Zero field ~唄が楽園に響く刻~
14唱、響き渡った裂ける音
「お知らせと言うのは、ガーディエッツが滅びたのはアルセートレートとの戦争による物ではございません。」
「ほう、では今私らがアルセントレートとの戦争を起こそうとしているのは間違っていると?カルタイムの王女よ」
桃色髪の少女は背筋を伸ばして立ち、クラウンを被っている如何にも子供っぽい姿の現国王が王座に座って笑いながら問う。
少女は迷わずに頭を縦に振ると、胸に手を当てて宣言した。
「もし、アルセントレート側からの攻撃があれば私が、抑えて見せますわ」
子供の国王…王子は見下すような目付きになり、少女を睨むと、座っていたイスから一気に跳んで少女の後ろまで行くと。
「ついて来い、お前の言っている事は既に情報屋のボケどもから聞き及んでいる。
しかし、アルセントレートが信じようとせず、こっちを攻めようとしていると言うのも事実だ。
だから私らは攻撃されても反撃できるように、対策を立てていたというわけだ。」
そういって歩きながら後ろに付いてきている少女に話している。
王室を抜けて右に通路を進んで扉を2つ過ぎ、3つ目の封印の施されている扉の前に止まり、少女に向き直り扉に手を付いた。
「どうも、情報屋のボケどもによると、神玉の開放を行っている希望の欠片が居るようだ。
そこで、カルタイムの娘よ、お前に他国の王であるが命令を下す。」
「はい、私に出来る事なら何でもしますわ」
そうか、と言って国王が頷くと扉に力を入れ、扉の封印が解かれゆっくりと開いた。
そこには、緑と黄色のまだらが禍々しく輝いている。
その光は封印されていた部屋の全体を照らしていた。
「お前の持っている神玉とこの神玉その希望の欠片とやらに渡しに行ってくれ、そして、アルセートレートを抑えてきてくれ」
「…はい」
「これ長く持たないんで一気に行きますよ」
と言ってツイーリの二人を指差すと、クモの口からおぞましい色の光線が放たれた。
クモの口は唾液でベットリしていて、気持ち悪いの域に達するだろう。
槍を持っているツイーリが槍を両手でグルグル前で回すと魔力の壁ができ、それでおぞましい色の光線を抑えている。
が、それにより、横の方に飛ぶ光線が地面にぶつかると、地面は音を立てて腐っていく。
槍を持っていないツイーリはと言うと詠唱をしている、クモの体があらわになった所ぐらいから唱え始めていた。
クモの唾液がベットリとサリナのちょっと後ろの地面に落ちると、そこが音を立てながら溶けていく。
それでも気にしないように不適に笑っているサリナは、少し不満そうな声を上げた。
「デーモンアイ、もうちょっと強力にお願いします」
「でもさ、サリナやりすぎな気がするんだけど…死んじまうんじゃないか?」
とサリナの肩に座るエイトが苦笑して言うと、サリナはちょっと考えるように顎に手を当てた時、後ろの大きなクモの頭からお尻の方まで何かがぶち抜いてクモの体が飛び散った。
サリナとエイトがポカーンと上を眺めていると、クモの体液や体の欠片が落ちてくる。
魔力体と言えども、ちゃんと消滅するまで本物と同じ性質の体なので、本物と同じように体液で溶けてしまう様だ。
サリナとエイトはポカーンとしたままそれをかわし切ってツイーリの方を見た。
すると、槍を持っていない方のツイーリの前方に青い光が微かに残っていた。
「ウソ…デーモンアイの魔力を押し退けるほどのブルーレイ…?!」
とサリナが驚いていると、隣に槍を持っている方のツイーリが居ない事に気付いた。
エイトが気付いて指差した先には槍を投げる構えで立っている。そして、サリナが振り向くと同時に槍はすごいスピードで飛んできた。
エイトはかわそうとしたが吸い込まれるように槍の餌食となり一瞬で消滅し、そのまま直進する槍はサリナの腹部を狙っていた。
サリナが横に跳んでかわそうとすると、槍の通る道筋に吸い込まれるように体が引き寄せられる。
そして、槍が通るすぐ前に異常なほどの引力によりかわし切れずに腹部を掠った。
「セカンドアーツ・グラビテース」
槍の行き着く先に、もう一人のツイーリが居り、槍を掴んだかと思うとすぐにまた槍を構える。
そうやって何度か槍が往復して、かすり傷を作っていく。
サリナはどういう仕組みなのかを察したらしく、とうとうグローブから糸を出すと、体に巻きつけた。
そして、眼を閉じると、何かを口ずさみ始めた。
「フィールド…させない!」
と言ってツイーリがまた槍を投げる。
眼を一気に開いたサリナはできる限り横にずれると糸の先を地面に突き刺す。そして、また眼を閉じる。
一瞬の異常な引力が発生しても、糸を体中に巻きつけている事により、持ち堪える事はできたが、糸が必要以上に食い込んで切れたところもあったが、サリナはそれでも眼を閉じたままだ。
ツイーリは構う事無くまた次を投げると、サリナは眼を開けるだけで飛んでくる槍に背を向けている。
そして、槍が近づいた瞬間に槍は、突然起こった竜巻によって軌道がぶれてしまい、サリナの右側に飛んでいってしまう。
ツイーリは何とかそれを掴むともう一度投げた。
すると、サリナは糸を解いて槍に向き直ると、槍を包み込むように糸を渦状に広げてゆく。そして、槍が速度を失い槍を空中に留めると、サリナが槍を手に取る。
その瞬間後ろから攻撃を受けようとしていたが、またフィールドが発動したためツイーリは上空に打ち上げられていた。
サリナはそのツイーリ目掛けて槍を思い切り投げる。
「本物は初めに槍を持っていた貴方です!」
そして、槍に引き寄せられるようにして腹部に槍が突き刺さるとツイーリは消滅した。
「貴方ってそんなに頭が回らないのですね。」
そう言って、サリナの後頭部を右腕で掴むとそのまま地面に叩き付けた。
「槍が抑え込まれ、魔法も属性的に不利、フィールドが張られれば直接攻撃がし辛い。
それでも、もうそろそろ貴方の魔力に限界が来ていた事くらい分かるんですよ?
あの馬鹿でかいイノセント(怪虫型)に過信しすぎですよ」
サリナの頭を押し付けたまま捲くし立てると、ツイーリはまた頭を持ち上げるともう一度叩きつけようとした。
「やばいわね…壊れかけてる…」
そう呟いたのはファナだ。
フィルがその言葉に反応した。
「壊れかけてるってどう言う事だ?」
「ツイーリはね、いつもミラージュで分身を使って戦うんだけど。
いつも片割れ消えると壊れるのよ…理由は、魔力不足。
下手したら本気で殺されかねないわ…。ここで勝負を終わらせた方が良いわ」
そう珍しく真剣な顔をしてファナが見つめる。しかし、審判は首を横に振る。
そして、ショウが下りてくると一言だけ告げた。
「この勝負もうちょっと様子を見てみよう。」
「…あの子何してるのかしら…」
そういって手紙を眺めているクロナ。
それに添えられていた1輪の綺麗な花を手で弄びながら、紙とペンを出すと、思い出したように部屋を出た。
しかし、思いとどまってから部屋に引き返すとつらつらと返事を書き出した。
床に魔方陣を書き、返事を送る。すると、床に書いていた魔方陣が跡形もなく消える。
クロナが今いるところはアートレスタの宿屋にいた。
作品名:Zero field ~唄が楽園に響く刻~ 作家名:異海 豹