Zero field ~唄が楽園に響く刻~
ベッドでゴロゴロとごろ寝を楽しんでいると、目の前に手紙が転送されて顔に乗ったので、渋々内容を読んだと言うわけだ。
ベッドにもう一度、寝ようとした時、空中に魔方陣が現れ、思った以上に早い返事が来た。
「ヴンも好き勝手にワガママに付き合うのはいいんだけど、私を巻き込んでほしくない物ね…。
アートレスタ着たらいっぱい甘い物食べさせてもらわなくちゃ」
そういってベッドに落ちた手紙を取り上げて読む。
「…明日ね〜…まぁ、間に合うわね、昨日の逃したせいでここに5日滞在するのは決まってたし。
しかし〜…創の始、3日になるのね〜…遠いわ〜…」
と言ってベッドに倒れこむ。
ベッドは思いの外もこもこしていて気持ち良いのでクロナは朝起きてからも一度食堂に行ってっきりずっと寝ている。
そして、1日そうして過ごそうと考えていた頃に外から声が聞こえてきた。
「熱くぶつかり合う人と人の思いと体!…か武器!アートレスタ闘技場に響く勝利の雄叫び!…か悲鳴!
誰がこんな熱い戦いを見逃そうか!いや、誰も居まい!居よう者なら皆の笑い者!…の様な!
昼の日が真上にある時間に鐘がなる!…多分、少しずれる!その時に熱いトーナメントが始まるよ!見逃すなよ!…見逃されると俺のギャラ下がるのです!」
と街全ての所で叫んで歩いているであろう男数人だった。
アートレスタには闘技場があり、毎月の29日と言う中途半端な日にトーナメント戦を行うのだ。
以前、船の中でリョウの出た時とほとんど同じルールで行われている。
その様な戦いで人が喜ぶのかと言われると、何故かアートレスタ中は大いに盛り上がる。いや、この世界の人達のほとんどはそれで満足する。
そして、実のところ昨日も聞いたその声にクロナは迷いを見せ始めていた。
「笑い者ってことは…村中の人は見に行ってその話で盛り上がるんだろうから話に乗れないと笑われるわけよね…。
でも…私、木の武器で戦ってるの見て盛り上がれる自信ないなぁ…」
「じゃ、あんたが出てみれば良いじゃん」
と声を掛けるのは窓からパタパタと飛んできた妖精だった。
「人の部屋に勝手に入ってくるなんて失礼な子ね。
大体私が出たら勝っちゃうから出ない」
と言ってゴロンと寝返りを打つと、妖精が窓の枠に座って笑っていた。
「あんたじゃ、うちのご主人には勝てないわね〜」
「あら、心外ね。いいわよ、優勝してあげるわよ?」
そう言ってピョンとベッドから跳ぶと、闘技場に受付をする為に宿屋を出ることにした。
妖精はニコニコ笑いながらクロナの肩に乗ると闘技場まで案内した。
「まだいけます…」
そうサリナが呟くとツイーリは容赦なく2回目の叩き付けを行おうとした時。
「ソーエ…クルーラ…の…血はこんな物じゃ…」
サリナが地面に両手を付いて頭に掛かる力に対抗して押し戻そうとしていた。
それにより、ツイーリの攻撃は不発。そして、一瞬で手を放すと側頭部に蹴りを加える。
地面に転がるサリナだゆっくりと立ち上がる。
「う…ん・ん……ぶふへっ……ぅ…」
その際、吐血をしていた。
ツイーリは地面に転がっている槍を拾い上げると、サリナの喉に向けて思い切り投げる。
今度は引力はないものの、もうサリナにかわせるほどの元気がない。
一部の人間が息を呑む。しかし、二人は声を上げて叫んでいた。
「「サリナ!!」」
その瞬間に、槍を両手で止める。
刃を掴んでいる事は、今のサリナにはもう関係なかった。
血を流しながらも槍を持ち替え、驚いているツイーリに向かって走り出すと、思い切り突きを繰り出した。
「ミラージュ」
