Zero field ~唄が楽園に響く刻~
イナのものは、魔力具現:物質複製と魔力コントロール:追跡を使った技で、詠唱を必要としないが。
それに対し、リノアの使った魔法:風の刃、サイクロンは詠唱を必要とする代わりに威力が高く、必要とする魔力が少なくて済むのだ。
さらに、詠唱は使う者によって長さが違い、使う武器によってはさらに短くする事もできる。
リノアの使った魔法は、下位の魔法で竜巻を起こして吹き飛ばし体制を崩すだけなので、詠唱が短く斧で軽い手助けをする事でほとんど詠唱しているようには思えなかった。
イナがうまく着地した時にはリノアは新たに詠唱をし始めていた。
連続詠唱である、魔法を連続で唱える事で、次の詠唱を短くでき、上級の者なら、相当短くする事ができる。
「立て続けに悪いね、短気だから。スラッシュトレイン」
さっきよりやや長い詠唱を終えてリノアは冗談交じりに斧を横に振り、その斬撃が魔力で強力になり飛んで行き、幾つも傾いて連なって行く。
「だから、遠距離多いんだよぉ!」
と言って、右手のナイフに魔力を込めて剣を作り、魔力の刃を受け止め、それとほぼ同時に詠唱を始めた。
魔力の刃がイナによって完全に押さえ込まれ消えたと同時に、
「面白い事してあげるよ!シャワーズアイス」
ニヤッと笑ったイナが右手で振り払う様にして、静かに告げると、リノアは上を向いて驚いたように叫ぶ。
「中位の氷魔法?!」
「ざ〜んね〜ん」
しかし、不敵な笑いを浮かべて面白そうに言う。
すると、リノアの警戒していた上には何も変化は無く、変化があったのは下だ。
「な!?」
下から幾つかの氷柱が上に向かって飛んでいく、普通この魔法は上からのものが多い、しかし、一部で横からやデタラメな方向からに対象に向かって飛ばす事ができる。
魔法は同じ魔法でも効果が変わる事が少なくはない、術者と使う武器で一つの魔法がいくつもの種類を持つ。
基本に囚われたリノアは見事にイナの策略にはまり、リノアのスカートが翻った。
「白」
冷静に顎に手を当ててサイスが言うと、後ろからイブとツイーリに思い切り殴られた。
フォミニンはサイスにベッタリくっ付いている。
「イナってよくよく考えると近・中距離が得意なんだよな、普段中距離ばっかだけど」
とショウが思い出す様にそんな事を言う。
「イナって結構なんでもできるよね?魔法と物質複製に、追跡、剣術、料理とか」
「あんな小さな体のどこにそんな力があるのかな〜?」
「それより、あの魔力の量と魔力コントロールの高さ、そして、ポニーテールが気になります」
「お前ら・・・どうされたい?」
テンがショウの上、つまり肩車している状況で、遠くを見るように手を目の上にかざしながら感心したように言い。
続いて、右腕をガッリチと固めて腕に抱きついているファナが小さな疑問程度にショウに少しうるんだ上目遣いで訴え。
サリナが反対の左をホールドして、真剣に観察していて。
ショウは深いため息と共に3人に尋ねると。
「「「エッチ」」」
3人の同時に発せられた言葉に首をうなだれた。
「ショウ・・・うらやましいなぁ〜」
フィルの下心丸出しのセリフにリョウが鼻で笑った。
「エロジジイ」
「いつになったら着くのですかね?」
「2日で着くはずだ」
「出発してから既に4日経おりますのぉ…そろそろ食料も限界ですな?」
「文句あるなら降りるといいだろう」
と命令を受けてから5日目の神の終、29、緑。
腕を組んむ目付きの悪い銀髪の逆毛の男と兜を外している60代ほどの白髭の隊長らしき人物がイーグルの頭を眺めながら会話していた。
実のところ、銀髪の男は2回目的地を間違えており、ずっと空を漂っているのである。
