Zero field ~唄が楽園に響く刻~
13唱、風の伝える綺麗な音色
「空に手を伸ばして…」
(魔物の大きな声で騒がしい闇に落ちた夜の中に、一つの透き通る声が水面に生まれた波紋のように騒がしい夜に浸透いく。)
「…悲しくなっていたとしても…日の光に照らされた時…」
(魔物の声は止む事を知らないようにどんどん大きくなってくる。
それでも聞こえてくる、彼の唄(ことば)。
この魔物が騒ぎ暴れる中で、私は彼の唄が完成するのを持ち堪えるだけ。)
「夢を見ていいと思えた…」
(今まで雲ひとつなかった空の様子が一変した。
青く、蒼く、とても神秘的な波紋を空に浮かべて、その青は広がっていく。
その風景につい言葉が漏れた。)
「綺麗・・・」
「飲み込め!パージサファイア」
空が一瞬光ると空から1本の蒼い光が大きな魔物に落ちた。
その瞬間に、蒼い波が当たりに広かると、さっきまで騒がしかった声が全て止み、周りの木々は一瞬で焼き払われ、魔物の動きが止まった。
最後にピィンと言う音と共に魔物たちは蒼い光の玉と化して一瞬で小さくなり石となっていった。
さっきまで手足を完全に縛られて動けなかった少年は、右腕を左手で抑えながら立っていた。
一人の少年が一番大きかった魔物の石を手に取り、握って握り潰した。いや、自然に砕け散っていったのだ。
そして、他の石も順に砕けていき、破片が辺り一面に散らばっていく。
何も無かったかの様に木々が急に成長してゆく、辺りは少年達が来る時よりも木々が生い茂り、綺麗になってしまった。
「コレが世界の意思、魔導律・・・」
少年は消え入りそうな声で呟くと、崩れるように倒れてしまった。それを優しく抱えてどこかに行こうとする少女はどこか切なそうに顔をしかめていた。
「第3戦、番人三女のリノア・リアーテイント、Generetorのイナフラワー・テミスミン」
ショウは何気に剣を投げてどれほど回転させられるか、と言うのにはまっていて審判を他の人物に譲る気がないようだ。
「ふん、ガキが相手なんてずいぶんと舐められてるわねぇ、あ・た・し」
「ガキ舐めてるとぶち殺すよ〜」
苛立って斧を肩でトントンしているリノアがいかにも不機嫌そうな表情を浮かべて言うのに対して、ニッコリ笑顔で腰に手を当てたイナが答える。
ショウは今度こそいい勝負が見れるだろうと、期待に胸を膨らませて剣を思い切り構えて、空に放り投げようとした。
「あ、ちょっといいか?審判」
剣が手から離れようとしたのをギュッと掴んで、投げるのを中断した。
すると、ショウは剣を空に掲げるような姿勢になってしまい、行き場を失った右腕は思い切り振り落とされ、剣を遥か遠くにある木にめがけて投げていた。
「はぁ・・・なんだ?」
深呼吸してからリノアに向き直る。
リノアは投げられた剣の行く先を見て少し固まっていた。
「・・・え、いや、なんだあたしの技は範囲大きいから気をつけてくれって言おうと思っていただけよ」
リノアはオロオロしながらショウにそう告げると、返事の代わりにジッと睨んで返す。
リノアはヒィッと小さい悲鳴めいたものを上げてビクリとしてしまった。そして、審判がめんどくさいと言わんばかりに人差し指で遥か遠くの木を指し示す。
「あの木が倒れたら勝負開始な」
皆がその木を見ると今にも倒れそうになっており、皆は目を疑った。
その木は歩いてすぐに着く様な距離ではないし、その木もそんなに小さくない、人2人でやっと手が回せるほどある。
それが今1本の剣によって倒されようとしていた。
ドシィン…
その瞬間に勝負が始まり、二人が動き出した。
「ふん、これが俺の楽しみにしていた気持ちと、言い知れない怒りと力の結果だ。」
