利になったと言える。
フィルはイナの前に立ち、イナの詠唱を邪魔の入らない様に阻止と言う感じで、倒しても倒してもきりの無いシルフェンを殺し続けた。
「ふん・・・こんな奴らを良く一人で戦ってたな」
「まぁ、フィルとは違うからよ」
二人の笑顔の会話の後、イナの周り3箇所から大きな青い光の玉が生じ、それから発せられる光線はシルフェンを全て飲み込んでいった。
「やりすぎだ・・・一気に周りの気温下がっただろ」
と少し体を震わせながら、イナに抗議の声を発する。
それに対するイナはもう既に子供モードに戻っていて、いつもと違う点はポニーテールじゃないところだけだ。
「あーはいはい、これからは気を付けるよ〜だ」
と右手で払う様な動作をして3階への扉まで歩いて行き開けようとした・・・がやはり扉は開かなかった。
「その扉ならこの玉を使って開けるんだぜ」
と言ってさっき下の扉を開ける際に使用した玉をイナに見せながら言う。
しかし、扉を見るとさっき下で見たような置ける出っ張りが二つ存在していた。
「で?これ二ついるんじゃないの?」
とまた突っかかる様にイナが睨みつける。
するとフィルは何かを思い出したように振り返り、床を少し注意深く眺めていた。
すぐに見つけたようで、イナがピョンピョンと跳んで行くと、その青色の玉を拾い上げる。
扉の前まで戻ってくると、イナは直感で青色の出っ張りにその玉を置き、眼でフィルに緑の玉を置くように指示した。
イナの直感は当たっており、ゆっくりと3階への扉が開かれた。
「何か気に食わん……」
「何か言った?」
「いいえ……」
「ここが・・・」
「最上階ですね・・・」
テンとサリナが恐る恐る最後の扉を開けて中に入る。
ショウは剣の柄に手を添えて警戒しながら歩いていた。
「フフフフ♪やぁっと来たぁ♪」
少女の声が部屋全体に響く。
どこから響くのかショウ達からは確認する事も出来ない、つまり少女の姿が見えないのである。
少女の声は1人だけじゃなく、数人の少女の声で笑われている。
「ねぇねぇ、私たちに会いにきたんでしょ?
勝負して勝ったらあなた達の望んでる事叶えてあげる。」
と笑ってその姿を現した時、さっきまで開け放たれていた扉が大きな音を立てて閉まった。
「おまえ達がシルフィーか」
ショウの警戒した状態でニヤリと笑って、挑発する様に静かに言った。
「私はアル、長女の剣使いよ」
「うちはタット、次女の槍使いなの」
「あたいはマリー、三女の斧使いだわ」
「僕はデリス、四女の盾使いです」
「・・・・・・」
と順に4人が名乗っていく、が最後の1人はムスッとしていて何もしゃべらなかった。
それをみてタットが慌てた様に、紹介した。
「ええっとぉ、この子はシロちゃんって言って弓使いの五女なの」
「なんて言いますか、個性豊かな神ですね・・・」
「ま・・・まぁたしかに・・・」
と言うサリナとテンが顔を引きつりながら、ぎこちなく笑い顔を見合わせていた。
少女達はクスクス笑ってショウ達をジロジロ見ている。
作品名:Zero field ~唄が楽園に響く刻~ 作家名:異海 豹