「サザード(大陸)とは西にあると聞いて、しっかり西を指示したのだが」
「それがまさか、西北のキルイント(大陸)に着き、南を指示したと思えば、キルインとの離れ小島に行き。
現在やっと塔を目指していると言うわけじゃの」
ため息をつく男に隊長は笑いながら、イーグルの頭の上に向かって歩いていった。
「あんた!よくも!服がズタズタになったでしょ!」
とリノアが怒る、思ったより服がズタズタになっており、顔を紅く染めていたりもする。
そんな事は旅をしているショウ達にはよくあることで、歩きながらや夜寝る前に縫い合わせる事など普通だが。
ここで番人をしていて、その場からあまり動かないリノア達にして言わせれば、服は貴重なのだ。
魔物が襲ってきたとしても、リノア達はここらの魔物に後れを取る事があるはずがない。
「はいはい、後できちんと縫い目の見えないように縫い直してあげるから」
などとどうでもよさ気にため息を付くイナ。そして、また魔法の詠唱をし始めた。
「させないよ!サイクロン!」
吹き飛ばして集中力を切らせる作戦に出たリノアは、最初に使った魔法を唱えた。
大きな竜巻がイナを吹き飛ばそうとイナに接近してゆく。
強い風でポニーテールとマフラー、そしてリボンが強くなびく、がイナの体はさっきは飛ばされていたにもかかわらず、今回は平然と立っていた。
「まさか、魔力緩和?!」
「うん、ブルーレイ!」
驚いて叫ぶリノアに笑顔で答えると、詠唱を完了し、左手の人差し指でマリーを指差した。
すると、イナの頭上に青い光の球体が現れ、リノア目掛けてリノアよりも何倍も大きい光線が放たれ、リノアは光に包まれてしまった。
「魔力緩和、詠唱中敵からの魔法の威力を減少させ、集中力が乱れないようにする魔法詠唱スキル。
上級者で半減近くできるが、普通より詠唱が長くなってしまう欠点を持つ」
審判は、そう言うと、リノアの方を眺めていた。審判はとても動き辛そうに顔をしかめている。
光が消え、上位魔法を受けたリノアの体は冷え切っており、さっきまで光が照らしていたところから白い湯気のようなものが立ち上っている。
リノアは体を震わせて立っていたが、そこで急に風向きが変わり、周りの空気がリノアに向かって吸い込まれるようになっていた。
「セカンドアーツ、ダブルアクス」
そう呟くと、片手に持っていた斧に両手で持ち、魔力を込めたかと思うと、斧は2つになった。
「お〜、残像幻影とうとう使っちゃうんだ〜」
「あの、魔力具現のか・・・。
確か、とても少ない魔力で幻影を作り出し、本物と偽物をいつでも入れ替える事のできるスキルか・・・欠点は確か・・・」
「幻影を1つしか作れなくって、偽物の方はただの魔力具現と変わらない、欠点の少ない分地味なスキルですね」
と言うファナとショウ、サリナの3人の会話を審判の上で子守歌にしているテンがいた。
「へ〜、魔力具現でもそこらに売ってる剣以上の鋭さはあるみたいだね〜」
と暢気に笑っているイナを、リノアは歯を食いしばって睨みつけていた。
イナが深いため息を吐くと、リノアは一気に走り出した。
リノアは途中で回転するとそのまま斧を1つ投げ、もう1回転してもう片方の斧を投げた。
1つ目を難なく跳んでかわし、もう1つをしゃがんでかわすと、左から1つ目の斧が襲い掛かり、後ろに跳び左肩を掠る。
その後も速度を落とす事無く、2つの斧は何度も何度もイナに襲い掛かっていく。
リノアの魔力コントロールにより、斧が自由自在に軌道を変えて襲い続けているのである。
作品名:Zero field ~唄が楽園に響く刻~ 作家名:異海 豹