Zero field ~唄が楽園に響く刻~
「あぁもう!こうなったら!」
いくつも傷を作っていたイナは舌打ちをして叫ぶと、斧をもう1度しゃがんでかわしたかと思うと、斧が上に来た瞬間に左腕を回転する斧の中心に突っ込んだ。
そして、そのまま斧の柄を掴む。が、回転しており手がその回転につられてしまい、腕を練り手が離れてしまい次の斧が襲い掛かってくる。
その後もイナは傷を増やしていきながらもその行動と繰り返していると、斧の速度と回転速度はとても遅くなっていた。
「!?」
それに遅れて気付いたリノアがもう一度投げるために自分の方に斧を誘導しようとした時に、2つの斧がイナの方に跳んでいった。
イナはナイフをいくつも魔力の糸で繋げ鞭の様にして、2つの斧を捕らえ引き寄せたのである。
そして、2つの斧を手に持つと、偽者の斧が形を失い消滅する。
斧を片手に持って引きずり、イナが不適に笑みを浮かべて告げる。
「面白いもの、見せてあげるよ」
その後リノアは、さっきまでイナにしていた斧での攻撃を身を持って無数の斧によって思い知らされた。
それはまさしく、「斧地獄」だった。
「あんまはしゃぐなよ」
茶髪の長髪を風になびかせて崖から数十メートル離れたところに、メガネの男が腰に手を当ててため息なんかついている。
男の視線の先には、クリクリにロールを巻いた青髪の女の子が、崖の近くに立ち水平線を眺めながら風を全身で感じるために両手を広げていた。
「来るのは楽でも帰るのは疲れるんだから、もうちょっと有効に使えよな」
「いいの、エイナーはここに来たかったの」
振り返って笑う女の子はとても楽しそうだった。
男は肩をすくめてみたが、自分の今の状況を思い出して、吹き出してしまった。
「ちょっと、何笑ってるの〜?エイナー変な事言った?」
「いや、言ってね〜よ、ただお前のワガママに付き合ってイーグル使ってここまで来た俺に笑ったんだよ」
と片手を左右に振りながら苦笑している。
イーグルとはセントバイトの所有するラストビースト(超獣型)の大きな鳥の魔物で、
乗り物(最高100人前後乗れる)として利用されており、世界に2体のみ存在し、どちらもセントバイトが所属している。
着陸はセントバイト城の頂上でしかできないため、イーグルから降りる時はイーグルの羽(最高20人乗れる)を使ってゆっくり降りてくる。
その為帰りは自力になるのである。
「ここサザードだから…あ〜、アルセントレートのアートレスタ行ってそこから船乗って…
オクトリクスから2つ村越えてやっとセントバイトかよ〜…遠いなぁ」
と財布と睨めっこしながら帰りの道筋を思い出している男が愚痴る。
「クロナも来てるって行ってたよね?
それじゃ、手紙転送して一緒に帰るように言おうよ。」
とエイナーが笑顔で名案と言わんばかりのセリフを言う。
男は少し考えた後、魔方陣を書き出した。
セントバイトは魔方陣、呪文、文様の技術が発展しているため、魔方陣を描いてあらかじめ登録している相手に一瞬で手紙を送る事が出来る。
まだ転送技術は手紙大の物しかできないため人の転送は出来ないのだ。
ちなみに、この技術は遥か昔に禁忌として封印されていた技術で、グランド・エーデンの手によりその封印が解かれてからセントバイトはそれを研究し続けている。
その中に情報操作があるため禁忌とされていたのだが、それすらも国は研究を続けている。
エイナーは男が魔方陣を描き出してから手紙を書き出していた。
(俺の出費増えるだけなんだが…)
と心の中で呟きながら魔方陣を描いていた。
「第4戦、番人次女のツイーリ・リアーテイント、ガーディエッツ国第1王女のサリナ・セカルズ・ソーエクルーラ」
もう審判に疲れたショウは神殿とは名ばかりの塔じみた神殿の出っ張りに座っていた。
代わりの審判のリョウが棒読みで言う。
「ソーエクルーラ4代目…お手並み拝見と致しましょう」
「余裕ですね…さて、その強気がどこまで通じるでしょう?」
腕を組んで冷淡な声で睨みつけて言うツイーリと、いつでも戦えると言わんばかりに準備万端のサリナが浅く笑う。
リョウは二人の準備ができた事を確認すると、刀を構えて上に放り投げた。
刀はクルクルと緩く回って地面に落ちていく。
皆はそれが落ちるのをじっと待っており、落ちるまで沈黙していた。
刀の突き刺さる音とほぼ同時に、二人とも前に走り出した。
ツイーリの初めの突きの攻撃を鮮やかにかわすと、顔面に向かって右足のけりを繰り出した。が、それも簡単にかわされて、ツイーリがその足を掴もうとした時、
「エイト!」
サリナの叫びと共に左手のグローブの手の平に描かれている召喚文字から勢いよくツイーリの腹部に何かが飛んでいった。
ツイーリはそれを諸に食らい、押し戻され、それを何とか踏ん張る。
「召喚術…それにそれは…」
ツイーリが顔を少し歪めてそう言うと、サリナは召喚した精霊を肩に乗せると、嬉しそうに告げる
「これは、子供の頃からずっと一緒に居た私の親友のフェアリー(妖精)のエイトよ」
エイトはサリナの肩に座っても耳のところくらいに頭が来る小さな妖精で、姿は緑のとんがり帽子を被ってトンボのような羽を4つ持った金髪でロングの男の子である。
エイトがニッコリと女の子の様に笑うと、サリナの肩から離れた。そして、剣を呼び出すとそれをブラ〜ンと下にたらしている。
その剣はどう考えても人が使う大きさの剣である。
「サモナー(召喚術士)とオーライト(防壁術士)の間に生まれた姫、少し侮りすぎました」
ツイーリがそう呟くと、槍を構えなおし、深呼吸を1度してサリナを睨む。
サリナはそれを睨み返すとエイトが先に動き、ツイーリに剣を振り下ろす。
かわしてからサリナに走り出すと、高速突きを連続で切り出す。
かわしきれずにかすり傷を作りながらも、ツイーリの懐に潜り込むと肘を腹部に打ち込むと、ツイーリに命中した。
と思うと横から膝蹴りを食らって数メートル飛ばされる。エイトが心配そうにサリナの傍に行く。
「…いつ魔法を…?それにその魔法は…」
サリナが疑問を二人のツイーリに投げかけた。
「「私達姉妹の色が全て緑だと思っていては困ります。
私は青、水の氷です。」」
1秒もずれる事無く一緒に声を出す槍を持ったツイーリと、槍を持っていないツイーリが見下すように言う。
そして、質問の答えを続ける。
「「聞いた事くらいあるでしょう、記憶詠唱」」
それを聞いてサリナが眉を動かした。
「あの、事前に唱える事でいつでも発動できるようにできる…伝説の…?」
「「そうです、私は普段から5つ記憶していますが、発動する際に魔力をゴッソリ消費してしまうので好きではないのですけれど」」
とため息をつく、そこで遠くから鳥の鳴き声がしたような気がした。
そして、ゆっくりとサリナが立ち上がると、エイトを撫でてから構える。
「「それでもまだ糸を出さずに戦うのですね。
それだけ余裕と言う意思表示として受け取っておきます。」」
そういって睨むと二人は左右に分かれてサリナを挟むようにして右と左に立った。
サリナが槍を持っていない方に走り出し、エイトが槍の持っている方に突っ込んだ。
作品名:Zero field ~唄が楽園に響く刻~ 作家名:異海 豹