とショウが自信満々に腕を組んで薄笑いを浮かべて言う。
「あぅ・・・私の剣〜・・・」
勝負の開始の合図に使われている剣はファナの物で、ファナがウルウルした瞳でショウにそう訴える。
目を泳がせて苦笑するショウにテンが頭に手刀を食らわせる。
「とう」
「あた」
「取ってきなさい」
「めんどくさい・・・・・・りょ、了解」
テンに命令されてショウは初め拒否したものの、胸倉を捕まれて承諾した。
ショウは、しぶしぶ遥か遠くの木に向かって歩き始めた。しかし、イナとリノアのすごいやり合いを避けるつもりは無く、一直線に進んでいく。
「「「「「「「え?」」」」」」」
戦闘に夢中になっているイナとリノア、そして、テンとリョウを除いた全ての人が声を揃えて驚いた。
目の前で起こった一瞬の出来事に皆は驚いていた。
ショウはイナとリノアの戦っていて攻撃範囲に入りそうになる所で、前に少しかがんだかと思うと、一瞬で向こう側のイナとリノアの攻撃の圏外で歩いていたのだ。
テンとリョウはまるでそれがショウの当たり前と言わんばかりに驚く事はなかった。
ショウはまた同じ動作で何も無かったように戻ってきてファナに剣を渡した。
「あ…ありがと…」
木が倒れる音と共に二人は地面を蹴った。
イナは後ろに跳んで距離をとりながらいつも通りナイフで攻撃するつもりだった。が、斧のリノアがイナと同じように後ろに跳ぶとは思っていなかった。
その時点でイナのナイフが届くか分からない距離になってしまう。
物体複製、これは基本的に、魔力を維持していなければ消滅してしまう、そして、遠くに物ほど魔力を維持するのが苦しくなるのは自然の事だ。
物質複製と魔力具現の違いは、魔力を消費し続けるか、否かで、魔力具現の上級術となる。
テンや、イブの使う特殊な弓の矢は魔力具現なのだが、それを打ち出し、
さらに魔力を消費、維持しなくてもいいようになるには、物質複製とは違う術系になって、一度進むと別の術系は使えない。
欠点は、物体が手元にないと複製できず、複製するものが大きいとそれだけ多くの魔力を使い、
1の大きさの物と2の大きさの物でも魔力消費量は倍以上になってしまう。
イナはリノアの攻撃が届かないだろうと思っていたが、
リノアは柄が腕ほどしかない長さのでかい刃を持った斧を使うのだが、その斧を持ってグルグル回ってからイナに向けて投げた。
斧は大きくカーブを描いて確実にイナを狙っていた。
「ちょ、この姉妹遠距離攻撃多過ぎ!!」
イナがやけくそになった様に叫ぶと、ナイフを自分の周りに球状に作り出し完全に見えなくなる。
斧が勢いよくナイフの球に当たり、その勢いでナイフの球は飛ばされて転がっていってしまう。
少し転がってからナイフがスパイクの役割をするために刃が立ち、しばらくするとピタリと止まる。
その頃斧はと言うと、大きなカーブの起動がずれる事無く、そのままリノアの元に戻っていた。
イナが球を解除してちょっとふらつく足でリノアに走り出す、少し目が回っているが怪我を負ってはいない。
「行くよ!ナイフスペシャル!」
と言って、走りながら右手に持ったナイフを全く同じものを、空中にいくつも作るとドンドン投げていく、それに対し、リノアは斧を両手に持って構えると、目を閉じて詠唱し、
「甘いよ、サイクロン!」
斧を扇の様に横に扇ぐとリノアの前に大きな竜巻が起こり、イナのナイフと共にイナ本人さえも高く吹き飛ばされた。
リノアは魔法を使ったのだ。
イナの攻撃と、さっきのリノアの魔法とでは決定的に違う事が幾つかある。
作品名:Zero field ~唄が楽園に響く刻~ 作家名:異海 豹