その突きも届く事無く、突然現れたツイーリの分身に下からの蹴り上げにより飛ばされてしまった。
そして、一人が槍を拾い上げると、ゆっくりと立ち上がってふら付くサリナ目掛けて投げた。
その狙いは他でもない、首。
もうサリナには受け止める気力もなく、立つのがやっとになっていた。
そして、首を貫こうとする槍は止まった。
「な…!……う………」
「チェックメイト、勝者、ツイーリ・リアーテイント」
審判は棒読みで宣言すると、壁に歩いていくと壁に寄りかかった。
テンが塔の出っ張りから飛び降りると、サリナたち4人のところに走っていく。
「ごめんね〜、ツイーリは精神が不安定なのよ〜」
そう言って気絶させたツイーリを抱きとめているファナが苦笑いをしながらショウに言う。
「いや、俺としては全然気にしてないよ。
どうせ危険になったら全ての戦闘でも割り込むつもりだったからな」
ショウも苦笑を浮かべながらサリナを抱き上げていた。
テンが到着すると、テンが歩きながら治癒術でサリナの怪我を治療していき、血が止まる頃には皆の傍についており、フィルが毛布を敷いていたので、そこに寝かせる。
そして、ツイーリの方にテンが走り寄ると、ツイーリの治療をしていた。
「ん〜…私たちの勝負どうする〜?」
ファナが傍に来たショウに伸びをしながら聞いた。
二人は空を見て大きな鳥がすごい速度で飛び去っていくのを見ると、ゆらゆら降りてくる5つの影を眺めながら。
「出来れば今度にしてほしいんだけど、塔に通してくれないか?」
「えぇ、ここは私たちに任せてくれれば抑えとくわよ」
「そうか、助かる……俺の知っている中で二番目に良い奴だな、ファナは」
「あら、1番じゃないんだ〜、あの子の優しさに負けるってことね〜…それはとっても残念ねぇ〜」
ファナは苦笑してツイーリの治療をしているテンを羨ましそうに眺めていた。
「うん、うん、分かった」
そう言ってさっき縫い合わせた服の縫い目に両手を添え、集中して魔力を丁寧に送っているイブ。
それをスカートを縫い合わせながら見守るイナの顔は微笑んでいる。
縫い目が徐々に無くなり、元と何にも変わらない服に戻った。
「おぉ、できましたよ、イナ」
顔は無表情だが喜んだ様子のイブは服を持ち上げていろんな角度から服を見ている。
さっきまで至る所に残っていた、縫い合わせた時に出来ていた縫い目は、跡形も無くなくなっているのだ。
「うん、上出来、上出来」
ニッコリ笑って不思議そうに服を見つめているイブを眺めていた。
この技術は一部の服屋や鍛冶屋、女性、ほとんどの旅人が知っているのだが、これは全ての服屋に売っている縫い合わせのための布と糸を使って出来る。
魔力を注ぐ事でもとの服に馴染む特別な布と糸で、旅人のほとんどは出来る為、旅人は裁縫が出来なければなれないと言われている。
「イナー!」
イナはイブの姿を見て和んでいたが叫び声がそれを許さなかった。
イナは少し諦めた様子でリノアを見ると、リノアは縫い合わせるのにすごく苦戦していた。
ついでにここは、塔の横にちょこんと建っているリアーテイント宅である。
イブは以前に買って破れてしまっていた服を縫い合わせていたのだ。既に脱衣所に行き着替えに行ったようだ。
普段は家のそこいらで着替えるのだが、変態がフォミニンと一緒にイチャ付きながら裁縫をしているのでワザワザ移動したのだ。
「リノアは無理だから辞めなよって言ったじゃん」
「や、やって見ないと分からないでしょ!」
「それでこれなんだから、どう言われたって文句言わないでよ…」
作品名:Zero field ~唄が楽園に響く刻~ 作家名:異海 豹